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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

空土 海

孤独の先に

 雨が降っていた。薄暗い景色のはずだった。

 今の目には赤い世界。雨の音が聞こえない。

 なにがあったのか脳が理解するのを拒否している。

 目の前が真っ暗になった。

 気がつけば一人になっていた。



 高校一年生で顔立ちは整っているがあまり印象が強くはない少年、竹川 限輝は毎日何の楽しみもない日常をただ繰り返している。

 そんな彼も昔は、性格は明るくていつでも笑っているのが印象的で運動が得意な小学校六年だった。あることがきっかけで変わってしまった。

 今では同一人物とは思えないほど変わってしまい、誰とも口を利かず笑顔も見せなくなってしまった。

 そんな状態で中学生活を過ごし今では高校生。

 中学生活から変わったことといえば肩書きが高校生になったぐらいだろう。

 新しい環境なっても変わらない、人と関わろうとしない、いつもひとりでただ学校に通っている。

 趣味は特にないがボランティア活動はよく行っている。何かの償いのようにそれ以外には課題、委員会の仕事などしかしていない。

 この彼の五年間の生活を例えるなら時計。規則正しく時間を刻むそれ以外のことはなにもしない。



 九月の始め夏休みが終わった頃。自転車通学の限輝は下校中だった。今日から通学経路にある道が補修工事で通れないためいつもと違う道を通っている。

 新しい経路の途中には公園があり、もう寂れていて誰も遊んでいない公園。

だけどそこにはなぜか一人の少女がベンチに座っている。

 最初は気にもとめず通り過ぎた。

 それから何度も見かけた。晴れの日には必ず居る。なにをするでもなく座っているだけ。

 限輝が少女を初めて見かけた日から一カ月が経った。工事は終わったが、通常の通学経路に戻さなかった。

 ――あの子が気になる。

 限輝はそう感じているためだろう。

 その理由はわかっていないようだ。

 ――話しかけてみようか?

 それは限輝が久しぶりに他人に関わろうとして決心しとのだった。

 限輝は下校途中に公園前に自転車を止めて少女の下へ向かった。

「ねえ、ここでなにをしてるの?」

 ぎこちなく話しかけた。いきなり話しかけて下手をしたら変人扱いだろう。だが自分の意思で話しかける行為自体が久しぶりの限輝には、うまい言い回しや話しかけ方を期待しても無駄だろう。

 だけど彼女は答えてくれた。

「……日向ぼっこ」

 顔を上げた少女の歳は限輝とそれほど変わらない。髪は肩にかかるぐらいの長さ、青い縁のメガネを掛けている。顔立ちは幼さが残っていて人に聞けばほとんどの人がかわいいと答えるだろう。

 しかし質問の答えは無表情のままで、声には感情がこもっていなかった。それは他人がどうでもいいと感じさせる。

 その言葉を聞いた限輝はよく考えれば夕方に日向ぼっこなどおかしいことに気がつくはずだが、質問の答えなど気にしていなかった。なぜなら少女が気になった理由を理解したからだろう。

 ――ああ、そうかこの子も同じなのかもしれない。

 他人と関わることを拒否しているような態度を自分と重ねていた。

 そこでまた話しかけた。今度はぎこちなさが消えていた。

「僕の名前は井上限輝……君の名前は?」

「……籠塚 美幸」

 少女はさっきと同じ態度で答えた。

 それから限輝は毎日少しずつ美幸に話をしかけた。

 最初は今日の天気とか気温とかくだらないことだった。何を話せばいいかわからないため話題は限られる、なにもない時は黙って空を見上げた。反応がなかったり、簡単な相槌だけだったりしたが、毎日少しでも話しかけていた。

 たぶん籠塚さんが変われば僕も変われるかもしれないなどと期待を持っていたのだろう。

 そのうち籠塚さんも話に答えてくれるようになっていた。

 今日も話しかける。

「こんにちは籠塚さん」

「こんにちは」

 笑顔こそ見せないが自然に話していた。

「今日はいい天気だね」

「そうだね」

 ――ここまでのやりとりは何回目だろう。

 そう思いながら、苦笑いを浮かべ今日の話しをしだした。

「最近は数学が難しいんだよ、このままだとついていけなくなっちゃうかも」

「……私が教えてあげようか?」

 苦手科目は数学、得意科目は歴史と以前に話してあり、そのときは「そう」としか返ってこなかった。今回も同じ返しだろうと予想していた限輝は、その言葉を聞き自分の耳を疑い驚きのあまり少しの時間行動不能に陥っていた。なにせこれが美幸から行動をしようと動いたところ初めて見たためだろう。

「……やっぱりいい」

「え? ――えっと……その……よかったら僕に数学を教えてもらえませんか?」

 ちょっと驚いているところを美幸は、自分に教えてもらうことを迷っていると思ったのだろう。前に話した中に美幸は限輝に今は、学校に通ってないと告げていたのが原因だろう。

ちょっと慌てたが逆に自分から頼んでみることにした。

「……わかった、教えてあげる」

「ホント? ありがとう!」

 お礼を言うと無表情の籠塚さんの表情がいつもと違うように見えた。それを見て前より顔の表情がでるようになったと感じた。

話しかける度に少しだけ変わっていくような気がするけど、籠塚さんよりも僕は変わったかもしれない。

 ――昔の性格が戻りかけているのかな……。

 それからも話しかけた。特に日常に変化がないから話題は限られているけれど、もちろんそれから毎日のように数学を教わっている。

 今日も一冊のノートで数学を教わっている。

「ここは式を変形させてからこの公式を使うの」

「まずは変形させて、それでこの公式を使って……できた。どうあってる?」

「……正解だよ」

「本当?籠塚さんは教えるのうまいよね」

「そんなことは……ただ私が教えてもらったことをそのまま利用しているだけだし」

 口調は慌てていて声が小さくなってく。

「そんなこと関係ないよ、僕に教えてくれているのは籠塚さんだし」

 僕の表情は久しぶりに自然と笑みが出た気がした。

 美幸は黙りこんで顔を伏せている。

「今日はもう帰るね」

「あ、もう時間か……じゃあまた明日ね」

 限輝は手を振りながら言うと、去っていく美幸のボソリと小さい呟きを聞いた。

「また明日」

 限輝は驚きよりも嬉しさの方が強かったようだ。

 ――そういえばもうすぐクリスマスか……その日も公園に居るのかな?

 雨の日は居ないが土日はいつもの時間に居る。限輝が先に来ることがあることので、時間は四時から五時までの一時間だけだろう。

 その理由はわからないし聞けない。そこまで深くは踏み込めない。僕にも言えないことはある。それがわかっているからお互い詮索しないのだろう。

 そしてクリスマスイヴ。

 ――さすがに居ないかな。

 そう思いつつ期待してしまっているプレゼントを持ち、お金は使うことがなかったからそれなりに貯まっている、クリスマスプレゼントとしてコートと手袋を選んだ。

 籠塚さんはいつも公園にはちゃんと暖かい服装をしているけど、僕はこれといって籠塚さんの好みとかを知らない。なぜなら最初は話に乗ってくれなかったし、僕も話すことがあまり思いつかなくて自分のことを話題にあげていた。

 そのせいでタイミングを逃してしまい、知らないことが多い……だからコートにした。これなら迷惑にならないだろう……サイズは大丈夫のはず。

 公園に行ってみるといつものベンチに座っている美幸が居た。

 ――僕も人のこと言えないけどクリスマスでもやることがないのかな……

 そんな失礼なことを考えている限輝が苦笑いしながら話しかけた。

「やっぱり居たんだ」

「やることないし、来ると思ったから……」

「そっか……これ、クリスマスプレゼント。気にいってくれるといいんだけど」

 普通プレゼントは最後に渡すものだろうが、緊張しているため目的を早めに達成しようとする。

「……ありがとう、これは私から……頑張ってね」

「……ありがと」

 両方ともこういった慣れてないのか少しぎこちない動きでプレゼント交換をした。美幸は微笑を浮かべ、限輝は笑顔だった。

 プレゼント交換は無事終了したけど「頑張って」とはなんのことだろ? 疑問をもったけどやっぱり嬉しかった。そんなに大きな箱ではないけどちょっと重い、中に何が入っているのだろう気になったため開けていいか聞いた。

「開けてもいいかな?」

「いいよ」

 ガサガサ包みを簡単に開けてから箱を開けてみると、本が五冊入っていた。数学の問題集と参考書だった。

「数学これからもっと難しくなるだろうし、頑張ってね」

「……うん、がんばるよ」

 ――特に欲しいものがなかったけど数学……まあ籠塚さんが僕のためを思って贈ってくれたものだ。大丈夫プレゼントは中身より気持ちだ。

「そっちも開けてもいいんだよ」

 もしかして僕のプレゼントにはなんの興味もないのか少し不安になりながら聞いた。

「楽しみは後にとっとくの、帰ってから開けるよ」

 頬を染めて少し恥ずかしそうに言った。

 限輝は安堵しほっと胸を撫で下ろした。

「今日はもう帰るから……ごめんね、またね」

 少し悲しそうな顔をして美幸は足早に去っていってしまった。

「え? ――あ、またね」

 少し茫然としながら言葉を返した。

 ――さっき「特にやることがない」と言っていたけど、どうしたのだろうか?……

 ――久しぶりに家族と話してみようかな……

 ふとそんなことを思っていた。

 高校に入学するときに話して以来会話らしい会話をしていない。美幸と出会い話していくうちに限輝は昔に戻りつつあるようだ。

 次の日にも居た美幸は特に変わった様子がなかった。

 ――プレゼントはどうだったのかな。

 気になるがちょっと怖いから聞けなかった。

 そしてクリスマスから三日後。

「いつもベンチに座っているか立っているかだし、たまには歩かない?」

 なんとなくしてみた。

「そうだね、歩こうか」

 美幸はなんだか何かを思い出したような顔をして答える。

 美幸が少し先を歩いている、足取りからするに川原を目指しているのだろう。公園から歩いて二十分くらいでつく川原だ。

 とくに話すことが思いつかないので並んで歩くだけだった。

 ――このまま進んだら……

 限輝の足取りが急に重くなり、少しして立ち止っていた。その二

 十メートル先の電柱に干からびた小さな花束が置いてあった。

 先に行ってしまった美幸はどうしたのだろうかと思い戻ってくる。

 ふと顔を上げた限輝は、戻ってくる途中の美幸を見た。美幸の前にあるわき道から車がでてきた。もちろん両方ともスピードはでていないしはぶつかったりしない。

 いやな汗がどっと出てきたような気がした。顔が青ざめ気分が悪くなることを自分でも理解した。だが美幸に知られれば迷惑をかける。

 ――なにか言い訳を……

「顔が真っ青だよ、大丈夫なの?」

 いつの間にか近くに来た美幸が心配そうに話しかける。

「え? ああ――ちょっと気分が悪くなっただけだよ。大丈夫すぐ直るって」

「大丈夫じゃないよ、公園に戻ろうよ。散歩はいつでも行けるし」

 美幸は限輝の顔色を見て取り乱している。 

 ――無理をしても逆に迷惑をかけそうだ……

 ここは美幸の意見に甘えておこう。

「……わかった。戻ろうか、迷惑掛けてごめん」

 二人は公園に戻りベンチに腰を下ろした。

「今日はもう帰ろうよ」 

 美幸が心配そうに言った。

「……大丈夫……それより……聞いてほしいことが、あるんだ」

 先ほどより顔は青くないがなにか決心したような顔でいった。

「実は……」

「いいよ、言いたくないことは無理に言わなくても」

 言おうとすると言葉を遮られた。

「……いや、知ってもらいたいんだ」

 美幸の言葉に甘えそうになったのを堪え語りだした。

 

 

 それは限輝が小学6年生の頃の話。

 その頃はまだ明るく笑っていることが多く、運動が得意で学年では一番だった。

 ある日に限輝が仲の良い友達3人との帰りに、近くの川原まで競争しようと提案があった。

「え~限輝が勝つに決まってるじゃん!」

「そのかわり限輝は10数えたらスタートな」

「それなら俺も勝てるかもな、やろう」

「え! 十か~……まあそれぐらいのハンデがないと勝負にならないよね~」

 友達の意見に、笑いながら限輝は答えた。

「まったくいつものほほんと笑ってるくせに、運動はスゲーんだからな~」

「ホントホント。だけど今日は勝たせてもらうぜ!」

「よーしここから川原まで、よーいスタート」

 掛け声とともに3人が走り出した。

「一、二、三、四……十と」

 十数えた限輝は走り出した。

 四人全員が走り先頭は二人が並び一人が少し遅れてその二十mほど後ろに限輝が走っていると、先頭の二人の近くのわき道から車が出てきた。飲酒運転していた運転手は居眠り運転だった。そのせいで速度が出ている。そして車に衝突した三人、先頭に居た二人は車と壁に挟まれた。一人は跳ね飛ばされて限輝の目の前に飛んできた。その拍子で赤いものが顔に付着した。

「――え? …………な…………」

 なにが起きたのかわからなかった。ほんの一瞬のできごとだ。言葉を出そうにも口からは空気が抜けたようなものしか出てこない。

 そして周りに人が何人もいた。救急車を誰かが呼んだのだろうサイレンの音が聞こえてきた。

 そんな中、少し状況がわかった。友達は死んだのだと。

 否定したくても脳は目に見えているものを現実だと理解している。

 病院に運ばれ診察を受けていた僕は…………

 ――僕は死ななくてよかった。

 なんてことが頭をよぎった。ほんの少しでもそんなことを考えた自分を自分で殺したくなった。

 挟まれた二人は即死だった。飛ばされた一人は意識不明の重体。

 そのことを知って罪悪感で潰されそうな心は家族や医者、警察の言葉よりも心を軽くした。

 ――治れば僕を責めてくれる。あんなことを思って、事故の原因を作った僕を……

 限輝は罰を求めていたのだ。家族も死んだ友達の家族も警察もみんな「君のせいじゃないよ」としか言わない。逆にそれは限輝の罪悪感を強めていたのだ。

 だが一カ月後に最後の友達は亡くなった。

 自殺もしようとしたが死を目のあたりにしてしまった僕は怖くてできなかった。

 そのかわり言い訳をみつけた。死んだ友達の代わりに幸せになろうとは思はないけど。

 ――償いをしよう。

 その考えでまずはもう誰とも仲良くしない、誰かの役に立てる行動をしようと思った。



「これが僕の過去、そう忘れかけていたんだ……」

 ――ああ、そうかまた思ってしまった。自分だけはと……

 そう過去の出来事と今の現状を比べていた。

「それは違うよ――なんにも悪くない、罰も償いもしなくていいんだよ、五年間も苦しんだんじゃないの? もう……いいんだよ」

 美幸は泣いていた。

 ――籠塚さんも同じなのか。

 そう思ってしまった。

 ――僕は一体何を期待してたんだ?

「違くなんかないよ……僕のせいで……僕だけが……」

 だが美幸は泣きながら続けた。

「そんなのただ逃げてるだけだよ、事故の事実を受け止められれなくて他人が与えてくれる罰を求めて……そう思わないと自分が許せないだけ、許したくな……」

「……いったい僕の、なにがわかるんだよ」

 突然耐えきれなくなったこのように声を荒げた。限輝の表情は

 ――なんで怒鳴ってるんだ? 自分から話しだしたくせに……

 そんな思考も一瞬で流されていった。そして激しい怒りとは違う感情が渦巻いている。

「全部はわからないよ……でもそれが間違っているってことだけはわかる」

「そん――」

 また叫んでしまいそうだった。だが声は遮られた、美幸が限輝の頭を抱きしめたせいだ。

「そんなに自分が許せないの? 事故は別に限輝が望んだわけでも、起こしたわけでもないでしょ? ……大丈夫今なら受け止められるよ」

 ただ聞くことしかできなかった。今どんな表情をしてるのかわからない。

「私だって一人の辛さはわかるよ、一回決めてしまったものは変えたくても自分だけじゃ変えられないってことも……」

 その言葉には昔周りの大人達がかけてきたような薄っぺらなものとは違いとても重みがあり、気持を落ち着かせてくれた。

「もしも許せないんなら私が許してあげる。もう限輝は償いをしなくてもいいし、罰ならもう受けてしまってるから」

 そこで美幸の腕の力が緩んだ。そして限輝は顔を上げた。

 美幸は涙目になりながらも笑っていた。

 そして頬になにか流れてきて、流れてきたものに手を触れた。

 ――僕は泣いているのか……だけど、昔流した涙とは……

 限輝はその違いにはうまく気がつけていなかった。昔の涙は悲しみと辛さに耐えきれず溢れてきたもの。今はそれとはまったく違う。溜まっていたものが安堵をきっかくに流れ出ていったかのように泣いている。

「僕は許されてもいいの? 罪も償いもいらないの?」

 年下の少女にまるで子供がわからないことを聞くかのように問いかけた。

「いいんだよ……でも忘れてはダメだよ。友達のこと辛くても逃げちゃダメ、受け入れて、抱えて生きていかないと」

 美幸は苦笑いを浮かべていた。さっきの笑みとは違った。

 ――私がこんなんこと言える立場じゃないのに、でも限輝をみていたら自然と言葉が……

考えていたことは次の瞬間どこかへ行ってしまった。

「ありがとう」

 昔と同じように周りの空気も暖かくしてくれるような笑みで言った。

「もう、だ、大丈夫でしょ?……」

 その笑顔に見とれ、頬を染めながら言った。

「そうだね、楽になったよ……」

 時間が経ち落ち着くと二人は顔を真っ赤にしていた。

 ――そういえば名前で呼ばれた。抱きしめられたし……

 ――あんな大胆なことしちゃった……

「えっと……」

「も、もうこんな時間。そ、そろそろ帰るね――またね」

「あ、うん、じゃあまたね」

 足早に去って行く美幸の背中を見送った。

 背中がとても小さく見える。

 ――ああ、あんな小さいのに、年下なのに。

 もう事故のことで悩むことはやめよう。美幸が言ったように忘れてはいけない。なによりまた心配をかけることはいけないと考えていた。

「まさかこんな形で事故のことをふっきれるとは思いもしなかったな」

 美幸の歩いて行った方向をみて呟いた。

 ――たぶん美幸も何か抱えている。話してくれたときには僕の番だな……

 次の日。

 最初は気まずそうな空気だったが、その時間を十分たらずだ、その後はまるで昨日のことがなかったかのように、普通に会話した。

 そして今年最後の日にも同じようにベンチに腰を下ろしていた。

 今日はまだ何も話していない。

 先に動いたのは美幸だった。

「あのね、今日は私が聞いてもらいたいことがあるの」

 まっすぐに目を見てくる。その眼にはなにかを決意したかのように見えるほど真剣だった。

「この前、限輝の過去を話してもらったから今日は私のことを話そうと思うの」

 こちらを真直ぐ見ている。僕が話した様子とはまるで違うな。心の中で苦笑した。

 こちらもまっすぐに見返した。それを肯定ととったのだろう美幸は語りだした。



 私立の小学に通っていた。体が弱かった美幸はよく保健室を利用していた。

 もともと家族も過保護過ぎたし家が裕福だった。

「やって大丈夫なの? 無理にやらなくてもいいんだよ?」

「もー体育の時間はいつも言ってくるんだから、大丈夫です」

 ――なんでいつも……

 体が弱いことから周りが自分を他の人とは違う目で見てくるのが嫌だった。

最初は気がつかなかったけど先生も私のご機嫌取りみたいなことを言ってくる。このことに気がついたのは五年の時だった。両親は学校に多額の寄付をしているらしい。それから先生の言葉が嘘のように聞こえた。

 家のことで特別扱いされるのも嫌だった。

 エスカレーター式の学校で同じ敷地に中学の校舎があるため、中学へ行っても環境に変化がなかった。

 中学二年の七月に学校で倒れた。

 そこから周りの態度がさらに変わっていた。友達も先生も家族も今まで以上に気を使ってくる。

「大丈夫?」「無理しないでいいんだよ」同じような言葉を毎日聞いた。

 嫌になった。先生や友達のことを拒絶した。

「私は大丈夫なの、もっと普通に接してよ」

「なんで先生は私ばっかり気を使うんですか? 特別扱いはやめてください」

 誰も私の言葉を聞かない。友達はただの強がりだと思っている。先生はやめる気すらないだろう。

 家族も私を理解してくれない。ただ心配してくれているけど本当の私を見ようとしてくれない。

 学校に行かなくなったのだって最初はただ言ってみただけだった。

「私学校行かない」

「え? 大丈夫なの? すぐに病院へ――」

「……違うの、別に学校で勉強するより家で勉強した方がいいと思ったから」

 適当な理由を言った。嘘だと、それはダメだって言ってくれると期待していた。

「あら、そうだったの。そうね、美幸なら学校の先生のレベルじゃたりないわね。午後に来てくれる家庭教師を雇いましょう、大丈夫学校には言っておくから」

 期待は簡単に破られた。誰も自分を見てくれていない。私は一人なんだと思った。

 


「それで今の状態、ここに来る時間は両親に無理を言って散歩するための時間を作ってもらったの。付き添いも付けるって言われたけど一時間のためだけに雇うのもって言って……少しでも動かないと体力落ちちゃうから……」

 限輝は黙って聞いていた。

「限輝の過去なんかより全然かるいでしょ?」

 美幸の顔は笑っていた。だけど無理をしているように見えた。

「そんなことない、一人の辛さわかるから。それに理解してくれる人が誰もいなかったなんて……」

「そうだね、でもこの話はもういいの。限輝のおかげでもうとっくにふっきってるから」

 今の笑みは本物だった。

「僕はなにもしてないよ……」

「なにもしてなくなんてないよ、話しかけてくれてきっかけをくれたよ……でも最初は何この人とか思ったけど」

 ――そうっだたのか……やっぱいきなり「なにしてるの?」はないよね……

 軽く落ち込んだ。

「でも本当に限輝には感謝してるの、ありがとう」

「そ、そっか。とにかく良かったよ」

 面と向かって言われて少し照れながら言う。

「でもね、ここに来るのは今日が最後なの……」

 不意に悲しそうな顔をした美幸が口を開いた。

「え? ……なんで」

 不意打ちの言葉に驚きのあまり声をだした。

「ほら、限輝も私も過去のトラウマから立ち直ったし……」

 困った顔をしながら言った。

 ――言えない理由があるのかな?

「それだけかな?」

 思わず口にしてしまった。

 さらに困った顔をした美幸。

「え? ――私来年受験生だし……」

「高校での勉強が楽勝なのに?」

 その答えに焦りだしてしまった。

「……実は引っ越しを……」

「もういいよ、何か事情があるんでしょ?」

「……うん、ごめん」

 美幸は顔を伏せていた。

「でもこれが永遠の別れじゃないよね?」

「うん……」

「じゃあ待ってるから」

 笑顔で言った。寂しいけど信じているから。

 美幸はなにか考えごとをしていた。

 それを見て言葉を待った。

「ねぇ、別れる前に聞くけどさ、私たち……友達だよね?」

「僕はそう思ってるよ」

 何を言われるかと思ったけど、友達…確かに僕たちの関係は微妙だしどう思われるか不安だったけど、籠塚さんも友達と思ってくれていたみたいだ。

 そして籠塚さんから突然の提案だった。

「だ、だったら――名前で……呼ぼうよ」

「え? それって名前で呼ぶてっこと?」

 驚いて気の抜けた声で言った。

「うん。だって私は呼び捨てだし、そっちは名字でさんが付いてたし……」

 だんだん声が小さくなった。

「えーと美幸さん?」

 なんだかすごく気恥かしく思いながら言う。

「――さんは、いら……ないよ」

 消えそうな声で言う。

「よ、呼び捨てはちょっ――」

 美幸が限輝をじっと見ている。限輝はどの道かないそうもないと感じ、諦めた。

 だが恥ずかしさから言葉に詰まった。

「わ、わかったよ……み、美幸」

 それを聞いた美幸は嬉しそうに笑っていた。

「じゃ、じゃあ……またね、限輝」

「またね、美幸」



 それから一年と四か月ほど。

 限輝はクラスメイトや家族とのコミュニケーションを取るようにしていた。今までなにもしなかた分何かやろうとして生徒会長なった。

 別れてから三カ月で参考書の最後に手紙があった。それには来れなくなる理由が書かれていた。


 学校で倒れた時の検査で手術が必要だってわかたっけど、私が嫌だって言いはったら医者の人が本人が嫌がってるから無理やりはできない、手術はまず半年ほど待ってくれてそれまでに体力を減らさずできるだけ増やしてって言ってくれたの。

 けど私はこれからもどうせ1人なら別にしなくていいかもって思ってた。だけど限輝に会って話して変わっていった、生きたいと思った。だから手術を受ける決心がついたんだ。

 心配かけたくなかったから手紙をかいたけど、できれば再会を待っててほしいな

 美幸


 ――年下にどれだけ気を使われてるんだろうな、情けない。まあ再会は信じてるから会ったときにでも聞くか僕ってそんなに頼りないかとね……

 生徒会、ボランティア活動、勉強と忙しいけど美幸のおかげで今は充実した生活をおくれるようになった。今頃はどうしてるかな? 

 あ、今は感傷に浸っている場合じゃなかったな。

 今日は入学式で生徒会長として話をしないといけないといけないし、緊張するなー。

 新入生代表挨拶が終われば次に、生徒会長挨拶がある。

『新入生代表挨拶 新入生代表籠塚美幸』

「はい」

 代表の名前が呼ばれ返事があった。

 ――ん? カゴヅカミユキ……

 壇上に上がっていく人物を見た。

「え? え~~~~~~!」

 あまりの驚きに声を出してしまい周りがこっちに注目した。

 美幸はこちらを見て笑っていた。

 ――まさかこんな再会の仕方になるなんて。

 限輝は恥ずかしさよりも驚きと嬉しさの方が強かったため、そんなことを考えていたが、そのことにより生徒会長挨拶で言おうとしていたことが何処かへいってしまった。

 ――あれなんて言おうとしてたんだっけ?

 思いだそうとしていたら美幸の話は終わってしまった。

『――――新入生代表 籠塚美幸』


これが処女作であり、黒歴史……

読み終えてもらっただけで、小躍りするくらい喜べる自身がある!!

今後もよろしくおねがいします。



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