バイト初日(3)
魔法紙に術式をかく作業を淡々と続けていく中で、既に1クエーワほど経過していた。
ぶっ飛ばしでずっとその仕事をしていたわけだが、魔法紙に術式をかくというだけでも時間はかかる。今僕がかいてるのは、簡単な結界の発動する術式だ。
「ふぅ…」
少しのつかれに思わず口から息が漏れる。
疲れていても達成感があって、何だか嬉しいのは僕が魔法具作成が好きだからだろう。だって、本当に楽しい。何かを一生懸命やる事は好きだ。魔法具作成も、強くなるために色々やることも好きだ。
時間が空いてる時は、弓とか剣の練習もしたいし、魔法の練習もしたい。やりたい事がいっぱいあるなと思う。目標があるから、頑張ろうって思うし。
「ユウ、調子はどう?」
ふと、作業をしていたナタリーが僕の方を向いて問いかける。
「一応13枚はかけたよ」
簡単な術式なのだが、書くのは時間がかかるのだ。だから1クエーワで13枚ほどしかかけていない。もっと細かい術式になるともっとかかるのだけれども。
「私はちょうど16枚だよ。ぶっ飛ばしでやったから少し休憩しよう」
「うん。僕ちょっと庭で剣でも振るってくる」
ナタリーの言葉に僕は頷いて、立ち上がる。
「ユウは本当鍛錬とか好きだよね。じゃ、私は見学でもしようかな」
ナタリーは、そういって笑った。
『スペルドリーム』の外には、試作品を試すための場所が設けられている。僕は泊りでバイトに来る場合、いつもここで剣とかの練習をさせてもらているのだ。
ここは試作品が暴走したりしても大丈夫なように色々と工夫がされているので魔法とか使っても問題はないのだ。
僕は《亜空間》から長剣を取り出す。そしてそれをふるう。
ナタリーはその場にある椅子に腰かけて、こちらをじっと見ている。
ナタリーはそこそこ強い程度で、そこまで強くはない。ナタリーの本職は魔法具職人なのだ。時々ギルドで仕事もしてるが、討伐系はあまり受けない。
どっちかっていうと採取とかをやって、ついでに魔法具の材料も手に入れるって形で依頼を受ける方が多いのだ。
リアーナさんはバリバリ戦えるけど。あの人本職が魔法具職人なのに、強いからなぁと思う。
剣を一心に振るう。
誰か相手が居た方が訓練になるだろうから後でリアーナさんの時間が空いてる時に相手を頼もう。自分より強い人とやりあう事ってタメになるのだ。
しばらく剣をふるい、それを《亜空間》の中へと直す。
そうして振り向けば、ナタリーだけでなくギルも居た。二人と並んで座っている。というか、距離がほぼゼロだ。べったりくっついている。
「ギル、いつの間にきたの?」
「ついさっき」
「《マジックアンチルーム》は今のところどう?」
「んー、半分は術式かいた。区切りいいところまでな」
「そっか」
僕はそう答えながら、ナタリーとギルに近づく。
「さぁて、休憩は終わり! 仕事するわよ、仕事」
ナタリーが立ちあがって、そういう。それに続いてギルも立ち上がる。
「じゃあ僕は説明書でも書くよ。次は」
「私は引き続き魔法紙に書くわ!」
「俺も続きしてくる。じゃ、ナタリーまたな」
って、何さりげなく人前でキスしてるんだ、二人とも…。そうである、去り際にギルはさりげなくナタリーにキスをして背を向けて仕事に向かっていったのだ。
ナタリーはぽおとした表情を浮かべながら嬉しそうにうん、と頷いた。
本当にいちゃつくなら二人っきりの時になりなよと、毎回思う。言ってもこの二人人前でもいちゃついているけれども。
それから僕とナタリーは引き続き一緒に仕事をした。僕は魔法具の説明書の内容を作って、そして印刷の魔法具でそれを印刷していった。ナタリーはずっと魔法紙に書いてたみたいだけど。今日は魔法紙の気分だったらしい。それってどんな気分なんだろうね。
そうして仕事をこなしながら、バイト一日目は終わった。
ちなみに言うと夜はナタリーとギルの隣の部屋で自分用の魔法具を少しずつ作成したり、術式についての勉強などの作業に励んだ。朝は速いからきっちり起きられるように夜遅くまで起きる予定はないけれど。
さて、明日も頑張ろう。
そう思いながら僕は眠りにつくのであった。