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金の成る木

作者: P4rn0s
掲載日:2025/11/07

金の成る木を探していた。

そう思っていた頃の自分は、たぶん、夢を見ていたのだと思う。

金の成る木——触れれば硬貨が落ち、揺らせば札が舞う。

そんな都合のいい木が、どこかにある気がしていた。

努力でも才能でもなく、たまたま見つけた人だけが報われるような「運の木」

それを探して、何年も同じ場所をぐるぐる回っていたような気がする。


きっかけはほんの些細なことだった。

ある日、同じバイト先の年上の人が、昼休みに静かにスマホを眺めていた。

その画面には、証券アプリのチャートが映っていた。

「それ、やってるんですか」と軽い気持ちで聞くと、

その人は水筒の蓋を回しながら、「少しだけね」と笑った。

「これ、少しのお金と、少しの知識があれば、自分の木くらいなら育てられるよ」


その言葉が、なぜか心に残った。

金の成る木は、探すものではなく、育てるものなのか。

そう思うと、胸の奥で何かが変わった気がした。


最初は意味もわからず、夜にYouTubeで「初心者でもわかる〜」みたいな動画を見た。

専門用語ばかりで頭が痛くなったし、途中で何度も眠くなった。

それでも、ふとした拍子に「わかった」と思える瞬間があった。

ひとつの仕組みを理解した時、世界の裏側に少し触れたような気分になる。

それは、今まで閉じられていた扉の隙間から光が差し込むような感覚だった。


そうして、ほんの数千円を動かしてみた。

もちろん最初は失敗した。

数字が赤くなり、心も赤くなった。

でも不思議なもので、「負け方」を知ると次の一手の形が見えてくる。

そのうちに、グラフの波が「恐怖」や「欲」ではなく、

ただの「動き」として見えるようになってきた。

人の心の集まりが数字になる。

そのことに気づいた時、ああ、これは木の根っこなんだと思った。


木は勝手に生えない。

水をやり、光を浴びせ、時には剪定しながら形を整える。

お金も同じだった。

一気に増やそうとすれば根が腐る。

少しの金と少しの知識、それを長くかけて積み重ねていく。

そうしてやっと、幹のようなものが見えてくる。


ある晩、昔の自分のノートを開いた。

「楽して稼ぐ」「簡単に儲かる」「人生逆転」

そんな文字が並んでいて、少し笑ってしまった。

あの頃の自分に言ってやりたかった。

金の成る木は、どこにも落ちていない。

でも、種ならいくらでも落ちている。

拾って植えるかどうか、それだけの違いだと。


今、ベランダの隅で本当の木を育てている。

小さな鉢植えに、硬貨みたいな丸い葉をつける多肉植物。

名前は「カネノナルキ」

皮肉のようで、少し笑える。

けれどそれを毎朝見ていると、不思議と心が落ち着く。

水をやるたびに、自分の中の知識や経験が少しずつ育っていくような気がする。


結局のところ「金の成る木」が欲しいと思っていた自分が、いつの間にか「木を育てる人」になっていた。

それはお金の話であり、同時に生き方の話でもあった。


少しのお金と、少しの知識。

それだけで、世界は思っていたよりも優しく広がる。

風に揺れる葉の音を聞きながら、

あの頃探していた木は、最初から自分の中にあったのだと気づいた。

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