入学式当日①
更新です!
入学式当日、誰もが緊張したり期待を抱く新入生で沢山だ。
しかし俺は違った。
別に緊張してる訳でもなく期待を抱いているわけでもない。
寧ろ緊張とはほど遠いのろけた気持ちと寝たいと言う自分では想像のつかない事でたくさんだ。
この暇人と言うクズな職業に対して身体が適応しようとしているのが自分でも分かるから尚更あの昨日の職業診断を恨む。
「ふぁ~……欠伸が出るな」
その眠たげな口を手で覆っていると廊下から女子の声が聞こえてきた。
しかもこの声はとても聞き覚えのある声だ。
『なんであいつ先に行くかな~』
『会ったら絞めてやるんだから』
………殺害予告と考えていいのだろうか。
「楓のやつか………あいつも同じクラスなのか」
「そうよ!あんた何で先に行くのよ!!」
教室に入ってきた途端にこれだ。
その細い足でツカツカと俺の席に近づいてくる。
どーせ八つ当たりでしかない。姿は容姿端麗で栗色の長い髪が特徴的ですぐに彼氏が居てもおかしくない美少女だ。
自分で言うのもなんだが一人の幼馴染みだ。
「ちょっと聞いてんの?」
何時の間にやら隣の席に座って不満そうにしていた。
「何が?別に何もやってね~だろ」
「フンッ、口聞いてやんない!」
………見ての通り一般的にはツンデレと言われているが、こいつはツンツンなのだ。
「まったく幼馴染みとは思えないな」
「うんうんまったく爽太君を幼馴染みに思ってないですね~♪」
「まったくだ……って誰ぇ!?」
後ろの席を見ると何故か自信ありげな顔をしている焔の姿があった。
「お前もこのクラスなのか!?」
「ふふん♪昨日の職業診断で幼女先生が担任って言ってたでしょ?」
「確かに言ってたな」
忘れてたわそんなこと。
その事より酷い印象がまとわりついてて忘れてたわ。
「何よ……あんたこいつの何よ」
おもっきしヤンキーみたいな絡み方をしている隣の一応幼馴染みが見えた。
「何よって………ねぇ?爽太君、あの事覚えてるでしょ?」
「すまん何も覚えてないったぁぁぁ!?!?」
顔面が熱い!顔付いてるよね?取れてないよね!?
それに楓の手から煙らしき物が起ってるんだけど!?
「あんた……私がし、知らないところで何やってんのよ?」
「いやなんいったぁぁい!?」
に、二発目飛んできやがった!?
「聞いてるじゃない……教えなさいよ」
目が怖いよー。助けてー誰かー。
「あの日は満月が綺麗な日だったね」
三発目が飛んできた。
「すずと爽太君が「もうやめてくれ!!これ以上叩かないでくれ!!い、いぶぁぁ!!」
焔が話している最中、爽太は虚ろな目をした楓のビンタの嵐を受けていた。
しかも他の生徒が来てもその嵐は止まらなかった。
じっくりと痛めつけられ顔が浅黒くなっている勢いだった。
「い、いっふぇ……鈴莉のやつ何言ってんだよ。二人ともただの幼馴染みじゃねーかよ」
それを聞いたのか楓が睨んできた。
「何でもありません。気にしないでください」
ったく、鈴莉は鈴莉で制服にパーカーを着込んで首もとにヘッドホンをぶら下げてニコニコしてるし。
楓は何かノートにかなりの文章書いてたまにフフっと笑う。
さっきの威勢はなんだったんだろう。
普通にすれば可愛くて彼氏なんてすぐに出来そうなものだ。
「……えへへ」
……なんかいつもと違う感じで気持ち悪いんだけど。
「……キモッいったぁぁ!!」
どんだけ地獄耳なんだよ!!に、肉千切れる!!誰か助けてぇぇ!!
「おい、やりすぎとちゃうか?」
前の席から関西弁の男子の声が聞こえてきた。
「なにかしら?別に普通の事じゃない」
これが普通ですか!?
普通の上って死ぬの!?
「いやさっきからこいつ痛がっとるやん。それに普通は拒否すればいいんやないの」
「私の勝手じゃない。私はこいつの幼馴染みなんだから」
その幼馴染みの言葉に鈴莉がフードの耳をピクつかせる。
「楓ちゃん、すずも爽太君の幼馴染みなんだけど」
鈴莉もこの二人の口論に交じっていく。
おいおいやめてくれよ?今日ぐらい大人しくして……!?
チョークが爽太のデコで砕けたて爽太は気絶した。
いがみ合っている三人はそれを見て教卓の方を見た。
満面の笑みをした幼女先生がもう一本投げようとしていた。
「ちゃんと席に着いてくださいね~♪(おい、いい加減にしろよ?あぁっ?)」
三人は思ったこの世にはまだ未知なる事があると。
そして三人がそれぞれの席に座った直後だった。
『これから入学式を始めます。新入生は整列してください。』教室に備え付けられているスピーカーから整列の指示が来た。「はい、皆さん体育館に行くので廊下に並びましょう♪」
幼女先生がそう言ってクラスの人達を廊下に整列させた。
「先生、最上はどうすればいいんすか?」
関西弁の男子が訊いた。
「寝させてあげましょう♪」
クラスの全員が思った。
『て、適当だな~』
「爽太君に後で抱っこしてもらお~♪」
鈴莉は鼻歌混じりでそう言った。
「………だらしない顔……えへへ」
楓は楓でまたノートらしき物に何かを書いている。
「あいつ大丈夫なんかな~」
関西弁の男子は爽太の事を気に掛けていた。
そんなことをしているとあっという間に会場に着き、入学式が始まった。
そのころ爽太は……まだ気絶していた。
………………。
「……なんだあの可愛い生き物は」
遅刻してきたのかスクールバックを持って眼鏡を掛けている女子生徒が爽太を見て立ち止まった。
「ん?よく見れば私の教室は此処じゃないか」
そう言って楓の席に腰を下ろして爽太を見ていた。
「このフニャッとなった顔が何とも言えず可愛い」
すると何かハッと閃いたらしく、楓の物を教室の端の机に追いやり楓の席を乗っ取った。
「ふふん♪この席なら何時でも可愛い生き物を見れるぞ♪」
黒い髪を靡かせて、ずれた眼鏡を元の位置に戻し更に爽太を見てうっとりしていた。
~一時間後~
「………んぁ?あれ他の奴等は……」
爽太は目が覚めて周りを見回したが誰も居ない。
あれ?何で寝てたんだっけ。
さらに周りを見渡すと楓の席に黒く長い髪が目に入った。
しかも静かに寝息をたてている。
「あれ?楓の髪って黒だっけ?」
それに眼鏡も掛けてるし。
しかも少し制服がはだけて肩の透き通った肌が丸見えだ。
「えっ!?ちょっと何ではだけてんだよ!!」
爽太は思わず立ち上がり椅子の音が教室に響いた。
「ん……ふぁぁ……あ、私としたことが寝てしまったようだね」
眼鏡を上げて目を擦る。
爽太は何が起きているのかがさっぱり分からない。
この人が誰なのかすらも。
「ん?君が私を起こしてくれたのか?すまないね」
「………………」
少しその場な時間が止まった、と言うか爽太だけが動けなかった。
「ん?どうしたんだい?固まったままじゃないか。カッチカチだぞ?」
その下ネタにツッコムことさえ出来ない。
何故なら………
「ん?廊下に何か………」
眼鏡美人も時が止まった。
二人は何故か底知れぬ恐怖が体を包み込む。
あの鬼神の目が二人の心を鷲掴みしているのだ。
右手には握り潰されてくしゃくしゃのノートらしき物が、左手にはカッターが握られている。
「あ、あ、あの君のし、知り合いかい……?」
「い、あ、は、はい……そう、です」
けど………あんな鬼神みたいな幼馴染みは知らない。
「か、彼女の………な、名前は?」
「菱西楓です」
そう自己紹介が遅れたがこの鬼神みたいな幼馴染みの名前は菱西楓なのだ。
いやしかし………なぜ鬼神化しているのかが分からない。
そしてなぜ一人で教室に来ているのかも分からない。
「なんで………一人、なんだ?」
周りに誰も居ないし………なぜ?
「……あんたを連れに来たのよ」
連れてくとは地獄のことですか?
「幼女先生が連てきてくださいって言ってきたから来たの」
カッターの刃がカチカチと出される。
「あ、あぁ!そうだったのか~!分かった今行くから」
ゆっくりだが鬼神と化した楓の所まで歩いた。
「ちょっと待ってくれたまえ!私も行くぞ」
そう言って爽太の後ろをついてきた。
まぁ爽太にしては別についてくるくらい何でもない……が楓には不満らしい。
楓の所まで来た途端に刃の出たカッターを黒髪の女子に突き付けた。
「か、楓?どうしたんだ?なんかいつもと違うぞ?」
そう楓の行動には不可解な点が幾つかある。
まず1つは日記みたいなのを書いていること。
2つ目はこの妙な反応だ。
もしかしたら俺みたいに変な職業になっているのか?
これは聞いてみるしかない。
「なぁお前の職業って何なんだ?」
「私は裁縫士だぞ?」
「いやあんたに訊いている訳じゃないんだ」
て言うか裁縫士ってどんな職業だよ!……って人の事言えないか。
「で楓は何の職業なんだ?」
突き付けていたカッターを下げた。
そして職業の名が楓の口から出された。
「……ナイフ使い……」
……ふむ、カッターを持っている事は納得したけど……その手に持っているノートは何なんだ?
「行くよ?爽太」
「ん?あ、あぁわかった」
結局何なのかは分からなかった。
入学式当日に焔鈴莉と菱西楓、それに関西弁の男子、黒髪の眼鏡美人が現れた。
しかし楓の反応がおかしい、何故だか今までやったことのない日記みたいな事とかをしていた。
次回、入学式当日②