第29章 最初の衝突(First Contact) ― “影”からの挑発、そして始まる反撃 ―
アークシステムズのセキュリティルームには、
緊張感のある静寂が流れていた。
柊、凪、桐生蒼真。
3人は無言のまま、同じ画面を食い入るように見つめている。
先ほど届いたメール。
差出人不明・本文空白のファイル。
開封すれば即座に侵入を許す可能性が高い。
柊は腕を組み、静かに息を吐いた。
「……全員、触っていないな?」
「もちろん。
柊先輩の“触るなオーラ”が強すぎますからね。」
蒼真は眼鏡を押し上げるように端末へ目を近づけた。
「これは……普通の攻撃じゃない。
“見せつけるためのトリガー”だ。」
柊は短く頷いた。
「ここで反応すれば、“向こうの思うつぼ”か。」
凪が画面を拡大しながら言う。
「……見てください。
このコードの走り方……人間が作ったものじゃない。
機械生成でもなく……“癖”がある。」
蒼真が補足する。
「癖……?
つまり、作った人物の個性が残っている?」
凪は静かに微笑んだ。
いつもの明るさとは違う“凪の領域の顔”。
「はい。
……これ、“芹澤の“mirror”のときのヤツ”に似てます。」
蒼真の目が鋭くなった。
「……あのときの“mirror”か。」
「奴の名前は……まだわからないな。」
「でも……招待状ですよ、これ。」
「……挑発だな。」
◇◇◇
■“影”のサインを読み解く3人
凪がキーボードを素早く叩き、
メールのヘッダー情報を瞬時に解析していく。
蒼真はその動きに合わせて後追いで解析を重ね、
より深層のデータを割り出す。
柊は2人の画面を同時に見ながら、
“最悪のケース”を想定し続けていた。
「IP偽装、送信元詐称、ルーティングは10段階。
でも……1箇所だけ甘い。」
「そこが“罠”のはずだ。」
凪は息を呑んだ。
「……たしかに。
普通なら絶対に残さない“抜け”がある。」
「誘っている……そういうことか。」
「はい。
“見つけろよ”って挑発です。」
凪の指が止まる。
「……柊先輩。
このメール、“僕たちの反応を見るための第1段階”です。」
「……向こうが、こちらの動き方を観察している。」
「はい。
僕たちがどう動くかで、
向こうの“次のカード”が変わる。」
蒼真の声が静かに響く。
「黒幕……“Shadow”…
あなたはどんな手を打ってくる?」
◇◇◇
■黒幕側の“影の返事”
そのときだった。
―― ピコン。
3人の端末の画面に、同じ文字が浮かび上がる。
【Message from SHADOW】
「……っ!」
「やべ……これ、監視されてる?」
柊は一歩前に出て言った。
「全員、手を止めろ。
これは“直接のコンタクト”だ。」
画面に続く文章が表示される。
《ようこそ、アークシステムズの天才たち。
招待状を受け取ってくれて光栄だ。》
「……うわ、完全に“遊んでる”タイプだ……」
「いや……遊びじゃない。
“見ている”。僕らの動きを……」
文章は続く。
《次のステップに進もう。
こちらの“動機”を知りたいのだろう?
なら——
答えを“取りに来い”。》
そして最後の一文は、
3人の心臓を一瞬だけ凍らせた。
《三浦環(旧姓)……
彼女には“特別な価値”がある。》
「……旧姓!?
なんで……知らないんだ……?」
「向こうの情報は……
“過去の環さん”で止まってる。」
柊の目だけが鋭く光った。
「つまり……
“環の近況を知らない人物”が関わっている。」
「身内じゃない……外部だ……!」
「以前から環さんを……調べていた……?」
柊は静かに端末を閉じた。
「決まりだ。
Shadow——
必ず引きずり出す。」
◇◇◇
■そのころ、ぽかぽか邸では…
環がふと胸の奥に冷たいものを感じ、
小さく肩をすくめた。
灯が気づく。
「環……大丈夫?」
環は微笑んだ。
「うん……
柊が……呼んでいる気がするだけ。」
結月は2人を見ながら思う。
(……大切な人が……戦っている……
そんな気がする……)
ぽかぽか邸の光の中――
戦いの余波が確実に近づいていた。




