目を覚ますと(1)
「あ、ユウ、起きたのか」
目を覚ますと、一番最初に視界に入ってきたのは、ルークだった。
あれ、何で僕寝てたんだっけ、と考えて、ああそうかと目の前のルークを見ながら思い出す。僕は、ルークに勝ったんだ。勝てたんだ。
それを思っただけで、どうしようもない満足感が胸を襲って、思わず笑みが零れる。
どうやら此処は学園の保健室のようだ。魔力不足で倒れた僕は此処で寝かされていたようである。魔力というのは、眠っている間に自然と回復していくものなのだ。だから今の僕には魔力不足のフラフラ感はない。
そんな中で、
「リルード、ようやく起きたんですの!!」
「全く、ルークさんに迷惑をかけるなんてっ」
何だか、もう聞いていてうんざりするようなハーレム陣達の声が響いた。
声のした方を見れば、アフライ先生と、セルフィード、後マー先輩はそこには居ない。そこにいるのは、メキシムとアイワードだった。
不機嫌そうに眉をひそめて、こっちを睨みつけるように見てくる二人。そんな二人に対して、ルークは困ったように笑っていた。
「大体、あんな戦い方をするなんて卑怯ですわ!! あんな風に道具を使うなんて卑怯ですわ」
「そうですよ。もっと、ユウ君にはプライドはないの? それに戦いの最中で何か飲んでいたでしょう?」
「えっと、二人とも落ち着いて?」
「……ルーク、ちょっと黙ってて。アイワード、卑怯って言うけど、この大会は何でもありって書いてあっただろう? メキシム、プライドどうこうより勝つことが第一だと思ったからだけど、文句ある? ちなみに飲んだのは魔力回復薬だけど?」
ルークが僕を庇おうと口を開けば、きっとまた色々面倒だからとりあえずルークには黙っておくようにいっておいて、二人の問いに答えた。
本当に残念な美少女としかいい難い気がする。
「なんですって!? 魔力回復薬なんて高価なもの何処で手に入れたんですの!! そもそも、そんなもの飲むなんて卑怯ですわ」
「そうよ。ユウ君。卑怯よ。そもそもあんなに沢山の魔法具持っているなんて、どうせ、ルークさんに買ってもらったのでしょう? 平民があんなに魔法具手に入れられるはずないもの」
ああ、煩い。本当に煩い。こっちは目覚めたばっかで、だるいのにいちゃもんつけてくる事は予想できていたけれども、それでもめんどくさい。
でも、ルークに買ってもらっただとか勝手に色々言われるのは心外だ。
「魔力回復薬は僕が作ったものだ。魔法具はルークに買ってもらったものはない。自分で、作った奴と、お金貯めて買った奴とか、試作品とかしかない。大体、そんな卑怯だっていうならルークだって魔力回復薬でも持ちこんでいればよかっただろう?」
そう、魔力回復薬は自分で作ったものだ。ルークの父親であるアル様は、魔法具職人や調合師と関わりを持っている。ルークと幼なじみで、よく遊んでいた僕はそう言う関係で魔法具職人や調合師と知り合いなのだ。
ちなみに言うと、調合を極めた存在を、《魔女》と呼ぶ。最初に、調合を極めた人間をそう呼んだために、男でも女でもそう呼ばれるらしい。
で、その時に原材料や調合方法まで興味を持ったから聞いておいたのだ。調合は難しいから中々成功しないのだが、ルーク戦中に飲んだのはたまたま成功した数少ない魔力回復薬である。あ、原材料から手に入れられそうなものは自分で手に入れにいったんだけどね。アースについてきてもらって色々採取しにいったのだ。とはいっても、魔力回復薬で一番重要な材料である魔粉と呼ばれるものは流石に自分では手に入れにいけないから魔法具売ったお金で買ったけど。
「自分で作ったですって? リルードにそんな事が出来るんですの?」
「魔力回復薬まで自分で…?」
「そう。今回の大会で、ブラックワームの奴と、魔力回復薬に、魔法陣は消費しちゃったし、結界魔法陣の陣も書きなおさなきゃもう使えない」
ブラックワームのアレも他に持ってないし、魔法具の中では安い方とはいってもすぐに買えるようなものではない。
魔力回復薬だって調合に成功したものの数少ないのを飲んだからストックなんて本当に少ししか持っていない。
本選二回戦で使った魔法紙に魔法陣を描いて使った奴だって、魔法陣を書くのは時間がかかってもタダだからいいけど、魔法紙はお金がかかるわけだし。
予選とルーク戦で使った透明な膜の結界だって、二回使用したせいで陣の効果が弱まってるから書きなおさなきゃだし。
魔力回復薬に関しては、調合方法習ったの何年も前なのに難しくて中々成功しない代物だし、《マジックアンチルーム》を使用する際に魔力足らないだろうからって飲んじゃったけどもったいなかったかもしれない。
「ルーク」
驚いているようなメキシム達二人を放っておいて、僕はベッドに横になったままルークの方を見た。
「今回は僕が勝った。道具とか色々使われたらお前だって負けることあるんだ。だから、いい加減、サボるのやめろよ」
「……」
「魔法の授業の時だって自分の練習はしてなかっただろう? お前が流されやすいのは知ってるけど、才能ある癖に無駄にしてるの見てると苛々する」
そういって、僕はルークを見据えた。ルークは戸惑ったように、何かを考えるような表情を顔に浮かばせる。
「……ああ」
そして、確かにルークは力強く頷くのだった。
やる気に満ちた目を浮かべるルークに、僕は安心するように息を吐く。
「そういえば、僕どんだけ寝てたんだ?」
「え? ああ、3クエーワほどだよ」
「は? それって僕の次の試合は――」
「会長さんとだったけど、ユウが寝てたから会長さんの不戦勝」
ルークの言葉に、次セト先輩とだったのか。魔力不足でぶっ倒れてた僕が悪いけど、セト先輩強いだろうしやりあってみたかったなとちょっと残念に思う。
まぁ、それでもルークに勝てたって事実に胸が歓喜の心に満ちているのだけれども。
そんな時に、保健室の扉がコンコンッとノックされた。
そうして、入ってきたのはセト先輩とマー先輩だった。