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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

戦場の妖怪

作者: 神榛 紡

この文章には性的で不快な表現がされています。

直接的な表現はありませんが、それを想像させる文であっても受け付けないという方は今すぐブラウザバックをしてください。

 戦場の妖怪、か。どうしてそんな話を聞きたがるんだ。

 

 ああ。確かに軍に潜む悪魔だの夜陰の悪夢だの他にも色々と名前がある。知らないならその方がいい忌み名だよ。戦場でそれを口にした奴は、例えば俺の部隊なら手と足を縛り付けてテントの入り口に放り出される。

 

 古参の連中は皆、奴が現れるのを恐怖しているんだ。

 

 何? まるで実在しているかのような言い方だなって?

 

 馬鹿を言うな。実在しているかのような、じゃない。あの悪魔は実際に、確かに存在しているんだ。古参の連中、特に戦争経験のある連中は全員それを知っている。知らざるを得なかったんだ。

 

 そうだな。ここでこうして話しているのも何かの縁なんだろう。一つ、俺の体験談を話してやる。

 

 

 

 あれは、八年前のインド辺境で起きた紛争に介入した時の事だ。

 

 俺はまだまだ新米の二等陸士で、その紛争には食事の配給や予備の銃の整備なんかの雑務をこなす為に付いて行ったんだ。それこそ、危険手当が付く割には矢面に立たない気軽な立場だったよ。他のもっと優秀な連中は見張りだの巡回だのに引っ張り回されて小突かれてたのに比べれば気楽な役目さ。

 

 だが、そんな紛争の介入が長引いて、三ヶ月も経った頃だ。

 

 俺は食事の配給に行った時に、将校の奴らの一部がいやに疲れた顔をしている事に気が付いた。目の下に隈を作って、ゲッソリした様子で食事も大半を残したんだ。あの戦場じゃ無駄に豪華な配給を貪り食う事と酒を飲むのが生きがいのような連中が、だぞ。

 

 だがまあ、連中が現地の女性を金で買って連れ込んでいるのは周知の事実だったし、本人達もそれを隠す気も無かったから、どうせいい歳して頑張り過ぎたんだろうと妬み混じりで仲間と陰口を叩いていたんだよ。

 

 そしたら当時の隊でも気さくで人気のあった中尉が通りかかってこう言ったんだ。

 

 「ああ。とうとう悪夢が始まったのか」

 

 ってな。本当に唐突だったから何も知らなかった俺達はギョッとして、一体どういう事なのかと中尉に聞いたんだが、「いずれ分かる。分からないままなら、いっそその方がいい」なんて言って何も話してくれなかった。

 

 それから一週間ほども経つと、知っている連中の大半は恐怖で寝不足気味になり、知らない俺らはそんな連中の姿を見て、一体何が起こっているのかと年甲斐も無く右往左往していたんだ。

 

 そんな中で、俺は気付いちまったんだよ。

 

 何に気付いたのか?


 そりゃ簡単な事だったよ。きっと、糧食を配ってた連中は全員気付いていただろうくらいには簡単な事で、それに気付いた俺は戦慄と共に恐怖が足元から迫ってきているのを自覚した。

 

 もったいぶるなだと。お前は経験した事が無いからこそそんな事が言えるんだよ。実際にあの時あの場所で気付いちまったら、もう後戻りなんかできやしない。

 

 ホラー映画のセオリーさ。まるで悪霊が主人公にジワジワと近付いている事を知らしめるかのように、ゲッソリと痩せこける奴の階級が徐々に下に下にと下がってきていたんだ。

 

 分かるか? ジワジワと、しかし確実に自分の階級へと被害が近付いてくる恐怖が。

 

 そんな恐怖を押し殺して空元気で陽気に振舞っている内に、とうとうあの忠告してきた中尉さえもヤられちまったんだ。朝飯を無理矢理飲み込んでる姿はまるで幽鬼だったよ。

 

 俺はそんな中尉の姿が目に焼き付いちまってな。夜な夜な中尉のゲッソリと痩せた顔が浮かんできては目が覚めて、寝不足のまま朝を迎えるなんて事が難度も続いてた。

 

 ああ。その間もしっかりと階級は下へと下がってきてたよ。ひと月で俺と同じ二等陸士に被害者が出ていたような始末だ。もはや、迫る恐怖はすぐ隣りで、いつ来てもおかしくなかった。

 

 本当に奴が来たのは、俺の隣のテントの奴が被害に遭って五日目の夜さ。

 

 その日も俺は中尉の顔がまるで警告するかのように頭に浮かんで眠れて居なかった。ある意味、これは幸運だったんだろう。

 

 突然だ。突然俺の分隊が寝てるテントの前に何かが立って、土を踏む音に俺は硬直して動けなかった。

 

 だが、そんな事はお構い無しに奴はテントのチャックを上へと引き上げてゆっくりと、まるでサバンナを歩くライオンのように余裕の窺える動きで中へと入ってきた。

 

 それに俺とは逆のテントの角で寝ていた仲間が反応して目を覚ましちまった。

 

 きっと、奴はそうやって目を覚ました奴を襲っていたんだろう。迷う事無くそいつの所にいって、寝袋から慌てて出ようとするのを押さえるかのように襲い掛かった。

 

 ああ。それから先は思い出したくもねぇ。ずっと心の中で俺は見てないし聞いてないし気付いてないと呟き続けたんだ。奴が満足して出て行くまで、な。ほら、東洋で言う猿の精神ってやつさ。

 

 朝、異臭を纏って倒れ伏すそいつを分隊全員でキレイにしてやって、俺達は小隊長にそいつが倒れて動けないから休ませてやって欲しいと上告したさ。当時はあれほど必死になった事なんて数えるほどしか無かったな。それぐらい、そいつの状態は哀れの一言に尽きた。

 

 その夜だよ。俺はまたそいつを襲った奴が現れるんじゃないかという恐怖に苛まれて、就寝時間を過ぎているというのにこっそりとテントを抜け出したんだ。どこか見付からない場所で一服しようなんて考えて。

 

 今思えば、恐怖でどこか思考のタガが外れちまってたんだろう。どう考えても、それが地獄への切符を切る行為だっていうのを気付きもしなかった。

 

 そうして、巡回の影になって煙もバレないだろう場所にいた俺は、背後で草を踏む、ガサッ、って音に身を竦めて、恐怖に固まった首を無理矢理動かして後ろを向いた。

 

 「どうしました?」

 

 なんていう優しい声を聞いた時にはアホみたいにへたり込んじまってな。それから慌てて敬礼した。

 

 何でかって? そこにいたのが今回の師団を率いてた師団長だったからさ。だが、師団長はそんな俺を咎めもせずに、にこやかに笑って許してくれたんだ。俺は愚かにもこう思った。この人になら命だって捧げられるなんてな。笑えよ。それぐらい俺は怖かったんだよ。

 

 そんな俺の肩を師団長は優しくポンポンと叩いて、こう言ったんだよ。

 

 

 「ナア、ワタシトヤラナイカ?」

 

 

 ああ、あれこそ、戦場の妖怪ヤラナイカだよ。

この小説に出てくるあらゆる名称は現実のあらゆる全てと全く関係がありません。全て、作者の想像と思い付きで書かれた物であり、特定の人物、団体、国家を誹謗中傷する目的ではないと明記しておきます。



とまあ、保身を終わらせた所できちんと後書きを書きます。


とりあえず、今回の短編小説は完全に思いつきとその場の勢いで書いた物であり、多数の方には大変不快な出来となっているだろう事をまず謝罪させていただきます。


そして男が話の後どうなったのかですが、それは皆様のご想像にお任せします。

ただ、彼は最下級の兵士で相手が軍のトップである事や場所が巡回のルートから外れており、なおかつこの事は古参の中では周知である事等を考えれば、答えなど一つしかない気もしますが。


この小説はレイプや権力等を背景とした性行為の強要を肯定する物ではなく、また、女にモテナイなら男に走れという教唆でもありません。

そのような愚行を助長するような文であり、公に晒されるのが許される物ではない、という場合は運営に報告するなり、自分にメッセージを入れるなりしてください。

一人でも抗議なさる方がいればすぐに削除します。


一応純愛至上主義者を標榜する神榛 紡でした。

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