ルーク戦(2)
『イーサ』に灯っていた炎が消えた事に、驚いたような顔をするルーク。
本当、僕が魔法具を使った戦い方をするって、幼なじみなんだから理解しているはずなのに…、どうしてこう、下準備とかルークはしてこなかったんだろうと呆れる。
きっと何も考えてないに違いない。何も考えずにこのコロシアムを訓練とか、練習の延長とかそういう風にしか考えてないんだろう。このコロシアムは結構将来にも影響するのに…。ギルドとか軍の人間だって見に来ているわけで、一学年首席のルークを見に来てる人もいるだろうに…。
三学年の先輩で、高等部に進む気がない人にしてみれば、ギルドや軍に目をつけられたい!って思ってる人間もいるだろうし。そんな中で、真剣さがないというか、僕に敵視されただけで戸惑うあたり何ともいい難い。
さて、『イーサ』はこれで只の長剣になり果てた。
液体の効果はしばらくは継続することだろう。次の仕掛けに入らなければ…。どうせ、ルークは真正面から何も考えずに向かってくるはずだ。それならば、きっと成功する。
『イーサ』の魔法具としての機能を失ってもなお、僕に強力な魔法を放つ事を躊躇っているルーク。本当に、才能の無駄だと思う。とはいっても、流石に魔法を使わずにはいられないだろうけれど。
「《ファイアーブレズlevel3》」
ルークだったら、もっとlevelの高い魔法を使えるだろうに、level3程度の魔法を僕に放ってくる。
予選で使った透明な膜を《亜空間》から取り出して、そのまま自身の体を覆い、ルークの口から吐かれた炎を防ぐ。
ルークの魔法は、一般のlevelよりも強力な魔法だ。例えばルークのlevel2の魔法は一般のlevel3の魔法という感じである。
だから今放たれた魔法は実質level4か5の魔法なのだ。強力な魔法を使われると透明な術式の刻まれた膜じゃ防ぎきれない。ルークの使える最大な魔法なんて使われたら対処法はあるが、この膜は使えない。
防ぎきった事に少しの安堵を感じながらも、僕は次の行動に移る。
なるべく早めに、アレを完成出来れば…、そうすれば、まだ勝ち目はある。
能力でいえば僕は単純に考えてルークには勝てない。
諦めたくはない。僕は勝ちたい。負けたくない。だから、頑張ろうと思う。
《亜空間》から次に取り出したのは何本ものクナイ。いくつものクナイの中に八本だけ、仕掛けがしてあるが、ばれないように工夫はしてあるし、ルークは気付いたとしても相手がどんな小細工しようと自分が勝てるとでも思っているだろうから、わざわざ細工の効果をなくそうとかは考えないはずだ。
実際に僕みたいに小細工しまくる、って奴は今までルークと戦う中にいなかった。だって、皆諦めてたから。対人戦の場合は同学年のルークの相手は、勝てるわけないって諦めてた。だから、当たって砕けろ状態で、皆準備も何もせずに向かっていっていた。
ルークは大人にだって勝った。それは何て言うか、小細工して勝つなんて…という大人のプライドが邪魔してたってのもある。真正面からバカみたいにぶつかるだけなら、ルークの才能は圧倒的なのだ。
とはいっても、アースにはルークは勝てなかったけど。
大体、小細工の何が悪いんだろう? 結局戦いなんて勝ったものが勝ちだと思う。だって、生きるか死ぬかの戦いなんだから、勝たなきゃ意味がない。僕は変なプライドで死にたくもないし、勝てる戦い方をするのは当たり前だ。
《亜空間》の中には、事前の大量のクナイを仕込んである。いくつものクナイを、ルークに向かって、狙いを定めて投げる。
八本の仕掛け付きは、わざとルークには当たらないように―――、舞台の端の方へと狙いを定める。
そうやって、クナイで攻撃と見せかけて仕掛けを発動させようと動く中、ルークが羽をはばたかせながら、こちらに猛スピードで向かってくる。
……本当、《エンジェルウインド》を長時間、維持しっぱなしってだけでも何てバカげてる魔力だよ。しかも詠唱破棄してたわけだし。
靴に魔力を込めて、空中の移動速度を速める。が、それさえもルークに追いつかれて、剣先は腕を微妙に掠めた。一応、このきているローブも、物理攻撃に対する防御系の術式が組み込まれている。けれども、剣先はローブを切りさき、腕から赤い血液が漏れた。
「―――っ」
少しの痛みに思わず顔が歪む。
とはいっても、隙を見せるわけにはいかない。八本のクナイのうち、四本は既に目的の位置に刺さっている。あと、半分だ。
魔法は使いたくない。魔力をアレを成功させる前に消費したくない。
とはいっても、ルークからの追撃をどうにか足止めしなければやってられない。
《亜空間》の中を漁り、一つの小さな袋を取り出す。そうして僕はそれを―――思いっきりルークに向かって投げる。
ルークの目の前で中身がぶちまけられたそれの中からは――、粉状の物体が降り注ぐ。そして、その粉は、ルークの目の中にも入る。
まぁ、要するにいえば目潰しだ。少しはこれで目がくらむはずだ。ルークは片手で目を押さえて、もう片方の手で僕が攻撃してくるとでも思ってるのか、『イーサ』を振り回している。
が、僕は別にこれはルークへの攻撃が目的なわけではない。
ルークが、目つぶしで目がくらんでいる隙に、一本、二本と、クナイを投げつける。
それだけの時間で、少しずつ目つぶしの効果は薄れていく。
――――あと、二本。上空から舞台を見渡す。六本はちゃんと、思い通りの場所に刺さっている。あともう少しで、仕掛けは完成する。
「精霊よ!! 僕に力を貸して!!」
もっと、自身の魔力を使わずに、ルークの気を引かなければいけない。ルークは下なんて見ていないから、きっと仕掛けには気付いていない。でも、時間がたてばたつほど気付かれる可能性が増すだろう。
どっちにしろ、長期戦で不利なのは僕なのだ。ルークは長期戦だろうと魔力切れはしないだろうし、僕よりも体力がある。
僕の精霊への呼びかけに、火の精霊が答えてくれたみたいで、ルークに向かって二つの方向から火の玉が向かっていく。よし、運がいい。精霊が二体も今回は呼びかけにこたえてくれたらしい。
ルークがそちらに気を向けている間に、あた一本、二本と、クナイを投げつける。
―――そうして、八本のクナイが舞台の上で巨大な八角形を作り出す。大きさは舞台の大きさギリギリのでかさの八角形だ。
―――出来た!!
それを思った瞬間僕は靴へと魔力を込めて、そのまま、急降下する。
驚いたように上空にとどまったままのルークが、僕を追いかけてくるが、そんなの気にしないといったように僕は舞台におり、そして屈みこみ、舞台に両手をついて、言葉を告げる。
「発動せよ―――《マジックアンチルーム》」
両手の部分から、魔力が拡散するようにあらゆる方向に広がっていく。
クナイについた小さな指輪程度の大きさのリングに僕の魔力が伝染する。
――――そして、それと同時にリングは青い煌きを発する。隣接するクナイ同士が、青く輝く魔力によって繋がれる。光る、光る、光る――――。突然光り出したそれに、ルークの視線が釘付けになっているのがわかった。僕とリングが、魔力によって繋がっているのがわかる。クナイから上に向かって、青い光が伸びていく。
そうして舞台の上に八角形の巨大な空間が僕とルークを囲む形で出現する。
「―――完成」
うまく出来た事が嬉しくて、思わず口元が緩む。
――――これで僕とルークは、魔法具・《マジックアンチルーム》の空間の中に閉じ込められた事となる。
ルーク戦の続きです。まだ続きます。
魔法具考えるのは楽しいですが、やっぱり考えるの難しいですよね。
あとやっぱり戦闘がうまくかけないので、もっとうまく書きたいです…。
魔法具の名前ももっとかっこいいのに出来ればいいんですけどね…。
この魔法具とかの正体とか効能は次回明かします。とはいっても名前でなんとなくわかりそうですが。