第3章 リンクルからのSOS ― 呼び出された3人、動き出す真実 ―
午前10時過ぎ。
アークシステムズのオフィスに、1本の電話が入った。
「……リンクルの小鳥遊と申します。
大塚柊真さん、いらっしゃいますか?」
電話を受けた凪は、すぐに柊真を呼びに行き、
オフィスの空気がわずかにぴんと張る。
数分後。会議室。
小鳥遊幸太郎が深々と頭を下げる。
「大塚さん……本当に申し訳ない。
うちで、顧客情報の漏洩が発生してしまいましてね。」
柊真は穏やかな声で答えた。
「状況を順にお聞かせいただけますか。」
小鳥遊は額の汗をハンカチで拭いながら言葉を続ける。
「情報システム部では……
“基盤の設計に欠陥があるかもしれない”と。
再発防止のためにも、貴社にご協力いただきたいのです。」
小鳥遊はそこで一度視線を落とし——
今度は静かに笑った。
「それに……大塚さんの甥御さん、如月柊くん。
クロノス時代に助けてもらったことがありましてね。
彼なら安心して任せられる。」
柊は照れたように、しかし誇らしげに笑う。
凪がひょいと顔を出す。
「小鳥遊さん、あの……漏洩の規模って、どれくらいなんですか?」
「そこがまた、妙でして……
漏れたのは“ほんの一部の顧客情報”なんです。
大量流出ではない。
原因が、どうにもつかめない。」
(ほんの“一部だけ”……?)
凪の目が鋭く細まる。
環が隣でメモをとる。
柊が落ち着いた声で言った。
「調査をさせていただくにあたり、
作業環境とログの提供をお願いできますでしょうか。」
小鳥遊はホッとしたように頷く。
「もちろんです、如月さん。
すぐに準備させます。」
柊が席を立ち、柔らかく頭を下げる。
「では、現場に伺います。
凪、環、準備を頼む。」
「了解です、柊先輩!」
「はい、すぐに準備します。」
3人が会議室から出た瞬間——
環の胸が小さく、ぎゅうと痛んだ。
(“一部の情報だけが漏れた”……
あのときと……似てる……)
気づかないふりをしたかった痛みは、
すぐ隣を歩く柊には伝わっていた。
「環。無理に平気なふりをしなくていい。」
「……っ。柊……」
「環さん。大丈夫です。柊先輩と僕がいます。」
凪も振り返り、やわらかく笑った。
「環さん、今回はあの時とは違う。
絶対に、同じことはさせません。」
環は小さく息を吸い、
胸の痛みが少しやわらぐのを感じた。
「……はい。ありがとうございます。」
3人は並んで歩き出す。
外は曇り空。
しかし、これから向かう先では——
もっと濃い“影”が待っていることを、まだ知らない。




