夢への回想
朝目を覚ますと、目の前に見えるのは無機質な洞窟や神秘的に光る魚ではなく、和の温もりを感じさせる板張りの天井。
前髪が横一直線に切り揃えられている長髪の少女――艝箱冬優(そりはこふゆ)は、カーテンを開き、窓を開けて新鮮な外の空気を自分の部屋に取り込んだ。
冬優は、んーと背伸びをし、夢の中のことを思い出す。
不思議な夢を見た。
自分が人魚になり、光るとても美しい魚が自分に話しかけてくる夢だ。
そこでの夢は彼女にとってただの夢ではなく、楽しいとても大切な一時であった。
冬優はその夢を毎日のように見ている。
1番始めに見たときのことは覚えていないが、それは彼女が物心付いた時にはすでに、夢の中で出会ったシーマと一緒にいたからだ。
彼女が最も古い6才の頃の記憶のには、すでにシーマが夢の中にいた。そして何故かシーマの名前も知っていた。
もしかしたら彼女が物心つく前にシーマが自分の名前を教え、それを覚えていただけなのかも知れない。あるいはシーマは彼女が夢の中で作り出した架空のキャラクターだからなのかも知れない。
そもそも夢とは、睡眠中に起こる、知覚現象を通して現実ではない仮想的な体験を体感する現象をさす。
つまり嘘ということ。
冬優が人魚になったことも、水の中で息をして泳いだことも、そしてシーマと出会ったことも全て架空の世界の中の絵空事なのだ。
だからシーマは実在していないし、彼女も本当に人魚になれた訳ではなない。彼女も頭ではその事を十分分かってはいるが、心の奥底ではそれを否定していた。
シーマは本当に実在し、そして自分は人魚になった。
それが事実であるような気がして、冬優は思わず笑ってしまう。
冬優は今まで他の人が見てきたような夢を見たことがないのだ。
自分の夢と他人の夢。
それは絶対に比べることはできない。
自分の夢は自分だけのもので、彼女の世界は彼女だけのものであった。