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バイト初日(2)

 工房でしばらく、準備をしたりしていればようやく着替え終わったギルが工房に姿を見せた。

 すっかり目が冷めているらしく、キリッとした眼つきを浮かべている。

 「ギル、まずは《マジックアンチルーム》について話しましょう。説明書も作らなきゃだし」

 「そうだな…。まず改良点は魔力消費量をもう少し減らせないかって事だよな」

 「うん、減らせるなら減らした方が絶対いいよ。説明書には数人で使用するようにって事と、何か刺さるものにつけてそれで発動すべきって事かな。抵当にばらまいてやるよりそっちの方がいいと思う」

 《マジックアンチルーム》は指輪状のものである。それだけをちらべて使用するよりは僕がやったみたいに刺さるもの――クナイなどにつけて攻撃と見せかけて配置した方が断然いいと思うのだ。

 工房の中の椅子に三人で腰掛けて、そんな会話を交わす。

 「それは説明書に書くとして魔力消費量減らすってなると、魔力を補助する魔石でもはめ込んで術式でそこから魔力を使えるようにするとかはどうかしら」

 「それもいいけど、この魔法具って使用者も魔法使えなくなるわけだからあんまり詰め込みすぎて値段高いと需要ないと思う。戦闘にも使えるだろうけど、整備とか訓練用の方がもしかしたら売れるかも。魔法使用禁止ってかいてても使う人だっているんだから使えなくするために大事な場所でだけとか…」

 ナタリーの意見に、僕も意見を返す。

 魔法の値段の性能の組み込み方や、値段の付け方は難しい。性能と値段があってなければ全く売れない品物へと化してしまう。ちなみに《変質の瓶》は上級階級の人々の嗜好品のために使われることが多い。要するにあれは、時間と魔力さえかければただの水を高級ワインの味にでも出来るわけなのだ。そもそも僕は戦闘で使ったけど、元々そういう目的で作られたものだと聞く。魔法具は使い様によっては色々と出来るのだ。

 ルーク戦で使った異臭を放つあれだって、元々は魔物を払うために作られたものだというし。

 「魔石って値段が高いものね。効率よく魔石を生産出来ればいいのだけれども」

 魔石と呼ばれる魔力に満ちた石は、天然ものと人工のものにわかれている。天然ものは鉱山などで時たま見かけるものであり、人工ものは人が長い時間の間魔力を込めて作ったものである。

 天然ものの方がもちろんいいのだが、数に限りがあるし高い。人工物は魔力を込めるのに時間がかかるり、天然ものよりも質が悪く安い。ただ、天然ものでも人工ものでも魔石というのは色々使い勝手のあるものである。

 ただ天然の魔石は質が良いからなのかは解明されてはないが、魔物をおびき寄せる習性も持っている。鉱山の周りには魔物が多くて、掘りに行くのも大変なのだ。天然の魔石から溢れる特有の魔力が原因だという事だけはわかってるので、天然の魔石は掘られた後にアクセサリーなどにする場合は表面に『魔封じの液』という液体を塗りたくっているらしい。定期的に塗らないと魔物がよってくる可能性もあるんだとか。

 「人工の魔石を自力で効率よく生産できるならともかくさ、購入して魔法具にはめ込むなら天然だろうと人工だろうとかなりお金かかるじゃん。今、このお店ってどのくらいの割合って魔石が出来てるんだっけ?」

 「一月の中で、良くて5、駄目で1~3ってところよ」

 僕の問いかけにナタリーが答えてくれる。

 一ヶ月は50日。そのうちで、多くて5しか人工の魔石は作れないらしい。石に魔力を込める行為は疲れを伴うものであるし、もちろん失敗することだってある。人工魔石生産にて、魔力切れで倒れるものも少なくない。魔石は高価で効能がある分、生産は難しい。

 人工の魔石ってのは、ものに魔法などをこめる『付加』の技術から生まれた生産物だ。

 術式を刻む魔法具は、事細かに刻まれた術式によって効果を発動する。それに対して付加というのは、色々と調整が難しい。物体に魔力や魔法を込めてそうしてとどめるわけなのだが、なれてない人がすると100パーセント失敗する。僕もうまく出来ない。

 物体にも少なからず魔力があるわけで、その魔力を感じとりその物体の魔力と付加したい魔法を絡め合わせると言う厳密というか、色々と難しい。こちらがこめる魔法を、その物体の魔力の密度に限りなく近くしておしとどめるのだ。

 失敗すれば本当に微々しか付加されなかったり、反発して爆発や雷が起こったりする。要するに言えば、込めようとした魔法がそのまま帰ってくる。

 で、魔石制作はそれとちょっと違って、魔法ではなく自身の魔力を付加するのだ。似ているようでこっちの方が難しい。個人の魔力にはそれぞれどこか個性がある。どの属性が得意とかいうのは全部魔力の個性である。

 魔法の場合は個性ある魔力を呪文って言う媒体に載せて発動するものであり、その呪文というのはどのような魔力でも発動出来るものである。付加する際の調整は魔力によって少し違いがあるものの、誰でも大抵同じぐらいだ。ただ同じ場所で手に入った石でも、魔力が少し異なっているからその調整は面倒である。

 それに比べてそれぞれ個性のある魔力をそのままぶちこむとなると、付加する調整が人によって大きく異なる。個性のあるそれぞれの魔力をそのまま押し込むわけで、個人によって調整が大幅に違う。同じ魔力量を込めても少ないだとか、多いだとかあるのだ。

 とりあえず、付加は魔法でも魔力でも死ぬほど面倒だ。

 寧ろ失敗で死にかけた奴もいる(自分の跳ね返ってきた魔法が強すぎるために)ぐらいで半端な覚悟でやったらいけない。付加物は、国から証明されている付加の試験を合格しなければ売る事は出来ない。このお店ではリアーナさんがそれを昔手に入れたので人工物でも販売可能なのだ。

 「それじゃあ、高いし、やらない方がいいと思う。もっと使い勝手がよくて幾ら出してでも欲しいって思えるぐらいのものだったら高くてもいいんだけど…」

 「まぁ、そうだな。付加を補助する魔法具でも考えるか、今度…」

 「それもいいね、ギル。魔石を使わないで魔力量消費って出来る?」

 「時間はかかるけど、もっと術式を細かくすれば出来ると思うが…」

 「あれって、試作品だけでも術式組み込むだけで15~20日かかったよね。もっと細かくするっていうと30日ぐらいかかる?」

 「多分な、ユウの所の夏休みが丁度30日だっけ?」

 「うん、そのくらい。ただ僕部活に入ってるから夏休みの最後は休み終わる前に帰って部活行くつもり」

 だから大体このお店に泊りこみでいれるのは25~28日ぐらいって事になる。後は学園の夏休みの課題もあるわけで、そっちもやらなければならない。

 「そうか。じゃあ俺が《マジックアンチルーム》作るから、ユウは説明書とか、簡単な魔法具作れよ。小遣い稼ぎに来たんだろ?」

 「そうよ。《マジックアンチルーム》はギルにまかせて、ユウは私と一緒に魔法紙に術式かきましょう。今度発売する予定の魔法具の説明書にお店の印鑑も押す仕事もあるんだからね」

 「うん」

 お店の説明書や魔法具には魔法具専門店の目印を押すようになっている。その印鑑を説明書に押していくのも立派な仕事なのだ。

 僕は頷いて、それからナタリーと一緒に魔法紙に術式をかく作業を始めるのであった。 

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