入学式当日④
更新です!
…………ここは何処だ?
周りは暗くて寒い。
その暗い中、まだ細くひ弱な樹の苗が目の前にある。
ぼんやりとその樹の苗を眺めているとポツッと雫が頭に当たった。
……雨か?……いや、悲しみに満ち溢れている気がする。
どこの誰かは知らないが、俺の中に入ってくる。
その雫は雨となり強さをまして降り注ぐ。
雨が降ると体が冷える
涙が出ると心が切なくなる。
涙と雨は似ている。
………なぜ?なぜ悲しむんだ?嫉妬もするんだ?誰の心?俺の心?……違う………楓の心?
不安な思い。
素直になれない思い。
………そうか、楓か。
楓の気持ちが俺の樹に水をやる。
そして樹は成長する。
仲間との繋がりが樹に葉を付ける。この樹は俺その物、暇人という名の樹だ。
その事を胸に閉まっておこう。
人には言えない辛さがここに集まる。
「……あ……いつつ………ここは……?」
薄らぼんやりと頭に残る頭痛とともに目が覚める。
まだ感覚は鈍っているが微かな薬品の匂いとアルコールの匂いが鼻をくすぐる。
「………保健、室……か」
よっこいしょっと言う具合に上体だけを起こすと手に何かが当たった。
「ん……ふぅ……」
すこし悩ましげな声を出して布団につっぷしながら寝ているのは楓の姿だった。
「………お前が連れてきてくれたのか………ありがとな」
あまり性に合わないが楓の頭を軽く撫でた。
「はぅ……ふぅ?……そう…た…?」
また悩ましげな声を出し、眠気眼を擦りながらこちらを見た。
「おはようさん、眠れたか?」
まだ眠たいのか幼い少女の様にコクッと頷いた。
「……爽太は、大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。まだ頭痛は消えないけど、何とかな」
首をコキコキ鳴らしながら平気なのをアピールした。
「そう、よかった……ふふ」
爽太の様子を見て安心したのか優しく微笑んだ。
そのとき丁度よく西陽が柔らかく楓を照らし、天使の様にも見えた。
「まぁ、帰り道に心配代で何か奢ってもらおうかしら」
中身までは天使ではなく、悪魔が潜んでるようだ。
天使と思った自分が馬鹿だった。
……しかし流石に御礼はしたい。言われたからやるわけではないが、どちらにしよ何かは奢るつもりだった。
「わかったよ。何がいいんだ?」
一応リクエストを聞くのが礼儀であろう。
「へっ?え、えぇっと……何でも……いいの?」
ほんのりと頬を朱くして上目遣いをしてくる。
何?この可愛い小動物的な生き物は。
例えればハムスターみたいな?
俺の幼馴染みがこんなに可愛いわけがない、みたいなラノベでも書いて応募してみるか?
「まぁ、無茶な物じゃなければ大丈夫だから言ってみ?」
「う、うん……じゃ、じゃあ」
またさらに顔を朱くしてもじもじし始めた。
やっべーよ、惚れちまうよ。
今まで見たことねーよ。こんな楓は。もう一回言うが、今まで見たことねーよ!!
「じゃあ!!……デ、デデ、デー「爽太君!大丈夫か!!」
楓の勇気ある言葉を遮る叫びが保健室内に響いた。
「まったく無茶をしよって!お姉ちゃんは心配したぞ!!」
さらにその声は保健室内を響かせながら爽太の居るベッドにツカツカと近づいてくる。
楓と爽太は何が起きているのかさっぱり分からず。爽太においては姉とか居ないまっさらな独りっ子なので極限に驚いている。
「おい、俺に姉ちゃんなんて居ないぞ?」
「ごめん、私はこんなこと言っているのは一人しか知らないけど……まさか本気でなろうとしてるのかしら」
「誰だよ。それ」
少々呆れぎみに楓に訊くと、楓も呆れたように顔を手で覆いながら答えた。
「それは、今日就任した1学年生徒会会長……紫咽朱鷺子よ」
その言葉と同時にベッドとベッドを遮るカーテンが開かれ、朱鷺子の整った顔が現れた。
「?私のことを呼んだか?書記よ」
「へっ?書記?誰が?」
戸惑いながらも楓に訊くと初めて聞いたらしく楓も驚いてた。
「はぁ?なんで私が生徒会に入んなきゃなんないのよ!」
「会長の権限だ」
身も蓋もねーな。
そういえばこの学校三学年全部に生徒会が存在するんだったな。
「そして爽太君が副会長だ!!」
眼鏡をクイッと上げてフフンと言わんばかりに大きく育った胸を張る。
「俺もかよ!!俺はやんねーぞ!?」
「む、なぜだ?」
疑問を持った顔しながら胸の前で腕を組む。
うっ!む、胸が腕の腕にムッチリ乗っかっててエロい!
会長!何カップですかー!って思わず聞きたくなる。
「バストはHだぞ?」
「なっ!?同い年とは思えない!てか人の心を勝手に読むな!!」
ほら!楓が自分の控えめな胸に手を当ててるだろうが!
「ふふん♪育ったもん勝ちだ」
ごもっともな答えで。
「お姉ちゃんは巨乳と相場で決まっているのだよ!」
「その姉は誰の姉だよ!!」
すると朱鷺子は疑問を持った顔をした。
「いや、爽太君のだが」
「いや、俺は知らん」
「いや、私は君の姉だ」
「いや、俺は独りっ子だ」
「いや、君には偽物の姉が」
「どこの設定だよ!!なにかフェニックスとでも言うのか!?傷が付いてもすぐに治んのか!?」
「いや、流石に君に貫いてもらうところは治らないぞ」
いや貫くつもりもないし、てかウリンウリンすんのやめろ!
「………まったく、誰の権限だよ」
はぁっと大きく溜め息を吐きながら言った。
「勿論………姉の権限だ☆」
「即刻却下で」
会長の権限でないのなら即刻断る。
「ほぉ~?姉の言うことが聞けないなら……お仕置きだな」
「何すんだよ。俺は屈しないぞ」
俺は幾度となく楓からの暴力から耐え抜いてきた男だ。
川に突き落とされたり、踵落としを食らったり、関節極められたり、その他もろもろ………言っておく、けしてMではない。
寧ろSな方だ。
だから今回も………
「ナデナデしろ」
「………は?今なんと?」
思わず眉間を揉みほぐす。
ちょっと待て、このパターンは初めてだ。
対応がきつい。
「もう一回訊くが……お仕置きとは?」
「私を、お姉ちゃんの頭をナデナデして私の胸を揉みほぐせ」
「いや明らかに最後の付け足したよな」
いや揉みほぐしていいなら喜んでしますよ?
ですけどね~、今腕が千切れそうなんですよ。なぜかって?そりゃあ楓が睨みながら腕を極めてるからですよ。
いや~、こんな幻想ぶち壊せませんかね~……はは。
まじで腕取れる。
「はぁ……わかりましたよ。やりますよ。………副会長を」
ある意味どちらの道を行っても死亡フラグは建ちそうだけど(片方は絶対に死ぬな)別に部活に入る訳でもなかったからいいか。
「………そうか……やってくれるか、副会長を………グスン」
あれ?嫌々だけど入ったんだから良いじゃないですか。
何で泣いてんですか?
「………私は書記決定なのね」
楓も泣く泣く決意を固めたらしい。
「う、うぅ……では……明日、ほ、他のメンバーを……紹介する……ぐす……から……今日は……帰って……よし……うぇぇぇん!」
泣きじゃくりながらフェードアウトしていきやがった。
あんな会長で大丈夫かよ。
「楓、帰るか?」
「えぇ、そうね帰りますか」
楓は側にあった鞄を手に取り、立ち上がった。
「先に玄関に行ってるわ」
「あぁ分かったよ。後でな」
楓が颯爽とその場から出ていく姿を見送った。
「さて、帰る準備するか」
寝ていたベッドから降りて側にあったブレザーを着てボタンを止めている時だった。
『汝よ。我の眠りを妨げるとは覚悟が出来ているのか』
なんか女の子に厨二病的なことを言われたような……
「……気のせいか」
別に気にもせず帰りの支度を続ける。
『うぅ~、かまってよ~』
また女の子の声が聞こえた。
今回は厨二病じゃなくはっきりと女子の声が聞こえた。
「誰か居んのか?」
『あ、うん!わた……こほん、……我は汝の近くに居る。ふふ、我のこの封じた眼が疼きよる』
……とんだ痛い子だな。
まぁ一瞬だけど素に戻ることが出来てるなら、まだ道を戻せるんじゃないか?
「……隣のベッドに居んのか?開けるぞ」
『や!ちょっと待って!!』
勢いよく隣のカーテンを開けると……
「うぅ……開けないでって言ったじゃない……ぐす」
そこには左目を包帯で隠し、ブラジャーを着けている胸を手で隠し、透き通った肌が眩しく目に入る。
「いや、あのすまん悪かった。まさかスカートだけ履いてるとは思わなかった」
「それ以外解ってたの!?」
さらに布団を被って目だけを向けてくる。
「いや、たまたまだよ」
まさかスカート一丁の厨二病娘なんて誰もが思わないだろう。
俺も思わなかったんだからな。
「……貴方、不思議な力があるの?」
恥ずかしそうに体は隠すが目だけは期待の眼差しを向けていた。
……いや、この学校だったら誰もが持ってるんじゃないか?
「別に俺は何も「すごい、すごいよ!」
言葉を遮られさらには誉められた。
「別に俺は「私と友達になってくだしゃい!」
「へっ?ん、あぁ……いいけど」
なんか流されてるのか?それとも勢いに負けてんのか?
……まぁこいつが嬉しがってるならいいか。
「わ、私の初めての友達……えへへ」
……初めての友達が俺なのか?
「……中学校はいじめられてたから嬉しいな♪」
やめて!やめてくれ!!悲しすぎるよ!!
「皆にトイレに閉じ込められたり、机がずらされたり……」
「もういいから!俺が居てやるからもう言うな!!」
俺は感極まって彼女の肩を掴んでいた。
「ひゃい!……あ、ありがとう」
「俺でいいなら友達になってやるから!」
……あれ?俺は何を言ってるんだ?こんな厨二病娘に何言ってんだ?
「あの……ちょっといいですか?」
彼女が顔を真っ赤にして言ってきた。
「……ん?なんだ?」
そのまま視線を落とすと……真っ白く透き通った肌が目に入った。
「ご、ごごごめん!今出てくから!」
爽太も顔を真っ赤にして慌ててその場から出た。
それから数分して制服を着たのか言葉が飛んできた。
「ふふ……我が友よ。待たせたな……我の真の姿を見せよう」
「また厨二病に戻ってるよ」
頭を抱えて呆れる。
「ではとくと見よ!!」
カーテンが勢いよく開かれ、そこには先ほどと同じく、左目を包帯で隠していてそれにただ制服を着ただけだった。
「まぁ普通だな」
「では友よ。我が屋敷に帰還しようではないか」
「いや俺は自分ちに帰るから。人も待たせてるし」
楓に何か奢るつもりだし。てか今もう五時じゃん。
急がないとやばいな。
「ごめん、先に行くわ。じゃあな!」
急いで鞄を持って保健室を出ていく。
「えっ?あ、ちょっと!!」
……彼女だけが保健室に残っている。
「……あれ?なんか落ちてる」
拾い上げてみるとアニメのキーホルダーだった。
「……明日……届けてみようかな」
すこしニコッと笑い保健室を跡にした。
「ごめん!待ったか?」
「えぇ待たされたわ。何やってたのかしら」
ニコッと笑ったが後ろから黒いオーラが出てるんですけど。
「ごめん、ちょっと面白い奴に会ってさ」
「ふぅん、面白い女の子、ねぇ?」
やだ何?何にも女だなんて言ってないのに何で分かるの?
貴女はエスパーですか?
エスパーは伊藤だけにしてください。
「まぁいいわ。シュークリームを奢ってくれるならね♪」
スキップしながら笑顔で言ってくる。
……やはり俺の幼馴染みがこんなに可愛いわけがないを書いてみるか?
「そうかい、シュークリームかお前の好物だったな」
すこし見とれながらも後についていった。
波乱な入学式だったけど、何か楽しそうだ。
入学初日から生徒会やら厨二病娘と友達になったりしたけどすべて良い思い出になるならそれでいいや。
波乱な入学式を迎えて次の日、昨日の厨二病娘が教室に来た。
それが次の問題を引き起こす。
次回、厨二病①