決勝戦(3)
セト先輩の腕から《祝福の鈴音》が落ちて行ったのを見て、アールベルト先輩が動き出す。
《祝福の鈴音》を無くしてしまえば、後はアールベルト先輩が針を掠めでもさせれば勝ちだ。毒というのは、かすれでもすれば効果が発揮するものである。
だからこそ、祝福シリーズを欲しがる人は多い。僕も手に入れられるなら欲しいし、作れるなら作りたい。けれど、残念なことに僕は神子でも何でもないし、祝福シリーズのようなものは作ることはできない。僕は魔法具というものが好きだから、色々なものを手に入れたいと思っている。
魔法関係の事に僕は熱を注いでいる。だって、楽しいのだ。魔法も魔法具も。僕も神子だったらなぁと思う。そしたらもっと魔法具を色々作れたのに。でも、神子は色々と制限があったり、自由がないらしいから今のままでもいいけれど。
アールベルト先輩が懐に手をやって、また、腕を動かす。
それだけの仕草で、手から針を飛ばしていた。それを剣で払い落し、落とせなかったものをセト先輩は避ける。本当にルークにも言えることだけど、運動神経いいよなぁと思う。あんな風に軽々と補助なしで動けるようになりたいけれど、僕は身体能力強化の魔法具とか使わないとあんな風にはできない。
セト先輩が避けた先で、アールベルト先輩が魔法を放つ。
「《ファイアーボールlevel11》」
放たれた炎の玉が、セト先輩に真っすぐに向かっていく。
セト先輩とアールベルト先輩の攻防が続く。セト先輩は、炎の玉をかわすと、アールベルト先輩から距離をとる。落ちている《祝福の鈴音》をとる暇はセト先輩にはない。あの、針を警戒しての行動だろう。
距離を取ったセト先輩を見ながら、僕は思う。
ルークと違ってセト先輩はきっとどういう魔法具かわからないものなどがあるならば、距離をとってどういう効果か考察するだろうと。戦闘において未知のものってのは、ある意味脅威なんだと思う。魔法具の種類は沢山あるわけだし、僕ももちろん全ての魔法具を知っているっていう事はありえない。
ルークは油断していた、というか、魔法具を使われても勝てると思って戦っていたから僕は勝てたのだ。セト先輩や油断していないルークとやり合ったとしたら僕は勝てるのか正直わからない。
個々の能力だけでいったら僕は、セト先輩やルークには劣っている。並はずれた魔力も持っていないし、並はずれた身体能力も持っていない。だから、力押しでかつ事は難しい。
「流石決勝戦だし、迫力あるわね」
「生徒会長も、アールベルト先輩も強いよな…」
両脇に座る、セルフィードとルネアスがそんな言葉を放つ。
本当に、二人とも僕より強いなと見ていて実感できる。もっと強くなりたいなぁと思う。
「そういえばルネアスとリルードは将来の事とか決めてるの?」
「あー、俺はギルドでも軍でもどっちでもいいけどそっち系に行きたいけど」
「僕は、軍で働きたいと思ってるよ」
セルフィードの言葉に、視線はセト先輩とアールベルト先輩に向けたまま答える。
ちなみに言うと、軍は国直属の兵隊の事をさす。軍の中で、王族の警備や戦争などをする隊などで分かれている。国内の様々な事をこなすのが、軍である。
で、ギルドは人々から寄せられた依頼をこなす組織である。世界中に様々な機関があり、大きなギルドには沢山の仕事が舞い込んでくるが、マイナーなギルドには所属者も少ないし、依頼はそこまで舞い込んでは来ない。
要するに軍は国のための機関で、ギルドは独立している機関とも言える。
ついでにいうと冒険者は冒険者協会に所属している。冒険者協会は、世界各地に支部を作っており、そこで手続きをふめば様々な依頼をこなす事が出来る。
冒険者カードを持っていれば色々と便利なので、軍やギルドに所属している人も大抵は冒険者登録をしている。
冒険者には個人につくランクがあって、一番上からSS、S、A………、Fランクとなっている。とはいってもSSランクの依頼なんて滅多にない。ギルドと違って冒険者協会は、犬の散歩とかしょうもないことまで行ったりもする。ギルドは主に討伐依頼など力任せなものの方が多い。冒険者協会は例え戦闘能力が低くても登録は可能であるし、専門的な知識などなくてもできる戦闘能力などいらない採集の仕事だってある。とはいっても、冒険者協会に入るには入会金や年間金は支援があるために必要なのだが。
この大会で、軍やギルドのメンバーが見に来るのは引き抜きのためだ。よい活躍をすれば、軍やギルドの人の目に止まってメンバーになることもできるのだ。
「へぇ、リルードって軍に入りたいんだ」
「うん」
軍に入りたいって思ってるのは純粋に、幼なじみのアースにあこがれているからだ。
僕は魔法も好きだし、強くなったって実感を感じるのが好きだ。強くなりたいって願望は、いつだって持っている。まぁ、アースが居なかったらきっとギルドと軍どっちに入るか迷ったんだろうけど。
セルフィードの言葉に頷きながらも、僕は真っすぐにセト先輩とアールベルト先輩の試合を見つめる。
――どうやら、もうそろそろ決着がつきそうだ。
魔法や体術による、セト先輩とアールベルト先輩の戦いが続いていたが、アールベルト先輩の攻撃でセト先輩の体制が一旦崩れた。
傾きかけたセト先輩に、アールベルト先輩が一気に詰め寄って、拳を突き出す。
指にはいつ装備したのか、ナックルがはめられていた。アレで攻撃されたら、痛そうである。
だけど、そのままセト先輩は簡単にやられたりなどはしなかった。突き出された拳を掴んで――ナックルが装備されているので、痛いだろうがそれでも掴んで―――、右手に持っていた長剣を素早く動かす。
拳を掴んだ手からは赤い血液が溢れだしているが、セト先輩はそんなの気にしないとでも言う風で、剣をよけようとしたアールベルト先輩に思いっきり切りつけた。
剣で切られたことにより、倒れかけるアールベルト先輩にセト先輩は飛びかかる。懐に隠していた針を投げ出しているが、それも気にしないとばかりにセト先輩はアールベルト先輩に飛びかかった。肌を針が掠めたので、毒の効果も出てくるだろうが、セト先輩はアールベルト先輩の上にのしかかり、首に長剣をあてている。
未だに左手はナックルのはめられた拳を抑えたままだ。右手はしっかりと、体で抑え込んでしまっている。のしかかられて、首に剣をあてられているわけだから、アールベルト先輩は行動に移すことが出来ない。
「降参するか?」
「…ああ」
そして、アールベルト先輩は、セト先輩の問いかけに頷くのだ。
『勝者、イリス・セトモレア様!! これにより優勝はセトモレア様となります!!』
司会者の声が響き渡る。それと共に、会場が歓声に沸く。
「会長流石です!!」
「イリスお姉様かっこいいですー!!」
様々な声が響き渡る中で、僕は目の前で行われた試合に興奮してならないのであった。