第35章 Shadowの正体(Revelation) ― “影の天才”の名は、米田圭介 ―
迷宮が破れた直後。
黒い画面が静かに形を変え、
ひとりの男の輪郭が浮かび上がった。
逆光で顔は見えない。
しかしその“声”は、鮮やかすぎるほど記憶に刻まれていた。
《ようやく……来たな。
俺の迷宮を破るとは。
やはり、君たちは“天才”だ。》
凪の心臓が一度だけ跳ねる。
(……この声……まさか……)
蒼真は目を細めた。
「“迷宮”なんて……
あなたの口癖だったね。」
柊は一歩前へ出た。
「米田……圭介。」
◇◇◇
■ “影”が姿を現す
光がゆっくりと強まり、
そこに立つ男の顔がはっきりと映る。
鋭い目つき。
痩せた頬。
長い指先はキーボードを触る癖がそのまま残っていた。
男は薄く笑った。
「ようやく気づいたか、如月柊。」
凪の喉が震える。
「……なんで、あなたが……ここに……」
米田は肩をすくめた。
「“影に沈む”ってのは、こういうことだよ。
名前も消し、記録も消し、痕跡すら残さない。
芹澤に罪を被せるのは、簡単だった。」
蒼真が低い声で言った。
「……つまり、芹澤は“コピーキャット”だった。」
米田は嬉しそうに笑う。
「ああ。
本物は“ここにいる”。
俺だ。“SHADOW”の名は、伊達じゃない。」
◇◇◇
■ 凪の過去をあざ笑うように
米田はゆっくり凪を見る。
「……陽翔。
久しぶりだな。」
凪の拳が震えた。
「……なんで……
なんで僕を、あのとき……」
米田は軽く目を伏せ、
過去を見下すように笑う。
「新人のくせに、俺と同じレベルでコードを書こうとした。
気に入らなかったんだよ。
“天才は俺だけでいい”。
君は邪魔だった。」
柊の瞳が鋭く光る。
「だから……凪を“間違った道”へ誘った。」
米田はゆっくりと拍手した。
「さすが如月。正解だ。
俺は凪を潰すつもりだった。
でも君と桐生が邪魔して、“凪の才能”を目覚めさせた。」
凪の表情に苦い痛みが走る。
(……やっぱり……
あのとき僕が迷ったのは……この人のせいだった……)
◇◇◇
■ 米田圭介の“本当の狙い”
米田はテーブルを指で叩きながら言った。
「俺が欲しいのは、たったひとつだ。
“天才の証明” だ。」
蒼真が静かに言う。
「だからアークシステムズを狙った?」
米田の声が低く落ちる。
「ああ。
お前たちが“信頼”だの“仲間”だの言って天才ぶってるのが気に入らない。
天才は孤独だ。
俺のようにな。」
柊が言い返す。
「違うな。
“孤独にしたのはお前自身”だ。」
米田の目が細まる。
「……言ったな。」
柊は一歩も引かない。
「天才でも、技術でも、人でも。
信頼を捨てて勝てる相手じゃない。
お前はその一番大事なものを……最初に手放した。」
米田は笑いながら指を鳴らした。
「如月……
その言葉、後悔させてやるよ。」
◇◇◇
■ Shadow の宣戦布告
画面に新しい文字が浮かぶ。
《次は“実戦”だ。
アークシステムズ全体を沈める。
まずは——
三浦環。》
「……!」
「環さんを……?」
柊の瞳が、氷のように冷たく光った。
「——米田。
お前だけは……絶対に許さない。」
米田はくすっと笑う。
「その怒り、いいねぇ。
さあ、ゲームを続けよう。」
そして黒い画面が完全に消える。
Shadow——
米田圭介は、本格的に動き始めた。




