観客席にて。
セト先輩の決勝戦のために僕は会場の観客席に居た。
セト先輩はどんな戦い方をするのだろう。それを思うだけで見るのが楽しみだった。
僕は戦いを見るのが好きだ。もちろん、自分で魔法を使うのも大好きだけれども。だって人の戦いは、見ていて色々と参考になるのだ。
魔法の新たな使い方とかそういうのもわかるかもしれない。それに次は決勝戦なのだから、白熱した試合が見れるかなってわくわくしてならない。
ああ、本当に楽しみだ。セト先輩はどんなふうに戦うんだろう?
ちなみに近くにルークやハーレム陣は居ない。そのうち来る事だろう。
「よう」
そうして、セト先輩の試合を待ち構えてわくわくしていれば、声をかけられた。
振り向いた先に居るのは――フォークス・ルネアス、その人だった。
天井が開くようになっている会場の中で、太陽の光に反射してその金色の髪が輝いていた。
「フォークス・ルネアスか。僕に何か用?」
「昨日は見事だったな。あの、天才児に魔法具を使おうともまさかかつとは思わなかった」
どうやら、昨日の試合を見ていたらしい。
「今回はルークに勝とうってのが目標だったし、魔法具も躊躇いなく使ったから…」
そうだ、魔法具を消費してしまっているのだ。一度しか使えないものはその分値段は(魔法具の中では)安いけれども、補充するのには時間がかかる。
「そうか。それにしてもあんなに魔法具をどうしたんだ?」
「皆その質問するなぁ、本当…。魔法具は自分で作ったのと、試作品もらったのと、金ためて買ったりしたんだよ」
そういえば、やっぱり驚いた顔をされた。
「魔法具を作れるのか…?」
「うん。魔法関連のもの好きだからね。色々本読んだり、知り合いの魔法具職人に教えてもらったりして、作れるようになったんだ。ま、ルーク戦で消費しちゃったから補充すんのが大変だけどね」
魔法具を作るのは楽しいけれど、一つでも術式を間違ったら発動しないから、術式を刻み込んだりするのは大変なものである。でも魔法具を考えたりするのは僕は凄く好きだから、どんなに大変でも喜んで作るけれど。
寧ろ、僕の趣味って魔法に関する事だけだし。
「俺と戦った時のも、自分で作ったのか?」
「そうだよ。あれは、魔法具職人の知り合いに縁だけ作ってもらって鏡に術式を刻んだのは僕なんだ。結構時間かかったけど、自分でもいいできだと思うよ」
本当に《合わせ鏡》はいい出来だったと思う。一度使ったら使えなくなるとかでもないし。とはいっても魔法具って、手入れもせずに放置してたり沢山使うと効力失っていっちゃうんだけど。
手入れも一つでも術式を間違ったら、発動しなくなっちゃうから少し大変なんだ。魔法は、体内の魔力を魔法に変換させるものだ。それで、その媒介みたいなのが詠唱。魔法を使うのに比べて、魔法具の方が細かくて、難しい。魔法は魔力を練るのが下手な人とかでもよっぽど才能がないとかじゃなければ使えるものだけれども、一つのミスがあれば魔法具は発動しないのだ。僕も折角術式を刻んだのに発動しないなんて事がある。ああいうときは大変なのだ。全ての術式に目を通して間違った所をどうにかしなければならないのだ。
「じゃあ、あれは? ヴェーセトンの時に使ってた空間」
「あー、あれは知り合いの魔法具職人の新作の試作品だよ。僕も少しだけ手伝ったんだ。そしたら試作品が出来たってくれた」
「へぇ…」
そうやって、ルネアスと会話を交わす。
そうしていれば、
「……おはようございます」
何故か、僕の近くにやってきたミク・セルフィードが僕に挨拶をしてきた。
って、ええ? どうしたんだろう、セルフィードってのが正直な感想である。いつもルークの傍に僕がいるからって睨んできてたはずなのに。そういえば、昨日も試合の後に目を冷めた時セルフィードはルークの傍にいなかったなぁと思いだす。
「なんですか。その驚いたような顔は」
「あーっと…。セルフィードどうかしたの? 僕に挨拶するなんて。そもそもルークがいないのに僕の近くにいるなんて今までなかったじゃんか」
「そうですわ! 私はそのことで言いたい事があるんですの」
「はぁ…。言いたい事って?」
「今まで悪かったわ」
「は、はい?」
本当にどうしたんだ、セルフィードと思いながらセルフィードの顔をマジマジと見てしまう。ちなみに隣にいるルネアスも僕へのいつものセルフィードへの態度を知っているからか、怪訝そうな顔をしていた。
僕とルネアスが二人して驚いて何も言えない中でセルフィードは何故か僕の隣に座った。
「なんですの。その間抜けな顔は」
「いやいや、セルフィード、何で突然謝ってきたわけ?」
「…今までリルードへの態度ひどくなかったか?」
上から、セルフィード、僕、ルネアスの台詞である。
「……私は熱しやすく冷めやすいのよ」
セルフィードは、そっぽを向いて言いにくそうにいって、続ける。
「私ははずかしい事に昔から熱しやすいんですの。欲しいものがあったら周りが見えなくなり全力でそれを手に入れることにかけるという、性格なのですわ。それでいて、熱がすぐに冷めるんですの。冷めてからいつも冷静になるんですわ! 理解できまして?」
ふん、っというふうに言い切ったセルフィード。
それってルークの事かな? あー、熱しやすくて冷めやすいくて、欲しいものがあると周りが見えなくなるけど、冷めてからじゃなきゃそれを自覚しないという事かな? ってことはセルフィードはルークに冷めちゃったのか?
「理解できたけど、ルークに冷めたの?」
「そうですの…。昨日負けたルークを見て一気に冷めましたの。昨日ルークが負けてから不思議とルークをかっこいいと思えなくなってしまって。私、本当に熱しやすく冷めやすいんですの。そして惚れっぽくてかっこいいと思ったら一直線になってしまって…。ルークに惚れてる面々は沢山居ましたから焦っていつも以上に暴走していたようで…。昨日冷静になって友達に――ああ、私が何かにはまってるときは被害加わらないように離れててと頼んでるんですけど、友達傷つけたくないですし、その友達に冷めて会いにいったら”リルード君に謝ってきなさい”って怒られまして…。今回はいつも以上に暴走がひどかったと……、自覚しまして。悪かったわ」
一気に喋りきったセルフィードは、何とも言えない表情を浮かべていた。
セルフィードっていつもルークのそばにいて(というか、メキシムとかにも言えるけど)、友達いないかと思ってたけど、セルフィードはそういう理由だったのか。
「あー、うん。まぁいいよ。これ以上睨まないでくれるなら…」
「ああ、それは大丈夫ですわ。私一度冷めたら基本的に熱は戻らないんですの。いつも恋愛感情持った相手に結構すぐに冷めるんですの。ルークの件はいつも以上に熱が長かったので、これが本気の恋かしらと期待したのですけれども、やっぱり駄目でしたわ。冷めてしまいましたの」
がっかりしたようにセルフィードはそう口にする。
「あー、確かにセルフィードって初等部からそうだって噂が回ってたな」
「そうなの? ルネアス」
「そう。リルードは知らなかったのか?」
「…僕、ルーク達以外と会話してなかったから。なんか遠巻きに見られてるし、わけわかんない噂立てられてるし」
セルフィードってそんな噂あったんだ!? 僕全然周りと話してないし全く知らなかった。
「お前…大変だな」
「……リルード、本当に申し訳ないですわ。今度私のお友達紹介してあげますわ」
「うん…」
その後は、試合が始まるまでずっとルネアスとセルフィードと話していた。
…とりあえず、セルフィードは暴走している時じゃなければ割とまともだという事がわかった。




