第4章 ゆっくりと迫る影 ― 宮野の痕跡、波多野の視線 ―
リンクルのシステム管理室には、
独特の静けさが漂っていた。
蛍光灯の白い光が、
モニターの青い画面に淡く反射している。
「……ここが、作業端末のフロアです。」
案内したのは、瀬尾尚輝。
物腰は柔らかいが、声には焦りが滲んでいた。
凪はすでに端末へ歩き、
ログのバックアップを手際よく開いていく。
「ふむ……Insertキーと、Escキー……?」
柊が瀬尾に確認する。
「はい。どちらも“誤操作の可能性があるキー”なんですが……
2回押されていた履歴が、不自然なタイミングで残っていて……。」
環は、瀬尾に丁寧に尋ねる。
「この端末を使用されていたのは……芦野結月さん、ですよね。」
「そうです。彼女……その……とても混乱していました。」
環は小さく頷き、
柊と凪の背中を見つめる。
(凪くん……どんな仕組みなのか、気づいたかな……)
凪の指先は止まらない。
モニターに映るログが、テンポよくスクロールしていく。
「……これ、“あとから付け足された”ログだな。」
柊が横から覗き込み、眉を寄せる。
「不自然に空白がある。
ログの“間”が不規則だ。」
環は息を飲む。
「つまり……操作ミスではない、ということでしょうか。」
「ええ。誰かが“ミスに見せかけた”可能性が高いですね。」
瀬尾の顔色が変わる。
「そんな……内部の人間が!?」
凪はモニターから目を離さずに言った。
「内部か外部かは、まだ判断できないですけど……
この端末には“クセのある仕込み方”がされてます。」
クセ——その言葉に、柊が反応する。
「ああ。なんとなく……凪。心当たりが?」
凪は苦笑するように頬を掻く。
「はい。ちょっと……“いや〜な感じのする仕込み方”です。」
環の胸がざわりと揺れた。
(“クセのある仕込み方”……
あの時のクロノスの事件と……似ている……?)
◇◇◇
そのころ——
フロアの端で、波多野樹が静かに立っていた。
腕を組み、
3人の動きを観察するように。
ふと波多野の視線が、
環へと向く。
環は気づかない。
ただ淡々と、柊の指示に従い、必要なログを並べていく。
波多野は小さく笑みを浮かべた。
(……やはり。
彼らは “本物” か。)
そして、誰にも聞こえないほどの声でつぶやいた。
「さて……君たちは
“JOKER” の存在まで辿りつけるかな……?」
蛍光灯の光が、
彼の目にだけ薄く冷たく反射していた。




