正直ハーレム引き連れたルークは邪魔である。
「ねぇ、ルークさん」
甘ったるい声を出して、腰まで綺麗な黒髪を伸ばした愛らしい少女がその腕に手を絡めている。
「ノアさんってば、ルークに近づかないで」
腕をからませている少女をキッと睨みつけて、茶髪の少女がそんな言葉を言い放つ。
「ルークは私のものですわ!」
偉そうにそんな言葉を言い放って、金髪の少女はルークに近づいている。
「お前たち、ルークに近づくな! ルークは私のだ」
なんて言い放つのは、担任である背の高い美女だった。
そこは、大陸が誇る由緒正しき魔法学園――ルミード学園の一室。部活棟と呼ばれる、部室などが多く存在する建物の中で女子生徒達と騒いでいる男へと、椅子に腰かけている僕は視線を向ける。
銀色の髪が、太陽に反射して輝いている。顔立ちは整っているし、確かに幼なじみであるルークが美形に属されることぐらい昔から一緒に居たからわかっている。が、どうして部室内で部活中に異常に騒いでいるのだ、と疑問を口にしたくなってしまう。
何故か担任も含む美女を四人も侍らしているルークへと視線を向けながらも、僕は部活の活動をしていた。僕が所属する部活の名は、『魔法研究部』。魔法、魔法具、魔法陣――などといったありとあらゆる魔法とつくものの研究をし、様々な効能を試すという、僕みたいに魔法というものが好きな面々で形成されている部活である。
部室内には、この少しマイナーな部活に所属しているルーク達を除く部活仲間が部室内にそれぞれ散らばっており、それぞれのもっとも感心のあるものについての研究をしている。
壁を覆い尽くしている本棚には、魔法関連の本がびっしりつまっている。とはいっても、図書館の本の方がもちろん、充実しているが。
幼なじみである僕が入ったからと、何故か一緒に入ってきたルークについてきて、何故か担任であるアフライ先生が顧問になり、他の三人も部活に入ってきたのは別にいいとしよう。でも、はっきりいってちゃんと部活もしてない人間なんて邪魔な他ない。
『魔法研究部』の部長を務めている三学年のケイト先輩なんて、頬をひきつらせてどうにかできないものかとルーク達を見ている。
本当に邪魔である。熱心に魔法の研究をしている側から見れば、隣でハーレムを形成している姿は邪魔である。ルークにその気がないのはわかるが、恋愛感情ぐらい気付けよとつっこみたい。
ケイト先輩の、どうにかしてくれという目に僕は仕方がないともっていた羽ペンを置いて椅子から立ち上がった。
そうして、ルークに近づいていって、一言告げる。
「ルーク、邪魔」
ルークが居なくなれば、きっと周りで何こいつらと思うほどルークにべったりとくっついているハーレム達も居なくなってくれる事だろうと思って言い放った言葉だった。でも、そんな言葉に真っ先に反応したのは、ルークではなかった。
「ユウ君、ルークさんに向かってその言い方はないでしょう?」
腰まで艶のある黒髪を伸ばした少女の名は、ノア・メキシム。
クリクリとした大きな茶色の瞳に加えて、背も女らしく低く、可愛いと周りに称されるであろう少女だ。僕とルークのクラスメイトの一人でもあり、何でも僕が知らない間に男に絡まれていた所をルークに助けてもらったというベタな理由で惚れてしまった少女である。
後から詳しく聞いた所、無理やり交際を迫っている不届き物が居たらしく丁重に風紀に差し出したらしかった。
ルークの隣に立つ、メキシムはルークさんに何て事を言うの、という目で僕を見ている。
「そうよ、ルークに邪魔って! ルークは何もしてないわ」
肩まで伸ばした茶髪のふんわりとした髪が特徴的な少女の名は、ミク・セルフィード。
メキシムと同じく僕らと同じクラスの少女であり、ルークの隣の席で、いつの間にかルークに惚れこんでしまったらしかった。
「あら、このわたくしのルークが邪魔なんて、あなたの方が邪魔ですわ」
冷めた目でそんな言葉を言い放つのは、派手な金髪の髪持つ美少女であり、名前をルミ・アイワードという。
大貴族の令嬢で、今まで我儘に育ってきたのか、どうしようもなく偉そうだ。彼女もクラスメイトであり、自分を「アイワード」という肩書で見ない所に惚れたらしかった。
「ルークを苛めるなら、単位をやらないからな!」
そうしてそんな横暴な事を言い放つ、子供っぽい事を言っているのは担任である、アフライ・シュンドイル先生である。
美しい顔立ちをしており、若い女教師である。困っていた所をルークに助けられ、ルークのイケメンスマイル(驚くべきことに大抵の美少女に聞く)にやられてしまったらしい、女性だ。13歳の子供にこんなにいれ込んでいるだなんて正直いって神経を疑う。
「皆…、ユウにそんな事いうな。邪魔しているのは確かなんだから」
色々僕を責めている面々にそういったのは、ルークであった。
とりあえずの救いはルークが取り巻きみたいに自己中ではないという事である。寧ろ僕はただの平民出し、ルークがこんなこと言わなきゃアイワードあたりに権力で色々と追い詰められそうな予感がする。
申し訳なさそうな目で、こちらをちらりと見るルークに、どうして今回は自己中な女に好かれているのだろう、こいつはとただ思う。
ルークに言われたからか、そうですね、と変わり身の激しいハーレム陣達には何だか色々と呆れた。
「で、ルークは研究する気あるの? あるならさ、騒がないでくれない? そこのメキシム達も研究しないならやめてよ、部活。正直部活の邪魔になっているのわからない?」
ルークにそういえば、ルークの後ろにいるハーレム達に思いっきり睨まれた。ちなみにルークからすれば、後ろに居るハーレム陣の顔なんて見えてないんだろうけれども、見てないからって表情変わりすぎててある意味凄いと思う。
僕は元々彼女たちに目の敵にされている。というのは、彼女たちはルークと二人っきりになりたいらしい。でも僕とルークは幼なじみだし、ルークはよく僕を誘う。二人っきりになりたいというのに、僕がその場にいたりするからあっちからすれば邪魔らしかった。
「俺、ユウと同じ研究したいって前からいってるじゃん!」
「いやさ、ルーク。別にルークが僕と同じ研究やるのは構わないよ? でもさ、結局研究できてないじゃん」
「…すまない、ユウ」
「謝るのはともかくとして、本当にどうにかできない? 真面目にやってくれないならさっさとやめなよ」
「でも、俺この部活がいい……」
「じゃあ、あのメンバーが騒ぐのどうにかしてって僕いってるよね?」
「いや、でも……」
ルークは、基本的に好意を向けられるとそれを拒絶するなんて事はしない。自分の見ているものを信じているから、ルークには優しいハーレムの面々が何で僕にきつい態度をとっているのかきっと本気でわからないのだろうと思う。
困ったようにこちらを見ているルークに、ため息が漏れる。
ルークは基本的に周りにいる女の子を女友達としか思っていない。昔から女に異常にもてる体質だったせいか、態度で全然気付かないのだ。
困っている人間は放っておけないらしく、なんだかんだで関わってしまうルークに比べて、僕は冷たい方だと思う。正直家族とか、友人とかが関わらなきゃ面倒事には関わらない。ルークとは幼なじみだし、こうして関わっているが、何も関係がなかったらきっと放置してたと思う。
「はぁ…とりあえずどうにかできないなら出てって。真面目にやってる人の邪魔だから」
「…うん、ごめん」
僕がそういえば、ルークは僕とハーレム陣を交互に見て困ったような顔を浮かべて、彼女たちを引きつ入れて部室から出て行った。
本当に、学園のハーレム陣を引き連れたルークは邪魔である。
さっさと恋人でも何でも作ればいいのに、そうすればハーレム陣達も大人しくなるかもしれないのに、という思いに駆られながら僕は大きなため息を吐くのだった。