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プロローグ ― 静かな始まり ―
日曜の朝のぽかぽか邸は、いつもより少しゆっくりしていた。
キッチンでは、柊がコーヒーを淹れている。
豆を挽く音に、リビングの空気がふんわりと温まっていく。
「柊先輩、その湯気だけでお腹すきますね〜」
凪がソファでごろりとしながら、カップをのぞき込む。
「コーヒーで腹は満たせないだろう、凪。」
「いや〜、心が満たされるんですよ。環さんの手作りクッキーがあれば、なお最高です。」
「もう、凪くん……そんなに期待しないでください……」
環はエプロンを整えながら、焼きあがったばかりのクッキーをテーブルに並べた。
バターの甘い香りが、ぽかぽか邸のリビングに広がる。
小さな幸せがそこかしこに転がっている、いつもの朝。
「今日も平和ですねぇ〜」
凪がクッキーをかじりながら言うと、
「平和が一番だ。」
柊がコーヒーを一口飲み、静かに微笑んだ。
環もカップを両手で包み込みながら、
「こういう朝、ずっと続けばいいなぁ」
と、ぽかぽかとした息をこぼす。
窓の外には、雲ひとつない青空。
ぽかぽか邸のリビングには、安心とぬくもりだけがあって、
誰もまだ、この後に訪れる“影”の気配を知らなかった。
いつもの朝。
いつもの3人の会話。
その裏で、静かに“JOKER”が動き始めていることも知らずに――。
物語は、また新しい扉を開こうとしていた。




