予想外の言葉。
「ユウ、その、なんだ…」
「…いや、何だよ、お前」
思わず僕は何だか何かを言いたそうにこちらを見ているルークに言った。というか、明らかに何か重大な話したいですって雰囲気纏っているならハーレム陣達のこと置いてから来いよと正直思った。
ルークの後ろに連なっている彼女達は酷く恐ろしい表情を浮かべていた。
そんな表情していると男に引かれるぞと正直感じる。
まぁ、それはどうでもいい。
現在、僕らが居るのは屋上だ。最近はルーク達以外にも昼飯を誘われるようになってちょくちょくそっちで食事を済ませていたから少し久しぶりの屋上である。
空は晴天だ。
こういう晴天の空って、僕好きなんだよね。
それに天気がいいのって、良い狩り日和だし。こんな晴天で気分が良い日にさー、ルークが重い雰囲気を纏っているって何か嫌な気分になるよね。
何を言いたいんだろうね?
何か言いたいならさっさと言おうよ。
正直めんどくさいの一言に尽きた。ルークのハーレム達に後から何か言われそうだし。
そんな僕の思いにルークは全く気付く様子もなく、相変わらず重たい事を言いたいですって雰囲気を纏いながらこちらを見ている。
いいから、はやく言おうよ。
ルークが先延ばせば先延ばすほど後ろの彼女達の表情が鬼みたいになってるから。
「…俺はな、ユウ」
「だから、何?」
「………のことが……だ」
「はぁ?」
「ユウのことが好きなんだ」
「は!?」
ボソボソと何を言っているんだ、この男はと思っていれば何だかよく理科出来ない事を言い始めた。
いやいやいやいや、何を言い出してるんだ、こいつ! 後ろを見ろ、後ろを! 僕がただ感じた事はそれだけである。
ルークの後ろに居たハーレム陣達の顔が怖い。好きな男の前ではにこにこしているというのに、ルークが見ていないからとそれほどまでに表情を変えるだなんて女は怖い。正直そんな風にちょっとしたことで恐ろしく顔を変える彼女たちのことを僕は理解出来ないなぁなどと考える。
……このまま逃げていいかな。
ハーレム陣達の恐ろしい顔がこちらに向いていてめんどくさい。殺意にも似たような感情が僕に向けられているのがわかるからこそ、もう逃げていいじゃんかという気分にさえなる。
「…うん、ルーク聞かなかったことにするから僕帰るね」
「え」
「何だかよくわからない幻聴を聞いた気がするから、僕帰るから」
「え、げ、幻聴ってなんだよ」
「うん? 幻聴は幻聴だよ」
僕は逃げようと思った。どうにかこの場から逃げ出したくて仕方なかった。寧ろルークの発言などなかったことにして帰りたかった。
慌てふためいた様子のルーク。でもこんなルークならどうにか撒けると思い、僕は去ろうとした。
しかしだ。
「待ちなさい!」
「ル、ルークさん! どういうことなんですか。お、男が好きだなんて」
アイワードの僕を呼びとめる声と、メキシムのなんとも理解しがたい言葉が聞こえてきた。
此処でとまらなければアイワードはめんどくさいだろう。そしてメキシムに関して言えば入学して大分経過しているというのにまだ勘違いしたままだったのかと呆れた。
「あのさ、メキシム。僕の性別わかってる?」
「男でしょう?」
「……僕一応女だからね?」
僕が言った言葉にメキシムは固まった。
何で今まで気付いてなかったのか謎だ。普通に気付いてもおかしくはないと思うんだけど。
固まったメキシムに僕は呆れた視線を向けた。
何で僕は貴重な昼休みに理解不能な茶番に付き合わなければならないのだろうか、こんなことならルネアス達と昼食を食べればよかった。何でルークなんかの誘いに乗ってしまったのか、僕の馬鹿と自分自身を叱ってやりたくなった。
何だか現実逃避をしている僕。
はやくこの場から去りたい。
なんて思っている僕にルークが声をかける。
「あ、兄上が好きだからそんなこと言うんだろ」
「は?」
「兄上は結婚して――」
「待て待て待て。お前は何を時代遅れな発言をしてんの」
いきなり叫んだ必死の形相のルークに僕は何を言い出してるんだ、こいつと思った。
確かに僕の初恋はアースである。昔から僕の面倒を見てくれたアースは僕の憧れであり、しいて言うならば近所のお兄さんに対する何処にでもあるような憧れの初恋である。
だから別にアースが結婚した時もショックは受けたけれども、純粋に祝福したし、憧れの方が強かったから別にアースとどうこうなるとかも考えてなかった。
僕からすれば終わった話である。
何で今更ルークがそんな事言いだすのかわからない。
そもそもこいつは僕のなかったことにしたいという思いを理解出来ないのだろうか、まぁ理解出来ていないんだろう。理解出来ていたらそんな話し出さないと思う。
「あのな、ルーク。アースは確かに僕の初恋だ。でもな、そんな思いとっくに終わったことだ」
ばっさり言った。
というか、はっきり言わなきゃこいつ絶対理解しない。
「…え、じゃあ何で」
「何でも何も、何で僕がルークに好きとか言われてそれに答えると思ってんの?」
馬鹿なの、こいつ。
そもそも僕幻聴にしたいのに、しつこい。うんざりした僕ははっきりいった。
さっきの戯言は真実かもしれない。でも真実だったとしてそれが何なのだろうか。
「あのな、ルーク。さっきの台詞が真実だとしても僕がそれを喜ぶはずもないだろう? そもそも僕がルークにそんな感情向けるのはありえない。寧ろルークは僕の中で絶対に恋愛感情持ちたくないなぁと思う人間№1だし。絶対に苦労するの目に見えてるし」
僕はうんざりしていた。
ばっさり言ったのは、はっきり言わないと理解しないだろうと思ったのと、さっさとそんな思いどうにかしてほしかったからだ。ルークがそういう感情を僕に持っているのは正直……言っちゃなんだが凄く嫌だ。
僕はそのまま、灰になったルークと唖然とするアイワードとメキシムを置いて屋上を後にするのであった。
―――その二日後、ルークに婚約者が出来た。