第20章 灯と結月の出会い ― “大丈夫よ、あなたはもうひとりじゃない” ―
翌日。
午後3時すぎ。
アークシステムズの3人と桐生蒼真は、結月を連れてぽかぽか邸へ向かっていた。
環は結月のとなりを歩きながら、やさしく声をかける。
「大丈夫ですよ……ゆっくりで……」
結月は両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、小さく首を振る。
「……わたし……
ちゃんと……話せるかわからなくて……
迷惑じゃ……ないでしょうか……」
環はふわりと微笑む。
「迷惑だなんて思わないです。
ははは……そんなこと、絶対に言いません。」
結月は、その“はは”という言葉に一瞬だけ驚いたように目を丸くする。
「……灯さんのこと……そんなふうに呼んでいるんですね……」
環は少し照れたように頷いた。
「はい。
ははは……わたしにとって、家族みたいな人です。」
それを聞いて、結月の表情がほんの少しだけ柔らかくなった。
◇◇◇
[ぽかぽか邸・玄関前]
環がインターホンを押すと——
「はーい。開いてるわよ、環。」
あたたかい声がすぐ返ってきた。
結月が不安そうに環の袖をつまむ。
「……あの……失礼にならないでしょうか……」
「うん、大丈夫です。
ここは……“帰ってきていい場所”ですから。」
その言葉に背中を押され、結月は玄関をくぐる。
扉が開いた瞬間——
ほんのり甘い紅茶の香りと、やさしい暖色の灯りが迎えてくれた。
そして——
「ようこそ、芦野結月さん。」
灯がそこにいた。
穏やかな笑顔。
包み込むような雰囲気。
“初対面なのに、なぜか懐かしい”温度。
結月は一歩だけ進んで、すぐに足を止めた。
「……あの……すみません……
初めまして……」
灯は、ゆっくり、ゆっくり距離を詰める。
「いいのよ。
ゆっくりで。
あなたの歩幅で来てちょうだい。」
その一言だけで、
結月の肩からふっと力が抜けた。
まるで仙骨の奥の緊張がひらいていくように。
環がそっと耳元でささやく。
「……ね? 言ったでしょう?
ははは……こんな人なんです。」
結月は震える声で言った。
「……ご迷惑を……かけました……
わたし……どうしたら……」
灯は結月の手をそっと包み込んだ。
「迷惑なんて思ってないわ。
あなたはただ……ひとりで頑張りすぎただけ。」
結月の目に、涙がたまりはじめる。
「……わたし……
また……前に……進めますか……?」
灯はやさしく微笑む。
「進めるわよ。
だってあなたは——
“助けたい”って思った人でしょう?
そんな人が、前に進めないはずがない。」
その言葉は、
結月の胸の奥の深い影を、そっと照らしはじめた。
遅れて入ってきた柊が静かに言った。
「灯さん。結月さんに“休める場所”をお願いします。」
凪も続ける。
「無理させないで、少しずつで……お願いします。」
蒼真もうなずく。
「芦野さんは……ちゃんと救われるべき人です。」
灯は3人に微笑んだあと、結月に向き直った。
「ゆっくりでいいの。
まずは、お茶を飲みましょう?
あなたの話は……
聞きたいときに聞くわ。」
結月は、こぼれ落ちる涙を手の甲でぬぐいながら、
「……ありがとうございます……
よろしくお願いします……」
そう、小さな声で言った。
灯はその涙を見て——
まるで自分の娘を迎え入れるように微笑む。
「こちらこそ。
ようこそ、ぽかぽか邸へ。
結月さん。」
ぽかぽか邸に、
またひとつ、やさしい物語の始まりが生まれた。




