第27章 黒幕の揺さぶり ― “触れてはいけない”メール ―
ぽかぽか邸の午前。
灯と結月が静かに過ごしていたその時――
ブルッ……
灯のスマホが震えた。
画面には差出人不明。件名なし。本文もなし。
ただ、URLらしき文字列が1行だけ。
結月が不安そうに尋ねる。
「灯さん……何か……?」
灯は目を細め、結月の手をそっと押し戻した。
「触らないで。これは……危ない。」
結月は息を呑む。
(どうして……? ただのメールなのに……)
灯はすぐにスマホを裏返し、
画面を伏せたまま、短く息をついた。
そして――
柊へ電話をかけた。
「柊くん。……来たわね。」
電話口の柊は、一瞬で空気を変えた。
『灯さん。結月さんには触らせていませんね?』
「もちろん。あれを触る気にはならなかったわ。」
『……環と凪にも確認する。
絶対に開かないでください。
“メールがトリガー”になっている可能性があります。』
灯の目が鋭く光る。
「……やっぱり、そう。」
横で聞いていた結月は、顔を青ざめさせた。
「メールが……トリガー……?」
灯は結月の肩に手を置き、落ち着いた声で言った。
「あなたが怖がる必要はないわ。
危険を判断するのは……あの子たちの仕事だから。」
その時――
ブルッ…… ブルッ……
ぽかぽか邸のテーブルに置かれた結月のスマホも震えた。
「……え……?」
「触らないで。」
結月の手が空中で止まる。
(……怖い……でも……灯さんがいる……)
灯は深く息を吸い、
再び柊に報告した。
「柊くん。結月さんのスマホにも……同じものが届いたわ。」
『……了解です。こちらも、いま全員に届きました。』
灯は目を細める。
「全員……?」
『ええ。“全員同時”です。
これは……クロノス側の明確な“揺さぶり”。』
灯は静かに呟く。
「ゲームが……始まったということね。」
◇◇◇
その頃、アークシステムズ側。
桐生蒼真のスマホにも、同じメール。
凪のスマホにも。
環のスマホにも。
「うわ……なんですかこれ。
怖いんですけど。」
「柊……何か……ありますか……?」
柊は4人の前にスマホを広げ、
低い声で告げた。
「絶対に触るな。
これは……“誘導型トリガー”だ。」
「誘導型……?」
蒼真が静かに説明する。
「送られただけでは作動しない。
“開いた人間の端末だけ”を汚染する仕組みです。
そしてたぶん……
“開いた人間の居場所”が特定される。」
凪は顔を青ざめさせた。
「完全に、僕たち狙い……?」
柊は冷静に頷いた。
「そうだ。
このメールは“ただの挨拶”だ。
黒幕からの……な。」
環の手が震える。
「……わたしたち……狙われている……?」
凪は環の手を包み、優しく言った。
「大丈夫ですよ。環さん。
僕らは慣れてますから。
……隣には柊先輩と蒼真さんもいますし。」
柊は環を守るようにそばに立ち、
「ここから先は、俺たちが張る。
環……灯さんのそばにいてくれ。」
環は頷きながら、言葉を絞り出した。
「……柊……凪くん……蒼真さん……
どうか……気をつけてください。」
蒼真は微笑む。
「大丈夫です。
僕たちは“ただの技術者”ではありませんから。」
凪が明るく言う。
「行きましょう。
“影”が揺らしたのなら……返しに行かないと。」
柊はドアを開けた。
「黒幕が仕掛けたなら、
俺たちも動く。
――アークシステムズ、作戦開始だ。」
4人の背中が、決意を帯びて歩き出す。
◇◇◇
ぽかぽか邸では――
灯がスマホを伏せたまま、結月を抱き寄せていた。
「灯さん……怖いです……」
「大丈夫よ。
あの子たちは――
“影より強い光”を持ってる。」
結月の胸に温かさが広がる。
(……環さんたちが……守ってくれる……)
(……わたしも、この家の一員なんだ……)
灯は静かに窓の外を見つめた。
その瞳には――
影と向き合う覚悟が、確かに宿っていた。




