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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season9 ― 見えない影と、暴かれる真実 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season9 ― 見えない影と、暴かれる真実 ―
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第2章 微笑まない女(ひと)と、影を知る男 ― 予兆はいつも、静かに始まる ―

情報システム部の端の席。

周囲の会話やキーボード音から、わずかに距離を置くようにして、ひとりの女性が淡々と作業していた。


宮野由維みやのゆい

派遣登録管理部 管理課の事務職。


黒髪をひとつに束ね、背筋を伸ばしたまま、

人ともモニターとも感情を共有しないような表情で、打鍵を続ける。


「……静か、だなぁ」


結月ゆづきは斜め向かいの席からそっと宮野を見た。

今日もいつも通り、誰とも目を合わせず、誰にも話しかけない。


当たり障りなく、

ただ淡々と、必要最低限の動きしかしない。


(怒ってるわけじゃないんだよね……たぶん)


結月はそう思うが、宮野から返ってくる空気は冷たいわけではなく、ただ“そこに存在しないような無音さ”だった。


そのとき——


宮野の手元に置かれたスマホが、わずかに光った。


画面には、開発者向けの技術フォーラムアプリの通知。

それを横目に、結月は「え?」と小さく声を漏らした。


(フォーラム……? ゆいさん、システム系の通知なんて見る人だったっけ…?)


事務職の一般社員が見るようなアプリではない。

だが宮野は、何事もないようにスッと通知を消し、また静かにキーボードに戻った。


まるで、何もかも“見せようとしていない”ようだった。



◇◇◇



昼休み。

給湯室に結月が入ると、すでに誰かがポットの前に立っていた。


「……あ。波多野はたのさん」


情報システム部 システム管理課の主任、

波多野樹はたのいつき

柔らかい物腰だが、人の動きをよく観察しているタイプだ。


「ああ、芦野あしのさん。お疲れさま。お昼?」


「はい、今日はお弁当で……」


波多野は、結月ゆづきの表情を一瞥しただけで違和感に気づいた。


「……何か気になることでも?」


「えっ……いえ、別に!」


慌てて取り繕ったつもりだが、

結月の声はわかりやすく震えていた。


波多野はコーヒーを注ぎながら、

軽い調子で話題を変える。


「宮野さん、今日も静かだったでしょう?」


「え……あ、はい。いつも、ですけど……」


「彼女、以前は少し違ったんですよ。」


結月は思わず聞き返した。


「えっ……そうなんですか?」


波多野は穏やかに笑うが、

その目の奥だけが笑っていなかった。


「元々、IT展示会でね。小さなブースを出していたエンジニアだった。

 あの頃は——今より自由で、明るかった。」


「え……ゆ、由維さんが……エンジニア……?」


結月の頭に、さっきのフォーラムの通知が浮かぶ。


「でも、現場では黙々と事務をしている。

 自分の技術を表に出すことは……ほとんどない。」


波多野はコーヒーをゆっくり飲み、一言だけつぶやいた。


「——ああいう静けさは、時に“警告”になる。」


結月の手が、緊張で少し震えた。



◇◇◇



席に戻ると、パソコンの画面が勝手に再起動していた。


「えっ……なにこれ……?」


Excelファイルには問題はない。

ただ、さっき押した Insertキー と Escキー の履歴だけが端末ログに残っていた。


——2つのキーが揃った記録。


それは、誰も知らないまま

《トリガー発動》の証拠として残された痕跡。


結月は、不安を抱えたまま椅子に座り直した。


知らない。

自分の背後で“影”がゆっくり形を成し始めていることを。


そして“その影”を最もよく知る男が

同じフロアで静かに微笑んでいたことにも——。

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