部活にいきます。
バイトを繰り返す日々が夏休み中は続いた。特に話す事もないぐらいのバイト三昧である。
おかげでお金も溜まったから、自分用の魔法具で欲しいものをチェックしていかなければ。リアーナさんに魔法具のカタログ譲ってもらったしね。
とりあえず、何を買うかとどういう魔法具を作るかを構想しなければ…。
そんな事を考えながら、僕は現在学園に戻っている最中だ。帰る時は徒歩だった。馬を借りていくのもよかったかもしれないけれども、そんなものにお金を使うよりも魔法具代にしたかった。
そんなぽんぽんお金を出せるわけでもないし、なるべく節約したいのだ。
それに長い距離を歩く事も堅田を鍛える事になる。僕は体力ももっと欲しいし、丁度いいのだ。
まぁ、結構な距離を歩いて学園に到着した頃には夕方になっていた。僕は一旦寮室に戻ってシャワーと着替えを済ませて部室へと向かった。
今からいけば一時間ぐらいは部活が出来る。
魔法具についても学びたいし、魔法についてももっと知りたい。強くなるための本も読みたいし、剣技ももっと学びたい。
結構やりたい事も多くある。
効率よく色々学んで、卒業したらアースの所で働けるぐらいの実力をとらないと。軍の入隊試験で落ちるとかは嫌だし。
遊ぶよりもそういう事やる方が僕は好きだ。ルークはそれより皆で騒ぐのを結構してるけどさ。
三年間で沢山学んで、軍に入った時に役立てなきゃ。
よし、と気合を入れて僕は部室に顔を出しに向かった。
部室の仲に入ると、そこには数人の部活の先輩達が居た。僕の所属する『魔法研究部』って、何だろう、スポーツ系の部活とか体動かす奴よりも暗いイメージがあるのか一定の部員はいるもののそこまで部員数が多いというわけじゃない。僕は部活紹介の時に興味持って喜んで入ったけどさ。
『魔法』とつくありとあらゆるものを研究するなんて僕にとって楽しい以外に言い様がないものだから。
魔法と名の付くものが好きだ。魔法も魔法具も魔法陣も全部、僕にとって好きなものだ。
それに『魔法研究部』の部室には多くの魔法関係の書物が置かれている。ああいうものを読むだけでも勉強になる。
「ユウ、久しぶりだな」
話しかけてくれたのは部長のケイト先輩だった。
「お久しぶりです 先輩」
「ああ。ところで今日はヴェーセトン達は…」
「ああ、ルーク達ならまだ帰省してると思いますよ」
そう言えば、ケイト先輩はそうかと告げて何処か安心したような様子だった。
「…ルーク達がいつも騒いですみません」
何だか申し訳ない気分になって謝っておいた。大体ルークが僕が居るからって入部して、他が入ってきたからこうなんだもんな。
あれ、そういえばセルフィードってルークのハーレム離脱したわけだけど部員のままなのだろうか。ふとそんな事を思った。
何て思っていたら、
「リルード、おはようございます」
部室にセルフィードが入ってきた。セルフィードの姿に周りの部員達が顔をしかめた。うん、あれだけルークと騒いでたからね…。
「おはよう、セルフィード」
そういって僕は挨拶に返事を返す。セルフィードの恰好はルークを追いかけて居た時のような気合の入ったスカートではなくなっている。少し日焼けをしているのは、海にでもいったんだろう。
セルフィードは僕から視線をずらして、ケイト部長を見る。
そして、
「…迷惑かけて悪かったわ」
と言いにくそうに謝った。
セルフィードはルークに夢中になりすぎてて、我を失っていたような感じだったからようやく自分たちが騒いでた自覚でもわいてきたのだろうか。謝ったセルフィードを前に部員の人達は驚いたような表情を浮かべていた。まぁ、僕も驚いたもんね、最初に謝ってきた時。
その後セルフィードは、「これから真面目にやるから、部に残させてもらってもいいかしら」なんて聞いてきて、退部する気はないらしかった。後から聞いたら「出会いを求めて色々やるの」と言われた。
セルフィードって出会いを求めて嫁ぐステータスとして学園に通ってて僕みたいに軍人になろうって気とかないらしいから、そんな理由なんだろう。貴族だと婚約者が幼いころから決めていたりするものだけどセルフィードに婚約者は居ないらしい。
そういえばルークにそういう話を聞いた事がないけれど、どうする予定なのだろうか。
一応あれでもルークは公爵家の次期当主ってたち位置に居るわけだけど、上手くルークを制御できるお嫁さんでももらわなきゃ色々大変な気がする。
元々部員が多いわけでもないから、真面目に取り組んでくれるならケイト先輩も文句はないらしかった。
「そういえば…、リルードがルークと一緒に居ないなんて珍しいわね」
「そう? 夏休み中も僕は全然ルークと一緒にはいなかったけど」
セルフィードに言われた言葉に、部室の中にある本棚を見ながら答える。今日は学園に帰ってきた日で正直疲れているから、ためになる本を読む事にしようと思ったのだ。魔法具作りは神経を使うから。
ふと視線を向けて居れば『勇者と魔王』という魔法とは関係なさそうな本を発見して、ちょっと手にとって見た。
「あら、それって『異界の勇者』の本?」
「うん。表紙見た限りそうだね。何で此処に紛れ込んでいるのか全然わかんないけど」
僕はそう言いながらも、その表紙を見た。表紙に描かれているのは、この世界では滅多に存在しない黒髪黒眼の長剣を腰に掲げた男だ。
魔法に関する本を読むつもりだったけど、たまにはいいかと思って思わずその本をめくった。
それは僕も子供の頃から知っているような英雄譚に現れる『異界の勇者』と凡そ200年ほど前の魔王に関する本だった。
この世界は時折に『魔王』何て言う存在が現れる。その『魔王』が現れる時期は魔物の繁殖期と重なっている。その時期の強力な魔物が知性を手に入れ、『魔王』を名のりでるのだ。あと『魔王』を倒せば魔物の繁殖期が終わる事もあって、様々な仮説ができているらしいがその辺の事はよくわからない。
さっさと魔物の繁殖期を終わらせようと『魔王』退治に各国が乗り出すわけだが、もちろんどの国も他の国よりも強くありたいわけで…、少数先鋭部隊を作り先に『魔王』を倒した国が優位に立つという決まりを作った。それから『魔王』が現れれば部隊を作って各国が競い合ったわけだがいつしかその部隊は『勇者パーティー』と呼ばれるようになった。部隊の中で最も剣術も魔術もたけた人間が『勇者』であり『リーダー』だというのはよくわからないが、大昔の賢者――今でも伝説に残る魔法使い――が突然そんな事を言い出して決まったと本で見たことがある。
最も『魔王』は人の手で倒せないほど凶悪ではなかったわけだから、こんな風に出来たわけだけど。
で、二百年前。その頃、今は大国となっているマリウスは小国だった。その小国には軍事力もない。居たのは、ただ一人の天才だけだった。この天才とよばれた人は『勇者』を定義した賢者と違い、バリバリの学者だった。魔法を使うだけの魔力はないし、才能もない。それでも魔法を最も理解していたと当時言われた天才だったのだ。
このままでは『勇者』を出す事が出来ないという国王の嘆きに、天才は助言したらしい。『異世界から召喚すればいい』と。そんなわけでその計画は実行された。それもこの世界で呼びだされた者が力を得るという召喚を行ったのだ。
普通なら失敗に終わる。異世界があるかどうかもわからないし、そんな新しい魔法なんて簡単に生み出せるものではない。それでもそれが成功したのは、その天才が魔法を扱えなくても、誰よりも魔法について知っていたからだ。
そして異世界から呼び出された勇者が、二百年前に『魔王』を倒したのだ。黒髪黒眼の『チキュウ』と呼ばれる世界からやってきた勇者は、天才の生み出した帰還魔法で帰っていったと伝えられている。
元から有能だったのか、召喚魔法によって加えられた力のせいか知らないが、その『異界の勇者』と呼ばれるシンヤ・クロガネという人物は大層強かったらしい。
その日はその『異界の勇者』についての本を読むだけに終わった。
明日からは気合入れて部活して、魔法具も作っていかなきゃなと僕は思うのだった。
補足:『勇者』なる定義をした賢者と勇者召喚した天才は現代日本からの転生者です。
天才:魔法使いになりたいけど魔力がなく、魔法の才能がほぼなし。そのかわり、前世から頭だけは天才だったので学びまくった結果、召喚魔法なるものまで完成させてしまった人。