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ホントは。

作者: finale

「はいはーい、席に着けぇー」

「天地先生、遅いですっ!」

 こんなやり取りが繰り広げられるのは、決まって朝のHRのチャイムが鳴った十分後だ。

「いつも通りだよ何か文句あんのか」

「いつも通り文句あるから言ってるんですよ!」

 こんなやり取りもいつも通り変わらない。

「よーし、全員いるなつーかいるだろ、HR終わり、起立、礼ー」

「投げやりだなオイ!」

 クラスの奴らの四月から変わり映えしない抗議(?)を適当に聞き流しながら、俺、天地あまち山斗やまとは平然と教室から立ち去った。



 なんか、その、あれだ……地味に暑い。屋上なんか来なきゃよかった。

 今日は五月十三日月曜日。天気は快晴、丸一つ。風もそれなりに吹いている。

 いや、マジで地味に暑い。ホントに五月か今日。寒暖差がどーのとかニュースで言ってるけど……ナイ、これはナイ。死んでる、暑さと俺の不真面目さ具合が。まぁ、後半はどーでもいい話。

 しかも今放課後だから。別に悪い事してる訳じゃねぇし。中間テスト作成サボってるけど別に悪い事してる訳じゃねぇし。うん、違う。断じて違う。

 っていうか、今日に限って一人で屋上とか、ツイてねぇー……。

 ッッああ、やめたやめた。もー何も考えねぇ。

 若干色の変わってきた空を眺めながら、邪念を振り払うようにヘッドフォンを外して首に掛ける。ちょっと昔のことを思い出しそうになったけど、まあいい。

 屋上に寝転がって、静かに目を閉じた。


「――……生、天地先生」

「いい加減起きてください、風邪引きますよ」

「……ぅうあ、こんな暑い時に風邪引かせられる菌なんて聞いたこと……っぐしゅっ」

「ほらー、こんな寒いとこで寝てるからー。最近寒暖差凄いって、ニュースでもやってるじゃないですかー。ほら先生、おはようございます」

 はっと目が覚めた。真上から覗き込んでいるのは、俺のクラスのアホ共だ。

 どうやら俺は、屋上で寝入ってしまっていたらしい。

「……なんだうるせぇな」

 むくっと起き上がると、

「天地先生、今日何の日だか知ってます?」

 アホ共のうちの一人が訊ねてきた。

「……何の日、って……月曜日じゃね?」

「うわぁー!信じらんないっ!皆さーん、ここに自分のことすらロクに記憶できてないアホがいまーす!」

「なんで俺がよりによってお前らにアホとか言われなきゃなんねーんだ、おかしいだろ!アホはお前らだろーが!」

 いつものように怒鳴り散らすと、アホ共はニヤニヤと俺を見下ろしてきた。

「なっ……なんだよその目は」

「さぁ、なんでしょーね?」

 なにやら意味有りげだ。

「はい、じゃー皆天地先生の前に整列っ!」

 キレイに二列になるアホ共。そして、

「天地先生、ハッピーバースデー!!」

 全員でタイミングを揃えた言葉と、拍手。……ってかおいちょっと待て、クラッカーは余計だ。

「……何コレ」

「先生は覚えていないみたいですが、本日五月十三日は我らが天地山斗先生のお誕生日な故、お祝いをさせていただきましたー」

「あ、何、今日俺の誕生日?マジで?」

『先生は覚えていないみたいですが』。

 覚えてねー訳ねーだろ。

「一年からこの時期に祝ってもらうなんて淡い期待はしない方がいいぞ」と、先輩教師に肩を叩かれた。ま、そーだろうなと思った。

 でも、カレンダーを確認して、十日も前からカウントダウンなんてして。

 五月十三日の曜日を見て「ああ、よかった登校日だ」なんてほっとして。

 今日だって、帰りのHR終わった後ずっと教室に居座ってた。

 でもなんだか耐えられなくて一人で屋上なんかに来て。

 それで「ああ、やっぱり」なんて。

 「マジ、馬鹿じゃねーの俺」なんて。

 でも。

 ――――ホントは。

 祝って欲しかっためちゃくちゃ祝って欲しかった。

 『ハッピーバースデー!!』だって!なんか、その、あれだ……地味に泣きそうだ。マジで。

 ふっと見上げると、クラス全員分の笑顔がそこにあった。

「これ、プレゼントです開けてみてください。あ、こっちは色紙」

 差し出されたプレゼントの小包を開けてみると、オリーブ色でグラデーションの、いい感じのパーカーが入っていた。

「あの、くれるのは別にいいでも、俺、パーカー沢山持ってるんだけど」

「じゃあ、そのパーカーコレクションに加えといてくださいよ」

「コレクションってなんだよコレクションって。つーかなんでもっと早くくれなかったんだよ」

「それはですねー、このプレゼント保管係の坂本さかもと君がですね、肝心のプレゼントを家に忘れてきてしまってですねー」

「おい、それはもういいだろう!」

 屋上に、全員分の笑いが弾けた。

「じゃ、帰りますか」

 誰かが言ったその一言で、俺は勢いよく立ち上がった。

 思い出したように後ろを振り返る。

 ――今日の夕日はいつもより綺麗だ。

 やけに滲んで見えるのはきっと多分絶対、目の錯覚だ。



 翌日、五月十四日、朝のHR。

「あー!先生昨日のパーカー着てきてるー!」

「うるせぇな、うっかり洗濯しててこれしかなかったんだよ」

「あれ、沢山あるという他のパーカーはどうしたんですか?」

「全部洗濯してたんだよ!」

「あ、そーいえば。色紙読みました?」

「いや、まだ」

「えー!最低!皆さーん、ここに生徒の思いやりを無駄にするアホ教師が!ほら、こっちこっち!」

「誰がアホ教師だ誰が!」

 ――昨日貰った色紙。

 大事に飾ってあるというのは、調子に乗るからアホ共には内緒だ。


 


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