第30章 追跡開始(Trace the Shadow) ― “あの日の影”を追う、3人の決意 ―
アークシステムズ セキュリティルーム。
柊、凪、蒼真は、
Shadowからの挑発メールを前にして
しばし無言のまま立っていた。
凪が息を吸い込む。
「……柊先輩。
このまま受け身じゃ、やられます。」
蒼真も頷く。
「向こうは“僕たちが動く瞬間”を観察している。
こちらの出方を読もうとしている。」
柊は腕を組み、低く言った。
「読ませてやるさ。
ただし——こちらが“読ませる”タイミングだけだ。」
その言い方に、凪と蒼真の背筋が伸びる。
「柊先輩……その顔……出ましたね。」
「久々に見るな、その“完全にスイッチ入った”表情。」
柊は静かに言い返す。
「環を狙った時点で……もう容赦はしない。」
◇◇◇
■ Shadowの残した“抜け道”を追う
凪が高速でキーボードを叩きはじめた。
「このメール……“破るための鍵”が最初から入ってます。
あえて混ぜてる感じですね。」
「誘導だ。
ここに気づけるのは……俺たちを想定してる。」
「ええ。
間違いなく“柊・凪・蒼真”の3人を狙い撃ち。」
「なら、乗ってやろうじゃないか。」
凪がヘッダーの奥深くを抉るように解析し、
わずかなノイズを1つ拾い上げた。
「……これです。
Shadowが“残した”唯一の出口。」
蒼真が覗き込む。
「……暗号化レベルは9段階。
普通なら開けられない。」
凪はヘッドセットを耳にかけ、深く息を吸う。
「蒼真さん、同期しますよ。」
「合わせる。」
――パチッ。
画面が一瞬、白い火花のように光った。
凪と蒼真の指が、呼吸を合わせるように同時に動く。
あの時の “Blue_echo × 凪の領域” が
完全に蘇る瞬間だった。
「……3秒後、“鍵スロット”が開きます。」
「カウント入る。
3、2、1……!」
――ガンッ。
暗号が裂け、内部への小さなトンネルが開いた。
柊が静かに呟く。
「行け。」
凪と蒼真が一斉に潜り込む。
コードの海をかき分けながら、
1つのログが画面に浮かび上がった。
蒼真が声を低くして言う。
「……見覚えがある。」
凪も指を止め、震える声で言った。
「……これ……
僕たちを翻弄した“mirror”のコードの癖……」
柊は目を閉じて、静かに頷いた。
「……やはりか。」
◇◇◇
■《mirror》の正体、そしてもう一つの名
画面に1行のメタデータが浮かび上がる。
《Operator : S.Zawa》
《Status : Active》
「“芹澤”……!
やっぱり生きてる……!」
「Shadowは“芹澤のさらに上”か……
または、同列の誰かか……」
柊は画面を見つめ、低く言った。
「……芹澤は操られていた可能性が高い。
黒幕はさらに後ろにいる。」
「でも……追える。
芹澤の痕跡が“トリガー”になってる。」
「Shadowはわざと残した……
“来れるものなら来てみろ”という挑発だ。」
柊は端末を閉じながら言う。
「行くぞ。
このままでは環が——」
――ピコン。
新たな警告音が鳴る。
画面には――
《TARGET UPDATE》
《三浦環(MIURA TAMAKI)》
《価値:依然として有効》
「更新された……!?」
「環さんの“位置情報”を探ってる……!」
柊の目が鋭く光った。
「……環を狙った時点で、これはもう“宣戦布告”だ。」
3人は同時に立ち上がる。
「行きましょう、先輩方。」
「Shadowを追い詰める。」
「必ず——終わらせる。」
その声には、
過去の痛みと、守りたい未来の両方が宿っていた。
◇◇◇
■その頃、ぽかぽか邸では……
環が胸を押さえ、ふと息を呑んだ。
灯がそばに寄る。
「環……?」
「……柊が……呼んでる……気がする……」
結月は胸の奥がざわついた。
(大切な人たちが……戦ってる……)
ぽかぽか邸の静けさに反して、
アークシステムズの3人は
すでに“影”の中心部へ足を踏み入れていた——。




