決勝戦(1)
『それでは、皆さん、お待たせしました。
生徒会長であり、才色美女! 彼女のファンは数知れず、というイリス・セトモレア様対イリス様のライバルとして知られているユベル・アールベルトの戦いです!』
司会者の声が響くとともに、舞台の上に現れるセト先輩とその対戦相手。
いつも通り赤い髪を後ろで一つにくくり、動きやすい服装を身にまとうセト先輩は白銀に輝く長剣を手にしていた。セト先輩が舞台に上がると共に上がる歓声に流石、と思う。
セト先輩は、鋭い瞳で相手を見据えていた。その腕には、いつもはつけていない鈴のついたブレスレットが装着させていた。
「セト先輩のライバルかぁ…」
噂で少しだけ聞いたことがあるけれど、詳しくは知らない。だけど、そのアールベルトという名が軍で名を響かせている団長の息子だという事がわかる。
栗色の髪を持つその少年は、手には何も持っていない。もしかしたら僕と同じように《亜空間》でも持っているのかもしれない。
「そういえば、私生徒会長にも無礼な行為をしてたわ。後で謝りにいかなきゃ…」
「セルフィードは暴走どうにかできないのか?」
「……そりゃあ、私もどうにかしたいとは思ってるのよ、ルネアス。でも私どうしても止められないの」
食い入るように舞台を見据えている僕を挟んで、セルフィードとルネアスがそんな会話を交わしている。
アースが尊敬しているっていってた、あの軍のセシル・アールベルトの息子……。ああ、楽しみだ。セト先輩とアールベルトさんの息子の試合が見れるなんて!!
「でも、周りに迷惑かけてるんだから、どうにかしたらどうだ? リルードもそう思うだろ、って、聞いてないか…」
「食い入るように見てるわね。そういえば、ルーク来ないわね。リルードの居る所に大抵いつもいたのに。まぁ、どうでもいいけど」
「…どうでもいいって、本当セルフィードは冷めやすいんだな」
「ええ。自慢やないけれど、私の冷めやすさは筋金入りよ。熱しやすく冷めやすいのは昔からよ。子供の頃も初恋の子がカエルごときが嫌いっていっててすぐに冷めたわ。冷めた瞬間からどうでもよくなるものなの、私のは。今は、確かに美形だけど、どうしてルークにあんなにはまってたかわからないわ」
「極端だな…本当…」
そんな、セルフィードとルネアスの会話を聞きながらも、僕は試合を見逃すまいと見据える。
『では、はじめ!!』
そんな始まりの声と共に、試合は始まった。
一番初めに動き出したのは、セト先輩だ。セト先輩は舞台を強く蹴って、そのまま、長剣を振り回す。アールベルト先輩はそれに対して、《亜空間》から取り出した長剣をふるう。
太陽の光に反射して、煌く銀。それよりも気になるのが、刃ではない場所の、光。何かアールベルト先輩は隠し持ってる…?
「私は美形が好きなの。だからよく美形に惚れちゃうんだけど、そしたら尻軽とかいってくる奴もいるのよ? 失礼しちゃうわ。私はただ、目の保養にもなるし、かっこいい人が好きだし、その時は本気だけど冷めやすいってだけじゃない」
「そうか…。それより、試合見なくていいのか、セルフィード。折角決勝戦見に来てるんだから、見ろよ。見とけばタメになるぞ、きっと」
「どうせ、私はそのうちどっかに嫁いでお嫁さんやるつもりだから、別にいいの。この学園出身って結構なステータスだし、私に才能があったからってお父様に通うように言われたの。それに運命の相手とかに出会えるかもしれないでしょう? そうはいっても訓練も怠らないけれど。何かの拍子に狙われることになったら返り討ちにした方がかっこいいもの」
「じゃあ、見ろよ」
「そうね、見るわ」
というか、セルフィード、運命の人って、そんな考えなんだと、セルフィードとルネアスの会話を聞きながら思う。将来の夢”お嫁さん”って奴? うん、何か女の子だなぁって感じ。
「ねぇ、ルネアス。アールベルト先輩の手で何か光ったんだけど。隠し武器か?」
「隠し武器ってか、アールベルト先輩って確か暗器とか結構使う人って聞いたことあるぞ」
僕が問いかければ、ルネアスは答えてくれた。
ああ、そうか。この試合って僕みたいに魔法具持ちこむ人もいるぐらい何でもありなんだ。暗器なんていうものも大丈夫なのか。
ってことは、あの光に反射して光っているのは…、そういう類なのか?
弓とか槍とかそういう一般的な武器は割と僕は使えるように特訓したけど、暗器は流石に使った事ないんだよなぁ。ちょっと暗器についても学んでみたいな。隠しててもバレない武器って便利だし。
「暗器っていうと…鉄扇とか、針とか…そっち系だよね」
針とかだとやっぱり急所をさすんだろうな。目とか。そうしたら勝負がつきやすい。武器を持ってないと見せかけて、それで油断させて敵を追い詰めるってのはいい戦い手段だと思う。
セト先輩の長剣が、アールベルト先輩を狙う。
それを右手に持つ長剣でアールベルト先輩は受け止める。動きに無駄がないのがわかる。やっぱり、僕は武器の扱いに関してはそこそこしかできないな、全然だなって実感する。ある程度の奴となら剣だって交わせるかもしれないけど、剣だけだったらセト先輩やルークには勝てない。セト先輩とアールベルト先輩は体術面においても優れている。
ありえない態勢から攻撃を繰り出し、予測できないような位置の攻撃を避ける。
ああ、何てわくわくするんだろう。決勝戦を見ている僕は、そういう興奮で胸がいっぱいだった。
「《アクアブレスlevel16》」
セト先輩の魔法が炸裂する。しょっぱなからlevel16の魔法を使うなんて、どれだけの魔力をセト先輩は秘めているのだろうか。僕ももっと魔力が欲しいな。魔力の保有量は成長するにしろ、その人の限界ってのがある程度あるわけだし…。ルークなんて現時点で色々と規格外の魔力量を持ってるし、セト先輩も平均よりもきっと大幅に多くの魔力量を持っているんだと思う。
アーベルト先輩は、放たれる水のブレスに焦りさえ見せずに迫ってくるそれを避ける。
そして、左手で何かをセト先輩へと投げる。キラッと、それが光ったのがわかる。
それに気付いたセト先輩は、持っていた長剣で投げられた幾つものそれ―――多分針――をたたき落としたり、よけたりしたが、一つがセト先輩の腕を掠めた。
それを見て、アーベルト先輩は口元を緩める。
あの針にも何か、仕掛けでも作っているのだろうか? 僕は、これからこの試合がどうなっていくのだろうという、そんな興奮を胸にじっと試合を見据えるのだった。