宛先のないお年玉袋
掲載日:2026/05/22
正月の祖母と孫の話。
あげられなかったお年玉。
順番が違うよ…
「おばあちゃん、お正月おめでとう!」
いつも通り、孫が扉を開けて入ってくる。
元気な声。
「元気にしてた?私はね――」
楽しそうに近況を話す。
「お節、食べるかい?」
「また買ったの?」
文句を言いながら、箸を伸ばす。
「おばあちゃんの作った方が美味しいのに」
足を悪くしてから、台所に立つことも減った。
「あ、そうだ。これ、お年玉」
孫が袋を差し出す。
「年上にあげるのって、お年始だっけ?」
「……ありがとうね」
「おばあちゃんからもあげようか」
「もう働いてるんだから大丈夫だよ。でも、ありがとね」
そう言って笑う顔は、昔と変わらない。
――用意してあったのに。
葬儀場。
白と黒の幕のそばで、声がする。
「まだ元気そうだったのにね」
棺の中の顔を見る。
渡せなかった、お年玉袋。
宛先は、どこにもない。
読んでくれてありがとうございます。




