厨二病①
更新です!
あの入学式から二日後の昼休み、別に何が起きたわけでもない普通の学校と化していた。
しかしあれだ……学校は普通だけど俺だけは普通じゃないらしい。
目の前にはモジモジしながらキョロキョロする一人の厨二病娘が目の前に居る。
挙動不審にも程がある。
とは言いつつ、俺を教室内から階段の所まで呼び出したのはこいつにとって大変勇気のいる行為なのは大体分かった。
挙動不審を超えて右目から涙が溢れそうになっているからな。
しかしどうしたものか……。
昼飯を食い終えて剱と話している時、教室の扉からピョコピョコと触角みたいな毛を動かしながらチラチラ見てきた時は驚いた。
なぜ毛が動くのか凄く気になった。今でも本人の感情と同じくヘナってなりながらピョコピョコ動いているのだ。
毛、触らずにはいられないッ!
不謹慎だが手が勝手に掴もうとする。
「ひゃっ!!?」
「ん?どうしたんだ?……あっ」
……掴んじまった。
すげービックリした顔してんだけど。
「悪い、思わず掴んじまった」
「あぅぅ~……」
やべぇ、この毛一気にヘタッた。
毛にしか注目していなかったから今気づいたけど耳まで真っ赤になってる。
「は、離して……欲しい、かも」
その真っ赤な顔から今にも消えそうな声が聞こえてきた。
「ご、ごめん……今離すよ」
すっとその毛から手を離すと、またピョコピョコ動き始めた。
「う、うん……」
……何かループしそうな気がする。
「な、なぁ。俺に用事があったんじゃないのか?」
こいつからの発進は無さそうだからまず軽くパスを―
「あ、い、あ、う、あ、あ」
……無駄だったな。
「別に怒ってないから大丈夫だぞ?だから言ってみ?」
「!!?」
おっ?反応が変わったぞ?
って、なぜお走りになられるのですか!?
「っ………!!」
「おい!待てって!何もしねーから!!」
爽太の声は届かず廊下を全力で走っていった。
「おい大丈夫ぁ~?」
心配してずっと見守っていると。
「ひゃっ!!?」
案の定転びやがった。
仕方ね~な。ちょっくら助けに行くか。
「お~い、大丈夫か?」
一応打ち所悪くて気絶してないか確認をしてみる。
「あぅ……らいじょうぶれす」
気絶はしてないらしい。
しかし人間不審にもほどがある。
これは一種のコミュニケーション障害のような気がしないでもない。
てか絶対にそうだ!!
「立てるか?ちょっと話があるんだ」
「はぃ……」
今にも消えそうな声で返事を返す。
「兎に角保健室に行こうな?」
「……うん」
コクっと頷く動作を見て、同じ階にある保健室に向けて踵を返した。
するとやっぱり人目が怖いのかキュッと爽太の制服の端を掴んで付いてきた。
爽太は気にせず歩き始めた。
保健室のドアにノックするが誰も出てこない。
「勝手に失礼しますよ~?」
保健室のドアを勝手に開け、後ろから付いてくる彼女を先に入らせた。
すると息を吹き返したかの様に厨二病を露にした。
「ふふふ……汝よ、我を保健室に連れ込むとは………その気なのか?」
「いや別に何が悲しくて厨二病とベッドで戯れなきゃなんねんだよ」
こいつ………not厨二病モードが無けりゃ放置するぞ?
「では汝よ。これを受け取るがよい」
彼女のポケットから投げ出された。
「受けとれって………これ何処で見つけた!?」
受け取ったものは入学式から無くしていたアニメのキーホルダーだった。
「ふふ……我には容易いことだ。感謝するがよい」
自慢気にペッタンコな胸を得意気に張った。
これに関しては感謝するしかない。
「これ探してたんだよ~、マジでありがとう!」
爽太が頭を礼を言いながら下げるとボソッと声が聞こえた。
「………初めてお礼言われた」
「ん?何か言ったか?」
いまいち聞き取れなかったから聞き返すと顔を真っ赤にしてキュッと自分のスカートの裾を掴んだ。
「な、何も……言ってません」
「そうか?ならいいんだけど」受け取ったストラップをポケットに入れてふと思った。
初っぱなから脱線しては身も蓋もねーな。
こいつのコミュ症をちょっとでも改善してやりたい。
「う~ん……どうすりゃいいんだ~?」
頭に手を当て考えていると向こうから話しかけてきた。
「汝よ……汝の真名はなんだ?」
「ん?あぁ自己紹介がまだだったな。俺の名前は最上爽太、クラスは知っていると思うが一年A組だ。よろしくな」
「爽太よ、よろしくな」
「あ、あぁよろしく」
ただ名前を呼ばれただけなのに何故か背中が寒い。
「では我の真名を教えてしんぜよう」
ここぞとばかりに厨二病パワーをフル稼働してくる。
………心で言うぞ。
めんどくせーの極まりもあったもんじゃないくらいめんどくさい。
「我の名はムーンリード・オータム!下級のBに名を置いている!!」
……まぁ厨二病は自分の名前とか無理矢理横文字にするけど、この娘の名前を訳すと秋 月読になるぞ?
「あのさぁ秋……」
「!!?」
ん?何でビックリしてんだ?
まぁいいや続けよう。
「秋は何秒間、人の目を見れる?」
まず根本的に人の目をちゃんと見て喋れるのが打開策だが、コミュ症にとってはかなりキツい試練だ。
しかし今は何秒間、俺の目を見れるか測ってみないと事が始まらない。
「さぁ、俺の目を見ろ。自分のタイミングでいいから見るんだ、秋」
「はぅ……うぅ……」
……何か顔赤くない?大丈夫か?
それにさっきから見つめるんじゃなくてチラッチラッと下を見ては俺を見る感じになっている。
「……わかったよ。ゆっくりで良いから焦らず治していこうな?秋」
俺が名前を呼んだ瞬間に湯気みたいなのが頭から出てきた。
「秋?大丈夫か?おい秋!!」
「はぇ~……名前、連呼しないでくらさ~い」
そのままペタンと座り込んで閉まった。
「連呼しないでって言われても……どうすりゃあいいんだよ」
とりあえず、ベッドに寝かせよう。
こんな状態じゃ次の授業受けれそうになさそうだし。
「ヨイショ……軽るいな」
「はぅ~……お姫しゃま抱っこ……」
「……中身は純粋なんだな」
秋をベッドに運び終わった直後にチャイムがなった。
「やべっ!じゃあまたな!」
「はぇ?……わかりましたぁ~」
秋の言葉を聞かず保健室のドアを勢い良く開けて飛び出した。
「うぉぉぉっ!!間に合えぇぇっ!!」
結局間に合わず、しかも幼女先生の授業で半殺しにされ、廊下に立たされた。
次回、厨二病②