表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

距離感

『君には迷惑かける事になるから、最大限の便宜は図らせてもらうよ』

雄也さんは申し訳なさろうな表情でそう告げると、今回の計画についての詳細を教えてくれた。


この世界に来てからまだたったの1週間。

されど1週間だ。


ぼんやり過ごしてればあっと言う間に過ぎ去ってしまう時間だけど

いきなり見ず知らずの場所に放り出された人達にとっては、そうじゃなかったみたいだ。


考え、悩み、行動する。

さらにコミュニティボードなんて情報共有ツールまで標準装備されちゃってるから、そりゃもう目まぐるしい速度で状況が変わってるみたいだ。


良い意味でも。

――そして悪い意味でもね。



雄也さんの話によると、桃花さんを引き抜こうとしてるヤツらってかなり強引で悪質らしく

今のところ辛うじて交渉 (物理)を受けたことはないらしいけど、それも時間の問題だと雄也さんは考えてるらしい。


というわけで僕は今

夜逃げのお誘いを受けているまっ最中だった。


「今夜にも夜逃げしたいと思ってるんだけど、どうかな?」

困ったような表情の雄也さんに遠慮がちに尋ねられ、僕は小さな声で返事した。


「それはまた、えらく急なお話ですね」

「うん。涼太君には悪いんだけど、あんまり悠長な事も言ってられなくてさ」


うーん……状況はかなり深刻そうだ。苦々しい表情の雄也さんの顔を見てそう判断する。


これは相当困ってそうだな。

不本意ながらも協力するって約束しちゃった以上はベストを尽くさないとね。


「わかりました。今夜は特に用事もないですから大丈夫ですよ」

僕が了承すると、雄也さんはあからさまなくらいホッとした表情になった。


「助かるよ」

「いえいえ、協力するって約束しちゃいましたしね。

でも夜逃げって逆に危なかったりしませんか?」


人目を避けたいのは分かるけど

闇討ちでもされようものなら本末転倒もいいところだ。


「ああ、その辺は大丈夫だよ。人目さえ避けれれば後はどうにでもなるんだ。

桃花は『そういう』危険を回避するギフトを持ってるんだ」


ああ、なるほど。

『そういう』理由で桃花さんは狙われてるってことなのか。


桃花さんの持つ『有用なギフト』の効果を、なんとなく想像しながら僕は頷いた。


「分かりました。

『そういう』事でしたら夜逃げ大いに結構です。お付き合いしますよ」

「……ホント、毎度毎度察しがよくて感服するよ。

念のため説明しとくと【警戒】っていうギフトでね。敵意のあるモノが寄ってくると頭に警報が鳴るギフトなんだよね。

敵のいる場所が近ければ近いほど警報の音も大きくなるし、ちゃんと敵のいる方向から音が響くようになってるんだ。」


そりゃまた便利そうなギフトだなぁ。

予想していた以上の便利さに、僕は素直に感心した。


何らかの方法で敵の居場所が分かるようなギフトだとは思ったんだけど音で知らせるギフトだったのか。

しかも接敵すれば自動で警報が鳴るってことは、四六時中周囲の気配を探らなくてもいいからスゴく楽そうだ。


つまり【警戒】ギフト持ちがいれば、木陰からの奇襲も、背後からの強襲も事前に察知できちゃうのか。

そりゃ確かに魔物退治にも、夜逃げにも『有用な』ギフトだこと……。


神妙な顔で頷いてると、雄也さんがさらに追加説明を続ける。

「さらに言うと、桃花の場合【心話】ギフトも持ってるからさらに希少価値が上がっちゃってるんだ。

【心話】は頭で考えてる事を言葉を使わずに伝えるギフトなんだけど

これを使えば【警戒】ギフトで聞こえた警報をパーティーメンバー全員に伝えることができるんだ」

「つまり、パーティーメンバー全員の頭の中で警報が鳴り響くってことですか?」

「うん。そうなるね。

【警戒】ギフト持ちが万が一警報に気がつかなかった時でも

【心話】で警報を共有してるから、他のメンバーが気がつくって感じだね」


そ、それは狙われるわけだ。

言うなれば超高性能なエネミーレーダーを搭載してるようなもんだもんね。


それに自分の命がかかってるんだから

『他人が察知したものを教えてもらう』よりも『自分で察知できる』方が何倍も安心できる。

便利なんて言葉で片付けられないくらい【警戒】と【心話】のコンボは強烈だよね。


「だけど、貴重なギフト枠を2個も消費しちゃうから所持してる人はほとんどいなくてね。

しかもここじゃモンスターの不意打ちで死んじゃえばそれまでだから、需要は高まる一方なんだよ」

「なるほど。そりゃ貴重なわけですね」

改めて桃花さんの持つギフトの重要性を認識してると、雄也さんにからかうような口調で指摘された。


「まぁ、貴重って言えば涼太君のギフトの方が遥かに希少価値が高いんだけどね。

君の存在が世に知れたら桃花どころの騒ぎじゃなくなると思うよ。

俺なら桃花なんてほっぽっといて、死に物狂いで君を追いかけるね」


なにそれ怖い。

死に物狂いという言葉に、拉致された時の思い出がフラッシュバックする。

一人でワナワナ震えてると、さらに雄也さんが続ける。


「俺としては今回の歌唱依頼が終わった段階でキチンとレポートにまとめてコミュニティボードで報告して欲しかったんだけど、状況が状況だからねぇ……。

君のギフトの件に関してはしばらく伏せておく方が賢明だと思うよ」


ああ、そういえばそんな話もしてましたねー……。

つい一昨日の話のはずなのに、遠い昔の話のように感じるよ……。

激動すぎるだろ。この世界……。


「【心話】や【警戒】でこれだけの大騒ぎになるからね。君のギフトについてはさらに慎重になる必要があると思うんだよ。

今のところ知ってるのは俺だけでしょ?あ、これから3人で暮らすわけだけど桃花にはどうする?」


そうだった。僕のギフトに関するあれこれは桃花さんにも秘密にしてるんだった。

死に物狂いの勧誘攻撃よりも、こっちの方が近々の問題だ。


でも桃花さんだからなぁ……。

バラした途端『何で今まで黙ってたんだコノヤロー!』とか言って胸ぐら掴まれたりしないよねぇ僕?

だからといって黙ってて後でバレたらさらに怒りそうだしなぁ。


どちらにしようか思案してる最中に、不意に大事な事を思い出した。


あ、でも共同生活は1週間の約束だから、せめてその間だけでも隠し通せばセーフなんじゃないかな?

最悪バレそうになったら歌唱依頼のバイトを1週間お休みして宿屋に篭ってればいいんだし。


ようやく見えてきた一筋の光明に僕は決意を固めた。


うん。これならいける。

この勝負僕の勝ちでおまっ!勝ち戦でおます!


「1週間だけの共同生活ですから、このまま黙ってることにします」

ただし釘だけはキッチリ刺しておくことにする。

雄也さんの事だから1週間を過ぎてもズルズルと巻き込んでくる可能性は大いにあるわけだし。


「あらら。ひょっとして俺いらんこと言っちゃったのかな?

迫害を受ける者同士、手に手を取り合って絆を深める予定だったんだけど」

「冗談はよしこさんです」

「あららー……。ホントにヤブヘビになっちゃったのか」

残念そうにうなだれる雄也さん。

いや『残念そうに』じゃなくて、ホントに残念に思ってるんだろうけどさ。


でもここは折れる訳にはいかないんですよ。

言葉は悪いけど、桃花さんを守るために現在進行形で利用される真っ最中の僕からしてみたらね。


そもそもこの場に当事者の桃花さんがいないことからしてオカシな話なんだよ。


自分の為に3人部屋に移って欲しいってお願いしに来てるんだよ?

これからどうするかの計画を立ててる真っ最中だよ?

そんな大事な場に当事者がいないなんて普通はありえないよね。


だから僕はこう思うんだ。

恐らく彼女は雄也さんに『強制』されて、部屋でジッとしてるんだと。


それは雄也さんが本気で桃花さんを守ろうとするから出来ることだとも理解してる。

本気で守る気があるから、雄也さんは桃花さんに『命令』も『強制』もできるんだ。


俺がなんとかするから、お前は部屋でジッとしてろ。

俺がなんとかするから、お前は俺の言うことを聞け。


まるで親が幼い我が子を導くような甲斐甲斐しさすら感じちゃうよね。

だからここに桃花さんはいない。だから桃花さんは雄也さんには逆らわない。


僕に対する態度と比べてみれば一目瞭然だよね。


雄也さんは僕に色々教えてくれるし、アドバイスもくれる。

時々強引過ぎる『お願い』もされてはいるけど、彼は一度も僕に『強制』して来ない。


こうした方がいいと思うよ。

『はい、それじゃあそうします』


それは止めといた方がいいんじゃないかな。

『はい、それじゃあ止めときます』


君には悪いけどお願いできないかな。

『しょうがないですね。今回だけですよ』


形はどうであれ、最終的には必ず『僕が僕の意思で決定する』ように仕向けてくる。

でもさこういう態度って裏を返せば『自分で決めた事だから、自己責任だろ』って言われてるようなもんで……。


詰まるところ

彼は僕の事に対しては一切責任を負う気はないってことなんだよねー……。


まぁ、当然の話なんだけどね。

嫌な言い方だけど、他人だもんね僕たち。

だから僕も彼らへちゃんとした態度を返さないといけないんだよね。


詰まるところ

僕もアナタたちの事については一切の責任を負う気はありませんってさ。


利用できるところは利用しあって。

助け合えるところは助け合って。


間違えちゃいけないのはただ一つだけ。

『自分の事』より『相手の事』を優先させてはいけません。


あぁ……これが大人になるってことなのかなぁ。

改めて考えるとすっごくドロドロした関係に思えるから不思議だよ。


そんなキタナイ大人な考えを吹き飛ばすように首を左右に振ると

僕は改めて雄也さんを見やった。


「ヤブヘビかどうかは置いといて、大体の事情は分かりました。

それで具体的に夜逃げはいつ開始するんですか?」

「涼太君の都合がつくんだったら23時頃出発しようと思ってるんだけど大丈夫かい?」

「はい。ホントに今夜は予定はないんで、いつでも平気ですよ」

そう答えると、雄也さんはいつものイケメンスマイルを浮かべて嬉しそうに告げてきた。


「それじゃ、夜逃げは23時で決定ってことで。

22時50分頃に迎えに来るから、それまでに準備しておいてね」

「はい。分かりました。

えっと確認なんですが、僕は2人の後を着いていけばいいんですよね?」

「うん。夜道でもちゃんとエスコートするから安心しといてよ」

「はい。期待してます。

僕は3人部屋を取るための重要なコマですからね。精々大事にしてくださいね」

ニッと口元を歪ませて軽口を叩くと、心得たもので雄也さんもニッと悪い笑顔になる。

それが僕たちの関係を表してるようで少しだけ愉快な気分になった。


「まだ時間もあるし、お礼に何か手伝おうか?」

ギブアンドテイク。他人同士が付き合う上で最も効率的なシステムだ。


「いやいや。1週間も共同生活させられる"借り"はそんな安いもんじゃないですよ?

いずれキッチリ返して貰う気なんで、気にしないでください」

「うーん……。君に借りを作ったままだと今後のパワーバランスに影響しそうだから

俺としてはなるべく早いうちに解消しときたいんだけどなぁ……」

「本音漏れちゃってますよ。そういうのはちゃんと蓋をしとかないと」

からかうようにそう告げると、雄也さんが笑う。


「ハハハッ。これ以上の腹の探り合いはこっちの方がダメージ受けそうだし止めとくよ。

それじゃ交渉モードはここでオシマイにして、ここからは通常モードね」

えらく上機嫌な様子でそう言うと、雄也さんはいつもの調子で続けた。


「じゃあ涼太君。何か聞きたい事とかある?」

「実は2つばかりあるんですけど、お時間大丈夫ですか?」


今にもグゥと音を立てそうなお腹をさすりながら僕は

【愛】と【料理】について友人に相談した。


話全然進んでないですね……。

でも彼らの関係性を今一度明確にするためにあえて投稿します。


心地よい距離感。適切な関係ってのが人にはありますからね。

高校生でそんな事考えるのは少々間違ってるとは思うんですが……。


高校生はただガムシャラに「永遠の友情」とか「永久の愛」とかを信じていて欲しいです。

私は今でも信じてますよ。


ギブミー永遠の愛。

友情なんていらないから永遠の愛はよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ