山に登ります(2)
1クーワ=2分
30クーワほど馬で飛ばして、パティラ山のふもとに到着する。正直山を登るのに馬は邪魔なので、木に繋いで、馬達が魔物に危害が加えられないように、魔法陣を地面に描いて結界を展開させた。
「さて、行くか」
アースが意気込んで、笑った。
アースの武器は長剣である。銀色に輝くそれは、アースが軍での仕事中でも使っているものだ。
僕は弓を装備している。とはいっても接近戦になった時困るから、ローブの中に短剣なども仕込んであるけれども。いざって時は魔法具『亜空間』から取り出せばいいだろうし。
ちなみにルークも長剣を腰に下げている。それは魔法具の一種だったりする。というより昔ルークに惚れてた人の父親が魔法具職人でその関係でもらったものだ。今はその子は他に恋人作っているけれども。基本的に『通信鏡』のような魔法具でさえ高級だ。武器に術式を組み込む作業は一から武器を作らなければできない。というより、魔法具で後から術式を組み込めるのは、布や皮などにだけであって、銅や鉄のものには鍛冶をしながら術式を編み込む作業をしなければいけないのだ。
鍛冶師であり、魔法具職人でなければなせないものである。そんなわけで、ルークが持っているような武器であり魔法具であるモノは高価だ。そんなものをタダでくれるとあちらが言うものだから、ルークが必死でお金は払いますと言ってた記憶がある。
流石に、金貨40枚~100枚するような物をタダで受け取る気はしなかったらしい。その父親は親ばかだったから娘の頼みを断れなかったようだが、普通7歳の子供に魔法具である長剣を渡したりしねぇだろとつっこみたい。
山を登る。僕は魔法具である、身体能力を強化する靴を今履いている。これは僕が一から手掛けたものである。二年近く前に作った魔法具で、初めて作った魔法具だったから、そりゃあもう時間がかかった。
体力回復、魔力回復の薬――――魔法薬学の専門家が作ったもの、を僕は仕入れているので、バックには行っている。ルークと違って魔力量が異常でもないし、体力もルークみたいにないので、僕はこういう準備をしてきた。
「ユウ! 山とか登るの久しぶりだなぁ。なんか楽しい!」
ルークは無邪気に笑った。
「それは良かったな」
「それにユウと最近あんまりゆっくり話せてなかったし、何か楽しい」
「そうか。それならアイワード達をどうにかすればもっとゆっくり話せると思うんだが」
「えー、何で? ルミ達いい子なんだよ?」
「…それはお前に猫かぶってるからだろ」
猫かぶりのハーレム陣達を思い浮かべてみる。あいつら、ルークが居る前で僕に対するけなし発言たまにするが、ルークが他の事をやってて話聞いてない時に色々言ってくる時もあるからな。というかルークは基本的に話しこんでたり、何かに夢中になってると周りの声とかあんまり聞かないから。
「猫かぶってる? 皆俺にお弁当作ってくれたり、教科書忘れたら見せてくれたり優しい人なのに?」
「それはルークにだけだろ? あいつら僕の事かなり睨んでるし、色々言ってるけど」
「皆もユウも優しいから、きっと仲良くできると思うんだけどなぁ。何で皆ユウにあんな態度するんだろう…」
心底不思議そうに首をかしげるルークを見て、僕は大きく息を吐いた。
そうだ、一番厄介なのは、本気でルークが皆が仲良くなれると思ってて、猫かぶりのハーレム達を心から優しいと思いこんでる所である。悪気はないのはわかるが、もう少しどうにかしなきゃこいつ色々駄目だよなぁ…と僕は思う。
そもそもルークは権力者だ。この貴族社会でトップクラスの権力をこの国で持つ事になるのだ。この国―――アルティアト王国は王族、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家。という、王族と貴族が居る。ヴェーセント家は公爵家の中でもトップクラスに位置する。そして、発言権も大きい。
そんな所の跡継ぎが、これだけすぐころっとだまされるんじゃ、本当に駄目だ、と僕は思う。どうにかルークにもっと自分の地位を自覚してもらわなければ…。
「ユウ、ルーク、来たぞ」
アースに言われて、前を見れば、魔物がいた。
四足で地面に降り立つ、赤い毛皮の狼。レッドウルフと呼ばれる魔物が、五体そこにいた。
大きさは、50センチぐらい。大人のレッドウルフだと60センチ~1メートルあるらしい。
「…よし、やるか」
ルークはそう言って、長剣を抜いた。ルークのその長剣の名は『イーサ』(ルーク命名)。大きさからは信じられないほどの軽さの長剣であり、それは、魔力を込めれば炎を纏う。
アースの長剣は魔法具ではないが、かの有名な鍛冶師―――トワイデント・イザーラという老人に売ってもらったものらしい。ちなみにこちらもルークのと同じ高級品だ。
二人が長剣をふるって、一匹ずつ蹴散らす。
僕は、意識を集中させる。そして、”ある存在”を探す。
「……見つけた」
僕はぽつりとつぶやき、口元を緩めた。
そうして、向かってくる三匹のレッドウルフに向かって口を開く。
「精霊よ、僕の望みに応えて!」
祈る、祈る―――見つけたその存在に向かって、願う。
そうすれば、巻き起こる風。その風はレッドウルフに襲いかかり、滅していく。
僕が今行使したのは、精霊魔法と呼ばれるモノである。一般の、自身の体内にある魔力を使って魔法を起こすのとは違って、精霊に呼び掛けて力を借りる、そんな魔法だ。
精霊魔法を使うには、精霊を感じなけれはいけない。感じられなければ精霊は力を貸してくれない。精霊を感じられるモノを《精霊の愛し子》という。一応僕もそれに分類されるんだけど、僕は感じるだけしかできないけど、そのチカラが強い人は精霊を見て、精霊と会話する事が出来るらしい。
ちなみにルークは一般の魔法は滅茶苦茶強いんだけど、精霊を感じる事はできない。アースもルークと同様だ。
まぁ僕の場合精霊の方から僕と話したいとか思ってくれればギリギリ見えるレベルなんだよね。精霊と契約すると、精霊魔法の力が結構一気に上がるらしい。だから契約できればもう少し精霊魔法が活用しやすくなると思う。
学園では精霊魔法は知識として習うだけで実戦は習わない。《精霊の愛し子》って結構数が少ないらしい。感じる事が出来ても精霊が応えてくれない場合もある。まぁコロシアムでは何でも有りだから精霊魔法も使っていいだろうけど…、学園の近くや学園内に力を貸してくれる精霊が居るかどうかが問題なんだよね。
精霊魔法の場合、自身の魔力は使わなくていいから楽だけど、僕の場合感じても力貸してくれなかったり、力貸してくれたりがバラバラだから一般の魔法を使う方が多い。
今回は精霊が力貸してくれればいいなぁ、っていう気分で魔法使ったんだけど、うまくいってよかった。
レッドウルフを倒した僕らは次々と山の奥へと進んでいった。