実況「秘技 婚約破棄返し」
白鳥は優雅な姿の水面下では足を忙しく動かしているそうです
スポーツの実況中継を思い浮かべながらお読みください
先手、ぼんくら王子(17)、
「ブロークンディール公爵令嬢、私、グーフィー・フール・レドモントは今を以ておまえとの婚約を破棄する」
出ました。
定番、ザ・定番でなんの捻りも無い婚約破棄宣言。
彼は第2王子ではありますが正妃の息子。次期国王、王太子となる有力候補。しかしながら血筋に中身が伴わないとの専らの評判。
王妃殿下は何事にも陰に日向に陛下をお支えして活躍されている素晴らしい方ですが、子育ては失敗なさったようです。もっとも、王族の子育ては殆ど乳母や教育係の仕事であるので、彼らが王子という立場に配慮し過ぎた結果なのかもしれません。
しかし、なにを食べて大きくなれば王立学院の卒業パーティーという人の多い華やかな舞台で、唐突に婚約破棄を言い渡そうとか思うんでしょうか。
ブロークンディール公爵令嬢へ対する婚約破棄宣言をする、という前情報はあったものの、こうして実際に眼にするまでとても信じられませんでした。いやあ、ぼんくらも極めると常識を打ち破るということでしょう。
後手、ブロークンディール公爵令嬢、
「婚約、破棄?」
来ました。こてん、と小首を傾げるあざとい仕草です。
可愛らしい仕草ですが、ブロークンディール公爵令嬢がやると相手を馬鹿にしてるようにしか見えません。いや、実際しているのでしょう。
ブロークンディール公爵令嬢アリーシャ(17)は学院史に残るほどの才女、院内でも指折りの美女と言われていますがいかんせん目付きが恐い。
完全な悪役令嬢顔。
傲慢さが顔に出ているのでは、とさえ噂されております。
幼少期を田舎で過ごし、10才になる頃に王都に移住。これは政治的な意味合いから王子の婚約者として選ばれたためのことです。
それから王子妃としての厳しい教育が始まり、傲慢に見えるブロークンディール公爵令嬢はそれに相応しい教養を身につけました。傲慢に見える、というのも公爵令嬢、引いては王族の妃となるのだから決して見くびられてはいけないという教えを守ったためでしょう。加減が少々下手ではありますが。
一方、ぼんくら王子が連れている令嬢、ラック子爵家のアン嬢(16)は幼少期から学院入学の直前までを田舎で過ごし、奔放に育ったとのこと。
元々子爵が身分低い女性に生ませた子供であり、貴族としての教育も受けていなかった。長年放置した子供でしたが魔法の才があることが分かり、それなら、と子爵は急いで手元に引き取ったそうです。
控え目に言っても、子爵は親としてクズですな。
しかし身分低い女性に手を付けて、生まれた子供を放置。残念ながら貴族にはままあることのようです。そういう子供は余程のことがない限りは平民として一生を終えます。アン嬢のように才能に恵まれた子は稀ですから。
「惚けても無駄だ」
おっと、ぼんくら王子の追撃です。
いや、まあ、そうですよね。ぼんくら王子とアリーシャ嬢の婚約は広く知られたことです。その破棄の言い渡しの意味をアリーシャ嬢が理解できないわけはありません。とすれば、先ほどのアリーシャ嬢の態度は惚けていると捉えられても仕方ないかもしれません。
単に相手を馬鹿にすると同時に、次に来る嫌味の前置きだと思われますが、ぼんくら王子にはそこまで見通す力はありません。
「そう言えば、婚約しておりましたわね。私と殿下は」
悪役令嬢奥義、いや、扇で口元を隠して冷ややかな目線を送ります。
「もう何年も、まったく相手していただけないので既に破棄されたものと思っておりました」
にっこりと微笑んだ~。
これは強烈な嫌味です。
聞きようによっては婚約者に相手されずに拗ねている、とも思えるかもしれませんが、これは純粋に混じりっけ無しの嫌味です。分かる人にしか分からないでしょう。言い換えれば分かる人には分かるのでいいのです。しかし、問題は当の本人であるぼんらく王子が分かっていないことでしょう。
アホも過ぎると嫌味も通じない。
アリーシャ嬢もそのことは承知していたでしょうに、余りのことにどうしても一言言いたくなったのでしょう。気持ちは分かります。
「ですので、今更婚約破棄、と言われましても、ねえ。もちろん、異論はございません。実質、とっくにそのような状態でしたので」
「どこまでも可愛げのない奴だ」
ぼんくら王子はなにを期待していたのでしょう?
日頃、婚約者として扱わず、それどころか無下にして来ておいて、婚約破棄を言い渡せばアリーシャ嬢が泣いて縋るとでも思っていたのでしょうか?
ちょっと理解できない思考です。
思ったようにならず、ぐぬぬ、となっております。アホです。
そもそも、婚約破棄自体がアホです。
まだ正式に次期国王、王太子と決まっていない状況で、公爵家と手を切ってどうしようというのでしょうか。
王妃殿下が息子の立場を確固たるものにしようと画策なさって、苦労して公爵家と縁を繋いだ事実をどう考えているのか。
今ここで公爵家を手放すことは政治的にはなんのメリットもありません。いえ、デメリットばかりがあると言ってもいいでしょう。
「異論はございませんが、父にも報告せねばならぬことですので、理由をお聞かせ願えますか?」
それはそうでしょう。
ただ若い2人が婚約を解消した、というのとは話が違います。
この婚約破棄はパワーバランスを大きく崩すことにもなりかねないことですので、アリーシャ嬢は家に話を持ち帰り、当主を交えて公爵家としての対応を考えねばなりません。
しかも2人で話し合っての円満な解消ではなく、一方的な破棄です。この行為はアリーシャ嬢の経歴に傷を付けるばかりではなく、公爵家に泥を塗りたくるようなもの。これまで味方であった公爵家を敵に回す行為です。王妃殿下が苦悩する姿が容易に想像できます。
独自ルートからの情報によりますと、アリーシャ嬢は元々この婚約に乗り気ではなかった模様。
しかし、そこは貴族令嬢。お家のための婚姻だからと受け入れていた。そこへ来ての一方的な婚約破棄ですから怒りも一入でしょう。
「理由だと? そんなことは分かっているだろう」
「いいえ、分かりかねます。少なくとも、私は殿下の婚約者としてなんら問題あったとは考えておりません。もしなにか落ち度があったというのなら、どうかこの場にてお教えくださいませ」
アリーシャ嬢の疑問ももっともなものです。
目付きが恐い。
態度がでかい。
言葉がきつい。
アリーシャ嬢にも欠点はありますが王子妃として問題とまで言える落ち度があったかと言うと、このパーティーに参加している多くの生徒及び教職員は首を傾げるのではないでしょうか。
「ならば教えてやろう。おまえはこのアンに寵愛を奪われたことに嫉妬し、アンに対して数々の嫌がらせをしたのみならず、池に落としたり、階段から突き落とすという蛮行を繰り返した。
王子妃どころか貴族令嬢としてもあるまじき行い。婚約破棄は当然であろう」
確かに、事実とすれば犯罪ではあります。公爵令嬢とは言え、なんらかの罰が下ることでしょう。事実なら。
「なにひとつとして覚えのないことです」
扇で口元を隠しながら、眼だけで嫌悪を伝える。
中々の高等技術。さすがです。端から見ているだけのこちらまで背筋が冷たくなります。 直視しているグーフィー王子は良く耐えられるものです。鈍感故の特権でしょうか。
「言い逃れをするつもりか」
「覚えのないことを覚えがないと申しております。それらのことを私が行ったという証でもあるというのでしょうか?」
「このアンからすべて聞いておる」
被害者当人の証言だけでは証拠として余りに弱い。
池に落とされたというなら、その現場は誰も見ておらずとも水浸しになっている姿は誰かが目撃しているのではないでしょうか。その時刻、現場付近にアリーシャ嬢がいたかどうかが分かるだけでも情況証拠にはなります。
階段から落とされたというなら医療記録があれば、階段から落ちたことの証にはなるでしょう。現場を目撃した者がいればなお良いです。
しかし、アリーシャ嬢は良くも悪くも目立ちます。
他人を害する行動、池に落としたり、階段から突き落としておいて誰にも目撃されないというのはかなり難しい。不可能と言ってもいいかもしれません。
彼女が人目を気にせずに居られるのは自室ぐらいのものです。これは王子も同じはずなのですが、側に誰か控えているのが当たり前な生活を送っている王子にはそれがに日常となってしまっていて、そこ辺りの感覚が麻痺しているのでしょう。
アリーシャ嬢の眉間に皺が寄りました。
余りにも馬鹿馬鹿しい話に苦悩している様子。ぼんくら王子のぼんくらの炸裂でダメージを受けたようです。
こんな頭の痛くなるような発言を長年受け続けて来たのかと思うとアリーシャ嬢に同情したくなります。
他の生徒たちもグーフィー王子の言葉に戸惑いの表情を浮かべております。
「それは具体的にいつ起こったことでしょうか?」
「そんなことは……」
「ご存知かと思いますが、私は学業の他に王子妃となるための教育も受けておりますし、準王族として王宮から護衛も派遣されております。
私の行動は王宮に把握されております。それは学院内においてもです」
これは事実です。
王子の婚約者となればその立場は王族に準ずるもの。
その身の安全を図るのは当然のことです。なにもアリーシャ嬢にだけ行われていることではなく、王族やそれに準じる立場の人には当然護衛が付きます。アリーシャ嬢にも常に2人以上の騎士が付いています。女性と男性、各一人ずつなのは、女性でしか入れない場所もあるからです。
「見てた人だって……」
「その方々は、王宮から派遣された護衛騎士たちよりも信頼できるのでしょうか?」
おっと、ヒロイン、やっと口を開いたかと思えば食い気味で遮られた。
アリーシャ嬢の一睨みでグーフィー王子の影に逃げ込む。アリーシャ嬢も容赦がない。死者を出したこともあると噂の彼女の「睨み」、素人には耐え難いものでしょう。
「おまえ付きの騎士なら、おまえに有利な証言をするに決まってる」
おっと、ぼんくら王子、今度は騎士たちに喧嘩を売った。
無意識です、無意識で喧嘩を売っています。これはやろうと思って出来ることではありません。彼だからこそ為し得る芸当であります。
騎士たちはその職務に誇りを持っています。王子の婚約者となれば、護ると同時にその行動にも眼を光らせるのが彼らの役目。もしアリーシャ嬢が王族に迎えるに相応しくない行いをすれば、それは当然国王陛下、王妃殿下へと報告されます。アリーシャ嬢が身銭を切って雇っている私兵ではないのですからアリーシャ嬢のために口裏を合わせたりしません。それは騎士たちの本来の主である国王を裏切る行為なのですから。
そこを疑われては騎士にとっては屈辱でしょう。
これは今現在アリーシャ嬢に付いている騎士だけの問題ではありません。護衛を務める騎士たち全員に対する侮辱に等しい。
当然、グーフィー王子にも護衛は付いています。正義にもとる行為をすると思われては彼らも不愉快でしょう。自分を護る者たちに喧嘩を売る。そこらのアホではできない芸当です。それこそが、グーフィー王子が極めつけのアホである証とも言えるでしょう。
アリーシャ嬢も苦悩しております。
彼女が発した言葉ではないとは言え、護衛騎士たちに聞くに堪えない戯れ言を聞かせてしまったことを申し訳なく思っているのでしょう。そういう配慮のできる女性ですから。
おっと、よく見るとアリーシャ嬢の護衛騎士のコメカミに青筋が。
歯を食いしばってもいるようですね。怒りが頂点に達してるんでしょう。なにも今の一言だけではありません。グーフィー王子は日頃から彼らの誇りを傷つける言動を繰り返して来ました。そして、このような華やかな場での辱め。どれほど酷い言動をされようとも相手は腐っても王子、怒鳴る訳にも行かない、と言ったところでしょうか。いや、気持ちは分かります。王子という立場さえなければ、毎日どれだけの人間に罵倒されていたことか。そんなグーフィー王子自身は、自分は皆から好かれている、というなにをどうしたらそういう考えに至るのか常人には理解不能な思い込みをしております。
入学以来、学院裏アンケートで「許されるならグーで殴ってやりたい人」ランキングトップを譲らないだけのことはあります。
このアンケート、意外というか当然というか、アリーシャ嬢はランク外。私は3位という不名誉をいただいております。
「護衛騎士となれるのは、国王陛下並びに王妃殿下の信任を得ていなければなりません。お二方の信任厚い者たちが私如きのために偽りを述べる、と仰るのでしょうか?」
アリーシャ嬢、思わず護衛騎士をフォロー。
護衛騎士は国王陛下夫妻の信頼が篤い=虚偽など言わない
よって、
護衛騎士がアリーシャ嬢の潔白を証言するなら、それが真実。となります。
国王陛下たちの名を借り、護衛騎士を上げて、自らの言葉の信頼度も上げる、同時上げの高等技術。
これはポイント高いですね。護衛騎士たちも小さく頷いております。グーフィー王子の護衛騎士も、よくぞ言ってくれた、という顔です。
折角の騎士たちの忠誠も、それを受け取る側に度量がなければ空しいだけのもの。残念ながらグーフィー王子にはそれは望めないようです。今後、護衛騎士たちは役目上やむを得ず護衛には付くでしょうが、グーフィー王子に心を開くことはないでしょう。
グーフィー王子、さすがにアリーシャ嬢に返す言葉がありません。彼女が言っていることが真っ当だと理解する程度の知能はあったようです。
さあ、場も煮詰まって来ました。
この婚約破棄劇も後半突入と言ったところでしょうか。このままグーフィー王子の思う通りに婚約が破棄されて終わるのか、それともアリーシャ嬢が巻き返すのか。できればここで1度休憩を挟みたいところですが今は緊迫した空気、1秒の隙もありません。このまま続けることとします。
ぱちん、とアリーシャ嬢が扇を閉ざした。
この仕草と音、張り詰めた空気を破るだけの圧があります。これは誰がやってもいいというものではありません、アリーシャ嬢だからこそです。
「思えば、殿下の婚約者として国王陛下並びに王妃殿下の眼にとめていただいてよりこれまで、私はその役目と我が家の名に恥じぬようにと努力を重ねて参りました。
しかしながら、グーフィー殿下からは1度として親しみあるお言葉をいただいたこともなく、またドレス一着、花一輪贈っていただいたこともございません」
「贈り物が欲しかったというのか、強欲な女め」
おっと、会場内の女性たちの視線が一気に冷たくなった。男性陣にも動揺が走っております。
そういうことではない、そういうことではないのです、グーフィー王子。
長く人生を共にする相手。たとえ形だけでも尊重されたい、心を配って欲しい。そう願うのはなにも女性ばかりではないでしょう。
人としてごく当たり前の話です。
世の貴族男性たちが婚約者に贈り物をするのはなにも特別なことではありません。マナーとも呼べることです。
特に今日のような大きな催しがあるときはドレスとそれに見合った宝飾品を贈るのは貴族男性の義務とさえ言えます。中には趣味が合わないドレスに困り顔をされる方もあるでしょうが、貴族男性がそれだけ婚約者に心を砕いているとの証でもあります。生涯を共にする伴侶ですので、それぐらいの気遣いはあるべきでしょう。
「学院に入学してからは女子生徒たちとの交流でご多忙となられたようで。
私自身、妃としての教育で忙しい身ではありましたが、殿下がなさるべき公務を代わって片付けてもおりました」
「そ、そのようなこと、頼んでおらん」
「事務官たちに泣き付かれて、止むなく、です。そうなる前に、私は何度も申し上げました。学院生活を楽しまれるのは構いませんが公務は疎かになさいませんように、と。しかしながら、殿下には一度としてお聞き入れ願いませんでした」
王族なら偉い。
王族なら働かずともいい。
そんな風に考えていんでしょうかね、ぼんくら王子は。
衣食住になんら困ることのない生活には、当然それに見合う代価が存在します。王妃殿下も王族について良く分かっておいでなのに、グーフィー王子には教えなかったのでしょうか?
いや、きっと聞いてなかっただけでしょう。
苦言を呈する侍従などを解雇したなどと言う話もあります。自分にとって都合の悪いこと、嫌なことを言う者は遠ざけ、甘い言葉だけを聞き入れる。愚王への道まっしぐらですね。
「殿下は私との婚約を破棄したいとのことでしたね」
「そうだ。おまえとの婚約を破棄し、このアンと婚約する。優しいアンこそ、次期国母に相応しい」
優しいのではなく、グーフィー王子の行動にも言動にもなんら注意をしなかっただけだと思われます。
そもそも礼儀作法にしろ王族の義務にしろ、知識と教養がなければ注意することもできません。当然、アリーシャ嬢はその辺りも確りと学んでいますから、グーフィー王子の将来を思えばこそ諫言して来たわけですが、グーフィー王子には無駄だったようです。
そもそも、グーフィー王子は次の王だと決まっておりません。また、妃の選定は王子の個人的な感情で決められることではありません。王妃というのは、誰にでも務まるものではないのです。
平民の妻なら、愚妻であっても家1つの問題で済みますが王妃となると国の存亡にも係わります。いくつもの条件を満たして、初めて認められるもなのです。
アン嬢を陛下方がお認めになるとは到底思えませんが、グーフィー王子にはなにか説得の材料があるのでしょうか? まあ、ないでしょうね。
「分かりました、殿下がそうまでお望みとあらば、本来でしたら私がこのようなことを申し上げるの不敬に当たるのかもしれませんが、殿下の手を患わせるのも申し訳ありませんので、私から言わせていただきます」
え?
「グーフィー第2王子との婚約をこの場で破棄させていただきます」
おおおおおお
まさか、まさかです。
婚約破棄を言い渡された令嬢が逆に婚約破棄を宣言。
これはどうしたことでしょう。
王族との婚姻を臣の立場から撥ね付けるなど許されることではありません。アリーシャ嬢は当然そのことを承知しているはずなのに、まさかまさかの婚約破棄返し。
これにはグーフィー王子も茫然として言葉がありません。
常に上から目線で相手に物申して来たグーフィー王子。まさか自分に逆らう者がいるとは思ってもいなかったのでしょう。いや、或いはこれはアリーシャ嬢だからかもしれません。
長年、グーフィー王子の愚行に耐えて来た彼女が、まさかここに来て反旗を翻すなど、一体誰が想像できたでしょうか。このままずるずるとグーフィー王子の世話をして生涯を終えるかと思われていた彼女のまさかまさかの反逆。
どんな人にも堪忍袋がある。そして最後の一藁の例えのように、必ず緒が切れる瞬間は訪れる。まさにそれを証明するような出来事でありました。
誰が彼女を責められるでしょうか。
むしろ、これまでよく耐え忍んできたとその健闘を称えるべきではないでしょうか。
しかし、しかしです。
これでアリーシャ嬢と王家の縁が切れてしまうと、それは国にとって大きな大きな損失。国王陛下もさぞ落胆なさることでしょうし、アリーシャ嬢の実家公爵家でも同じでしょう。
グーフィー王子の愚行、敢えて愚行と言わせていただきます、その代償はとてつもなく大きいものとなるでしょう。次世代の国の安寧すら脅かしかねない。そのことを愚かな王子は気づきもしないのはある意味幸せなのかもしれません。
「では殿下、御前失礼致します」
淑女らしい、アン嬢などではとても真似できない優雅な一礼を残してのアリーシャ嬢の退場です。
余りにも衝撃的な出来事であったためか、それともその姿が荘厳とさえ言えるからか、誰もアリーシャ嬢を止めようとはしません。グーフィー王子に至っては事態が飲み込めていない様子です。
堂々たる退場。
……やや時間を置いて盛り上がるグーフィー王子近辺を尻目にアリーシャ嬢がこちらへやって来ます。
「高みの見物、お楽しみいただけましたでしょうか?」
にっこりとした愛想笑い。
しかし、眼が笑っておりません。厳しい非難の色。
「壁の花を気取り、どうせまた頭の中でごちゃごちゃとお考えだったのでしょう。今日のことも、『氷の貴公子』にはこうなると分かっておいでだったのでは?」
予想してました、と言ったらいけない雰囲気です。身の危険を感じます。
「良かったの?」と質問形式で誤魔化しましょう。
「良いもなにも、私とアレとの関係はどうにもなりません。アレに関係を続ける気がないのですから。
国のためとあれば、アレの世話係に徹するも致し方ないと思っておりましたが、こうなってしまってむしろすっきりしております。アレがどれだけ重荷だったか。下ろした今だからこそ実感できておりますよ」
「そう、なら、この結末は君にとっては良かったと言っても?」
「どうでしょうか。こちらからの婚約破棄という形を取ったこともそうですが、王族との婚約の解消となれば問題視されましょう。当面、嫁ぎ先が決まらぬかもしれません。まあ、当てがないことはないのですが」
「そうなんだ」
「これでもファンはおりますのよ。折々に、アレの代わりとばかりにドレスや装飾品を匿名で贈って下さる方がおりますから。
今日のドレスも、あなたの瞳と同じ色のイヤリングも贈られたものです」
……。
「まったく」と、吐息する姿も美しい。
美人は得です。
「アレは我が公爵家の後ろ盾を失いました。私の夫となることで玉座を得られたというのに。
ところで、あなたは公爵家の後ろ盾に興味はありませんか? 第1王子殿下」
「公爵家の美姫になら興味はあるかな」
異母弟の婚約者という立場から解放された今の彼女になら私が近づいても許されることでしょう。
実況はここまで、今後のことについてはご想像にお任せします。
あんたかい!
氷の貴公子、中身は実況中継のやかましいおっさん
将棋の実況風にするつもりだったんですが、何故かスポーツ中継に……




