第17章 揺れる社内、動き出す真実 ― それぞれの「責任」と「これから」 ―
[リンクル社・応接室]
ガラス窓の外では夕陽が沈みかけ、長い影を伸ばしていた。
室内には、
波多野樹、宮野由維、そしてリンクル社の人事責任者・椎野管理部長。
対面には、アークシステムズの
柊、凪、環、蒼真。
全員がそろって座るのは、これが初めてだった。
◇◇◇
■ 空気が張り詰める中で
波多野は、椅子の背にもたれられないほど萎縮し、
宮野は視線を定められず、ずっと手を握りしめている。
椎野管理部長は重い声で言った。
「……お2人には、
本日の調査内容をふまえて、正式に処分を伝えます。」
波多野は薄く笑った。
「……処分、ね……
仕方ないよな……」
その声にはもう“プライドの残骸”だけがあった。
宮野はびくりと肩を震わせ、
声の出せないほど怯えていた。
環は静かに、彼女を見守る。
◇◇◇
■ 波多野への処分
椎野管理部長が書類を机に置く。
「波多野樹さん。
あなたの行為は、横領の企図、データ改ざん、
社員を巻き込んだ重大な規程違反にあたります。
会社は……懲戒解雇の方針をとらせていただきます。」
波多野は、目を閉じてゆっくり息を吐いた。
「……そうだろうな……
“俺がいなくても困らないように”
……してきた結果がこれか……」
凪が小さくつぶやいた。
(……もっと違う形で、自分を証明できたら……
波多野さんは崩れなくてすんだのにな……)
柊は静かに腕を組んだ。
「波多野。
最後に1つだけ言っておく。」
波多野は顔を上げる。
「……なんだよ。」
「“誰かを犠牲にした存在証明”は長く続かない。
でも、“誰かを支えた実績”は残る。」
波多野は一瞬だけ目を揺らし——
その後、疲れたように目を伏せた。
◇◇◇
■ 宮野由維への処分
椎野管理部長は、もう1枚の書類を開く。
「宮野由維さん。
あなたについては、業務命令逸脱と不正技術提供の事実が確認されました。
ですが、波多野の強要、心理的誘導、虚偽説明があったことを考慮します。」
宮野は小さく身を縮めて聞いている。
「よって……あなたには“自宅待機ののち部署異動”が妥当だと判断します。
懲戒には該当しません。」
宮野の手が震え、涙が落ちた。
「……わたし……解雇じゃ……ない……?」
環がそっと言う。
「はい、宮野さん。
あなたは……巻き込まれた側です。」
宮野は涙をぬぐいながら、
震える声で問いかけた。
「……でも……
わたし……どうすれば……」
蒼真が静かに答える。
「“間違った技術の使い方”を二度としないと決めればいいんです。
あなたの技術は、本来……人を助ける力ですから。」
凪が微笑む。
「僕も、過去に……危ない方向へいきかけました。
でも……戻る道は“まだある”んです。」
宮野は両手で顔を覆い、
涙をこぼしながらゆっくり頷いた。
◇◇◇
■ それぞれが向き合う「責任」
柊が立ち上がる。
「では……我々からの調査報告は以上です。
リンクル社としての判断は尊重します。」
椎野管理部長も立ち上がる。
「アークシステムズの皆さま。
今回の件……深く感謝します。
我々だけでは、ここまで真相にたどり着けませんでした。」
環が静かに頭を下げた。
「わたしたちは……
“誰も犠牲にならない仕事”をしたいだけです。」
その言葉に、椎野部長は胸を押さえたように目を伏せた。
「……その姿勢……本当に尊敬します。」
◇◇◇
■ そして、最後の波
波多野が立ち上がり、
ドアへ向かいながら、ぽつりとつぶやいた。
「……俺は……正しかったんだよな……
やり方さえ……間違えなければ……」
柊は言った。
「間違えなかったら……
“誰も傷つかなかった”ということだ。」
波多野の足が止まる。
そのひと言だけが、
彼の背中に静かに落ちた。
◇◇◇
■ 会議室を出たあと
廊下にて。
凪が小声で言う。
「……結局、波多野さんも宮野さんも……
“見てもらいたかった人たち”なんですね。」
環は小さくうなずく。
「ええ……
“見えない場所でがんばっている人”ほど……
孤独になってしまうことがありますから……」
柊は2人の頭を軽く叩いた。
「だから、俺たちがいるんだ。
“見える場所”に連れ戻すのも……
俺たちの仕事だ。」
蒼真が静かに笑った。
「……次は、“芦野結月さんの再起”ですね。」
環は胸に手を当てた。
(……結月さん……
ここから、本当に救ってあげたい……)




