第7章 崩れる静寂 ― 結月の涙と、環の痛み ―
午後の会議室。
凪がリンクル側の担当者と話している間、
環は資料整理を終えて、会議室の端でそっと息を整えていた。
そこへ、ドアが控えめにノックされた。
「し、失礼します……。」
震える声。
入ってきたのは——
芦野結月だった。
昨日とは違い、
顔色は青白く、目の縁は赤く腫れている。
環はすぐに気づき、声をかける。
「芦野さん……大丈夫ですか?」
結月は唇を噛み、俯いたまま小さく頭を下げる。
「すみません……私……どうしても、1度……お礼と……謝罪を……」
「謝罪……ですか?」
結月は必死に言葉をつなぐ。
「わ、私の……せいで……
漏洩が……。
Insertキー……押したの、私なんです……!」
椅子の背もたれをぎゅっと握りしめ、
声が震えていた。
環は席を立ち、結月のそばまで静かに歩み寄る。
「芦野さん。
あなたのせいではありませんよ。
“仕組まれた罠”なんです。」
「で、でも……押したのは私で……
私がもっと気をつけていれば……」
環は首を横に振る。
「……あの……少しだけ、聞いてもらえますか。」
結月が涙をこらえたまま顔を上げる。
「私も……以前、“あのような事件”を経験しました。
たまたま触れた場所が……“仕掛け”になっていて……
私のせいじゃないのに、周囲はそう思いました。」
結月は驚いたように息をのむ。
凪は手を止め、柊も静かに2人の方を見ていた。
環はゆっくりと言葉を紡いだ。
「……だから、芦野さん。
同じ苦しみを、あなたに背負わせるわけにはいきません。」
結月の目に涙が溢れる。
「……っ……でも……どうして……
そんなふうに……言ってくれるんですか……」
環は小さく微笑んだ。
「あなたが、昨日……とても困っていたからです。
誰でも……困っている人は、助けたいです。」
その言葉に、結月は堰を切ったように泣き崩れた。
「……怖かったんです……
自分が悪いんだって……
もう……仕事も続けられないんじゃないかって……」
環はそっと背中に手を添える。
「大丈夫ですよ。
私たちが原因を必ず見つけます。」
凪が柊と視線を交わし、
静かに言った。
「芦野さん。
僕たちが“真犯人”を突き止めます。
だから、あなたはひとりで背負わないでください。」
柊も、落ち着いた声で続ける。
「ここから先は、俺たちの仕事だ。
安心して任せてください。」
結月は涙の中で、必死に頷いた。
その姿を見ながら——
環の胸もまた、
あの日と同じように
少しだけ、きゅうっと痛んだ。
(……もう誰も、同じ思いをしてほしくない……)
その静かな誓いを、
胸の奥に刻みながら。




