表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/25

無茶なお願い


雄也さんの部屋に招かれて、机を挟んで向かい合わせ。

てっきり桃花さんも一緒なのかと思ったけど、雄也さん曰く歌唱依頼の事を含めしばらくは桃花さんにも内緒にしたいらしい。


理由は――なんとなく分かったので素直に了承した。

僕だって『テメェどういうことだよ!』なんて理不尽な尋問は食らいたくないです。

適切な時期を待って雄也さんからそれとなく報告してもらえるとベストなんだけどな……。


あ、話が脱線しちゃったね。

という訳で、雄也さんの部屋にて僕のギフトチェックが行われております。

机の上には僕の右手――というかメニューが広げられており、今はギフト一覧を表示させてます。

で、その一覧をガン見していた雄也さんがようやく顔を上げた。


「ギフトの詳細画面を見せてもらってもいいかな?」


あ、結局まだ見るんですね。

とは流石に言えないので、順番にギフトの詳細画面を開く事にする。


詳細画面の開き方?そんなものギフト名にタッチするだけですよ。

流石にこっちのシステムにも慣れてきたのでそれくらいは察しがつくようになったよ。


んでリクエスト通り【愛】から【料理】まで一通り表示させた。

各ギフトの詳細画面を興味深そうに確認するのは別に構わないんですけど


「……どういうギフトなの?」

っていちいち聞かれるのはちょっと勘弁して欲しかったです。

そんな事言われても困りますしおすし。むしろの僕が知りたいくらいですよホント……。


中でもやっぱりEmptyへの食いつき方が半端なかった。

『ってことはギフト9個しか持ってないの!?』って言われても僕にはどうしようもない事なんです。

僕だって好きで9個なわけじゃないんです。……グスン。


あと最後の【料理】ギフトへの食いつきもなかなかのもんでした。

ギフト詳細を読んで『おいしいご飯が作れる……だと?』って呟いたきり沈黙。

【料理】の何にそんなに引っかかってたのかその時の僕には意味不明だった。






と思ってた時期が僕にもありました。


『お腹空いてない?よかったら続きはご飯でも食べながら話そうか』とのお誘いに乗って

宿屋の1階にある食堂へ移動して来たまではよかったんだ。


歌唱依頼の件は秘密にするって話だったから公共の場所はマズいんじゃないかと心配したけど

まだ時間帯が早いんでお客さんは1人も入ってなかったのもちょうどよかった。


で、このお店で一番のオススメ料理がステーキだってところもよかった。

僕だって腐っても高校男児だしね。お肉は大好物だ。それにお腹も減ってたしね。


注文を終え料理を待つ雄也さんは何故か哀しい目をしていたけど

残念ながらウキウキしながらステーキを待つ僕はその事に気がつけなかった。


で、運ばれてきたのは美味しそうな湯気を立てるアツアツのサイコロステーキだったんだ。

『いただきます』と手を合わせお箸でステーキを口へ運んだ瞬間――


何だろうコレはと思ったよ。

ゴムのような弾力と、隠しきれない獣臭さを放つステーキらしき物体。


ホント何なんだよコレはと思ったよ。

だってすごくマズイ。兎に角マズイ。割とお腹が空いてるというのにこのマズイさ。

想像を絶するとまでは言わないけど、少なくとも人前に堂々と出していいものじゃない。ましてお客さんに出すなんて正気の沙汰とは思えない。


僕はいつまで経ってもほぐれる事のない肉片をモニュモニュと咀嚼しながら

向かいの席に座る雄也さんを涙目で見やった。


「そんな目で見ないでくれよ」

僕と同じメニューを食べてる雄也さんが苦い顔をする。

続けて爆弾発言が飛び出した。


「信じられないかもしれないけど

この世界ではこれでも美味しい部類の食事なんだよ?」

「嘘だ……」

「最初はそう思うよねぇ。俺もそうだったよ……。

でもあと2日もこっちで飯食う事になれば嫌でも分かると思うよ」

「嘘だ……」


悲しい現実を受け入れたくなくて力なく呟く。

口の中には相変わらず臭い肉片が残っており、相変わらずほぐれる様子もない。

雄也さんはそんな僕に向かって優しげな声で告げてきた。


「毎日こんなんじゃ嫌になっちゃうよね」

毎日だとぅぅ?

まだ1食目だけど既に嫌になってますよ僕!

今もエヅいてないのが不思議なくらいですよ僕!


「でも俺達にはどうしようもなかった。

まだこっちに来て3日だけど、俺らβテスター達には臭い肉を食うしか道はなかったんだ」


少しだけ演技くさくなった雄也さんの話に耳を傾けつつなんとか口の中の肉片を飲み込む事に成功する。

ちなみに最後まで肉片を噛み切る事は出来なかった。


「けれど黙って屈した訳じゃないんだ。俺たちは必死に抗ったさ。

このステーキにしたって使ってる肉はモンスターの肉だからね。

実際に該当のモンスターを狩って、ドロップアイテムの肉を持ち帰り、細心の注意を払って焼いてみたよ」

そこで感極まったのか、ダンッと握った拳でテーブルを叩く。


「だけどダメだった……。

どんな火加減を試しても、焼く以外の調理法を試しても、モンスターの肉はゴムみたいな弾力のある臭い肉片にしかならなかったんだ……。

我々βテスターはこの現実の前に敗北を喫するしかなかったよ」


ステーキの2口目にチャレンジすべきか真剣に悩んでいると

独白のようなセリフを終えた雄也さんがいつもの口調に戻り


「という絶望的な状況の中

俺達は君という希望の光を得ることに成功したわけなんだよ」

「……へ?」

意を決して2口目を口へ放り込もうとした瞬間そんな事を告げられる。

なんですって……?


「いやー。本来なら街中で出来る仕事をGETしただけでもスゴいことなのに

その上【料理】なんて夢と希望が詰まったギフトまで持ってるなんて、なんてスゴイんだろうか君は」

「いやいやいや」

何か僕の預かり知らぬところで僕の評価がうなぎのぼりだぞ!?


「謙遜なんてしないでよ。最初君のギフト構成を見たときは正直頭を抱えたくなったけど……いや今でも半分以上は頭を抱えたくなるけど

それでも少なくとも【歌う】と【料理】については僕らにとっての希望の星なんだ」


は、は、は、話が大きくなってきてる……。

そりゃ【料理】ギフトは持ってますけど、料理するのは僕ですよ?

ぶっちゃけまともに料理なんて出来ない僕が、煮ても焼いてもマズイ食材をどうにか出来るなんて思えないんですけど……。


予想外の展開にアワアワしてる僕など華麗に無視して

雄也さんの演説は滔々と続いた。


「いや、俺に分からないだけで他のギフトも実はスゴいポテンシャルを秘めてるのかもしれないよね。

だって仮に涼太君と出会った瞬間に君のギフトを見せられてたら、正直10個全部――いや9個か。9個全部に頭を抱えていたと思うしね。

だけど蓋を開けてみたらどうだい。

【歌う】は街中での仕事につながり、【料理】は僕に人間らしい食生活を与えてくれる可能性を秘めている」

お箸で2口目のステーキを摘んだまま、僕は徐々にテンションの振り切れていく雄也さんを黙って見守る事しかできずにいた。

相当興奮してるんだろう、随所随所に僕の心を抉るような発言があるんだけど本人は気づいてないみたいだ。


「つまりは、君のギフトがゴミギフトに見える俺の目がフシアナだってことなんだ。

手を当てるだけの【手当て】も、子供だましみたいな【お呪い】も、拝むだけの【祈る】も

どう考えてもクズとしか思えないこういったギフトも、実はスゴいポテンシャルを秘めてるかもしれないって事だよ!」


ゴミェェェ……クズェェェェ……。

そこまで言いますか。というか、腹の中ではそんな風に思ってましたか!?

……反論はできませんけどね。……ううう。


大興奮のテンションで一通り熱い演説を終え流石に冷静になったのか

雄也さんは髪をグシグシと掻くと、少し恥ずかしそうに告げてきた。


「君にはお願いばっかりでホントに心苦しいんだけど。

俺としてはこの先、涼太君にはギフトのレベルアップを頑張って欲しいと思ってるんだ」


そこまで言ったところでハッとした表情になる。

雄也さんは慌てた様子で続けた。


「もちろん、できる限りのサポートはさせてもらうつもりだよ。

何か俺達にできることがあったら何でも言ってよ。全力で協力するからさ」


"いえいえゴミみたいなギフトを育てるのにお手数おかけする訳にはいきませんから"

くらいの皮肉は許されるだろうか?うん。許されるはず。


まぁ、100%の親切心で言ってくれてるみたいなんで、そんな事思ってても言いませんけどね。

そう雄也さんとは違って、雄也さんとは違って!思ってても言いませんよ僕は。


「まぁ、ギフトのレベル上げるのは別に構わないんですが

【歌う】と【料理】以外も上げた方がいいんですかね?」


というかそれ以前にどうやって【歌う】と【料理】のレベルを上げるのかすらハッキリ分からないんだけどね。

HowToには確か『いつでもどこでもー』みたいな超適当な事しか書かれてなかった気がするし。


「うん。できれば満遍なく育ててもらえると嬉しいよ。

ギフトレベルが受注条件になってる依頼があるかもしれないしね。

例えば【祈る】のレベルが上がれば、神殿関係の仕事とか出てくるかもしれないし」


言われてみるとなるほどと思えてしまう。

この先何があるか分からないんだし、職の選択肢を増やしておくのは非常に大切だ。

だとしたらダメ元で色々なギフトを育てるのも悪くないよね。いや、むしろ積極的に育てていくべきだよ。


僕が今後の人生プランについてそんなことを考え込んでいると

非常にバツが悪そうな顔をした雄也さんが頬を掻きながら告げてきた。


「それとここから先話すのは

まだちょっと気が早いかなぁと思うんだけど聞いてくれる?」


それは何というか非常に卑怯な前置きではないですか雄也さん……?

こんな言い方されちゃうと無碍に断れなくなってしまうじゃないですか。


「は、話だけなら」

……って言うしかなくなるじゃないですか!


「ありがとう」

雄也さんはふんわりと笑うと話を続けた。策士だ……。


「えっとね、君に色々とお願いしてるでしょ俺。

薄々気がついてるとは思うんだけど、それって何のためだかわかる?」


あらら……『そういう』系統の話なんですね。

『予想していたよりも』随分と早く聞くことになった雄也さんの話に僕は少しだけ思案した。


ここで『僕のためですよね!』と答えられる純粋な人間なら

それはそれで幸せな人生なんだろうけど、生憎僕はそうじゃないことを知っている。


雄也さんには雄也さんの立場があって、雄也さんなりの損得計算で動いてるはずだもんね。

下手に出て僕に『お願い』するのは、そうすることで彼が何らかの得をするからに他ならないわけだし。


もしこれがホントに僕の事だけを心配しての行動だったら

『お願い』という形じゃなくて『アドバイス』という形になってたと思うんだ。


けどまさかこのタイミングで話されるとは思ってなかったけどね……。

"歌唱依頼が終わるまでは伏せておきたい"って言われてたから、てっきりそのタイミングで何らかの交渉があるんだと思ってたよ。


まぁ、こういう駆け引きめいた事は嫌いだから

予想より早く終わらせてくれるのは、僕の精神衛生上はありがたい事だけどね。


……とはいえ気が重いなぁ。


とぼけても意味なさそうだし、僕は『薄々感じていた』自分の意見を正直に告げた。


「えっと、確かギルドの依頼って複数人で受注できるものもあるんでしたよね?

今回の歌唱依頼は"残念ながら"1人だけでしたけど、次の依頼は複数人での受注が可能かもしれないですね」


さすがに一息で思っている事を全部言い切ってしまうのは無理だった。

それでも雄也さんに口を挟む暇すら与えず、僕は先を続けた。


「それと歌唱依頼を受注する時に見えたんですけど、[受注する]ボタンの隣に[継続する]ってボタンがありました。

これがどういうボタンかは知りませんけど、[継続する]って言葉から考えると、単発の依頼じゃなくて継続的なお仕事として依頼を受注できるとかじゃないんですかね」


ここで2回目の小休止。

雄也さんのポカンとした表情に『薄々感じていた』事が間違っていないことを確信し、ゆっくりと最後の言葉を吐き出した。


「もし仮に、複数人で受注できる街中での依頼を、[継続する]ボタンで受注できたら

――そしたら誰でも街中で仕事ができるかもしれないですよね」


おし、言い切ったぞ。

僕は気づかれないよう、ゆっくりと溜め息を吐いた。


雄也さんの様子を見ると

彼は今まで見た中でも最高に苦々しい表情で僕を見つめている。


「まいったなぁ……」

そして呟く。

でもそれはお互いさまですからね。僕だって慣れない事言って非常に疲れたんですから。


「正直今日のところは、今後複数人で受注できる依頼を受けることがあれば誘って欲しいって

お願いまでで止めとこうと思ったんだけどなぁ」

「それで頃合いを見計らって、どんどん要求をエスカレートさせるつもりだったんですか?

嫌ですよそんなの。こういう駆け引きめいたやりとり嫌いなんですよ僕……」


僕がそう愚痴ると

雄也さんは苦々しい表情ながらも笑顔を作って口を開いた。


「うん。そうなんだろうなーと思ってた。

だから徐々に要求のレベルを上げながら駆け引きしていけば、こっちの都合の良い流れに持ちこめるかと思ったんだけど

……まさか初手で全部ばれるとは思わなかったよ」


く、黒いのが漏れちゃってますよ雄也さん……。

ちゃんと栓閉めといてください。


「でも失敗したなー。涼太君察しが良すぎるよね。ホントに3L未経験者なの?

これからうまいこと恩を売って、色々と協力してもらう予定だったのに、あーもう失敗したー」


く、黒いのが駄々漏れですよ雄也さん……?

栓ぶっ壊れてたりはしませんよね……?


らしくない雄也さんをハラハラした思いで見つめていると

彼はそれまでの苦々しさをすっかり消した晴れ晴れとした表情であっけらかんと言ってきた。


「というわけで後は当たって砕けるしかないか。

概ね君が思った通りの事を頼みたいんだけど、協力してもらえないかな?」

「それは事の詳細を聞いてからですね」


流石にその提案に頷くわけにはいかないです。

でも僕の反応は想定内だったのか、雄也さんはどこか楽しげな様子で不満を口にした。


「えーそうか……まいったなぁ。

言ったよね今は言うつもりがなかったって。

つまり今言っちゃうと涼太君に断られちゃうと思うんだよね。だからあんまり言いたくないんだけどな」

「じゃあ分かりました。協力はしませんってことで」

「あー、うそうそ。言うって。

ちゃんと説明するからちょっと待ってよ」


すると、これまでのチャラけた雰囲気を真面目モードに切り替えた雄也さんが

懇願するような目で告げてきた。


「けど、先に1つだけ約束してほしいんだ。

これから話す事について、きっと君は拒否すると思うんだよね。

けど、スグには断らないでもらえないかな?ひとまずこの場は『返答保留』って形にしてほしいんだけど、いいかな?」


またこのパターンか!

内容を話す前に、結果について約束させるのは卑怯な事なんですよ?


「う……当たって砕けるとか言ってた割に

きっちりコッチの退路塞いでから交渉に臨むんですね」

「涼太君。大人ってね。ズルイ生き物なんだよ」

「ハァ……もう分かりました。

『今すぐ』に断らなければいいんですよね?」


一応こっちからも予防線を張っとかないと後が怖い。

僕は思いっきり『今すぐ』の部分を強調して告げた。


「駆け引きは嫌いとか言ってたのに、なかなかどうして策士だなぁ……」

「嫌いとは言いましたけど、苦手だとは言ってないつもりですけど」

「あはははは。今の口調スッゴク生意気だった!

うん。いいと思うよ。やっとヤンチャな高校生らしくなってきたね」


ダメだ。この人には何を言っても無駄な気がする。

暖簾に腕押し。糠に釘。何を言ってもヒラリヒラリとかわされてしまいそうだ。


「あんまり虐めて意固地になられても困るし、そろそろ説明始めるね」

「はい、どうぞ始めちゃってください……」


なんかドッと疲れてしまった僕は、ぞんざいな口調で先を促した。

と、雄也さんが意外そうな声を上げる。


「アレ?いつもみたいに『はい、お願いします』って言ってくれないの?」

「……別に今回はお願いしてませんから。

どっちかというとお願い『されて』話を聞いて『やってる』立場かなーと思いまして」

「ホント、交渉事の基本を嫌ってほど押さえてるよね君……。

まぁいいか。これ以上はホントに機嫌を損ねちゃいそうだし。えっと、どこから説明したものかな」


雄也さんは親指を顎に宛てて僕へどう説明するか思案しているようだった。

またろくでもない事考えてないだろうな。と訝った僕はきっと人として間違っていないと思う。

数秒ほど何事か考えていたみたいだけど、雄也さんはおもむろに説明を始めた。


「さっきは『概ね正解』なんて言ったけど、実は涼太君の考えは100点満点だったんだよね。

複数人で受けれる依頼については補足の必要もないから、早速継続受注について話すけど

依頼には『継続受注で受けれる依頼』と『継続受注で受けれない依頼』の両方があるんだよね」

「依頼内容によって違ってくるってことですか?」

「うん。それもあるよ。

『レッドドラゴンが街に急接近!至急退治しろ!!』みたいな緊急依頼については、依頼の性質上継続受注はできないよね。

後は『西の森のモンスターを倒せ!!』みたいなエリア指定の魔物退治も継続受注できないね。

この手の依頼はあるエリアのモンスターの数が多くなりすぎた時に臨時で出される依頼だから。モンスターの数が落ち着けば撤回されちゃうからね」


なるほど

1回こっきりの緊急依頼や、勝手に継続されると困る依頼なんかは当然だけど継続受注できないってことか。


「でも継続受注可能な依頼でも

依頼主から信用してもらえるまでは受けれないタイプの依頼もあるんだよね」


あ……なんか分かったかもしれないぞ。

僕が何かに勘づいた事に気がついたのか、雄也さんはフフッと息を漏らした。


「大体察しはついてるみたいだけど、こういった手合いの依頼は

何度も通常の受注を繰り返して、依頼主の信用を勝ち取る必要があるんだよね。

回数はピンキリだから一概には言えないけど、5回は繰り返すのが普通かな?」


やっぱりそうか。


『今日のところは、今後複数人で受注できる依頼を受けることがあれば誘って欲しい』とか言ってたけど

これが正しく依頼主の信用度を稼ぐための布石だったんだ。


で、信頼を勝ち得た暁に次のステップとして継続受注で依頼を受けるように僕に交渉すると……。

ホント無駄のない計画で惚れ惚れしちゃうよ全く……。


けど、1つだけ分からない。

確かに手間だけど、別に僕このくらいなら協力するのにな。皆必死で街中での仕事を探してるっていうのならなおさらね。


それとも僕って相当非協力的な人間に見えてたのかな?

だとしたらそっちの方がショック大きいかもしれない……。


そんな僕の思いを見透かしたかのように雄也さんは説明を続けた。


「で、まぁこの方法ならめでたく涼太君以外の人間も街の中で仕事を得られる訳なんだけど

1つだけ問題があるんだよね」

「問題ですか……?」

「そう。継続受注ならではの問題なんだけど、比較的大問題」


わざわざ大問題と言い直すところに事のヤバさが透けて見えるようだ。


「大問題とは……?」

恐る恐る尋ねると、雄也さんはニッコリ笑ってこう宣った。


「うん。複数人で継続依頼を受ける時ってね

依頼を受注する人が責任者として契約して、他の人は従事者って取り扱う決まりになってるんだよ」


責任者?他は従事者?

あ、それってつまりは――


「平たく言っちゃうと

涼太君は依頼に対する全責任を負う社長さん、実際に仕事する人達は君の社員として働いてもらうって形になるんだよ」

「い、言うなれば、株式会社中川涼太を立ち上げることになる……と?」

「あ、その表現いいね。うん、正にそのとおりだよ」


冗談じゃないです!!

高校生になんてもん背負わせようとしてんですか!!


思わず叫びそうになった言葉をギリギリ堪えて僕は雄也さんを凝視した。

僕の目にはどこか愉快そうな、でもスゴク申し訳なさろうな雄也さんの表情が映る。


「高校生に頼むことじゃないのはちゃんと分かってるんだけどさ。

でも、こっちも結構アップアップでね。あんまり手段を選んではいられなかったんだよ」

「だとしても、そんな責任は負えそうにないです……!」

「うん。だから先に複数人で受けれる依頼を何回か一緒に受けてもらって徐々に君を懐柔していこうと思ってたんだけど

いきなり君勘づいちゃうんだもん」


そんなの僕のせいじゃないでしょ!!

というか懐柔ってなんですか!流石に怖すぎるんですけど!!


「でもまぁ断らないって約束はしてもらえたし、これから徐々にアプローチしていくことにするよ」

「『今すぐ』には断りませんよ……」

「うん。わかってるからそんな怖い顔しないでよ」


雄也さんは言った。

とっても申し訳なさそうに


「約束するよ。

書類上は君が全責任を負うことになるけど君へ面倒は一切かけない。

庶務。経理。人事。本来君が背負うべき全ての雑事はコッチで引き受けるよ。

――だからお願いだから前向きに検討してみてよ」


そんなこと

いきなり言われても


正直僕は困る。


「あ、すっかり冷めちゃったね」


そんな軽口を叩きながら、マッズいサイコロステーキを頬張る雄也さんを見つめたまま。

僕は思案に暮れていた。

何か書いてる内に話がでかくなってきて株式会社まで登り詰めてしまったでゴザルという話。

……会社経営とかは今後出て来ない予定です(’’;


あと雄也のキャラ崩壊が止まりません。

プロットの段階ではただの真面目キャラだったはずが、チャラ男属性や腹黒属性まで入ってきました。

ホント、どうしてこうなった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ