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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
9/64

9.3人

 残り少ない時間に手に汗が握る。その汗は、まるで塩のようだった。

「……そうだ。動揺を走らせるなら、何も火を消すほどのことをしなくても良いじゃないか? 火の色が少し変わるだけで…!」

 そう思った瞬間には壺に手を入れ、松明に向かって塩を()き散らしていた。

 そしてそれに反応するように松明の火がオレンジから鮮やかな黄色に変わり、ダンジョンは極彩色(ごくさいしき)の花を咲かせる。

「なんだ!? どうなっている! 」

 冒険者たちはコボルトたちと距離を取り、異変に目を配った。

 世界がいきなり黄色に染まったのだから、冷静さを欠いて貰わなければ困る。

 作戦の成功に小さく握り拳をつくった。

 しかし、残念なことにコボルトたちもびっくりしていた。これでは意味がない。

「どうしたものかな……」

 岩陰に隠れながら状況を静観していると、異常事態で味方を守る意識が強まったのか、剣士が前に出てきた。

 だからか必然的に後衛の二人を奇襲しても、前衛が(かば)えないような状況が生まれた。

 後衛の一人である魔法使いは、いち早く剣士の行動の意図を察して、ほぼ無意識のうちに間を詰めたようだが、仕事を忠実にこなしていた弓使いだけはそれに気づけず、一人取り残される形に。

 この時、冒険者たちの間で異常事態に関する情報伝達の齟齬(そご)が生じていた。

 コチラがこれを利用しない手はないだろう。

 岩陰から体を出すと、短い脚を細かく動かし、小走りで弓使いに接近する。

 弓を射る風切り音と共に、弓使いに触れた。

「…ピァ!? 」

 小さい悲鳴と共に、弓っ子美少女がおにぎりに変わる。その口元だけを食べて口封じをした。

 そしてすぐにその弓使いに変身し、落ちていた弓を拾い上げ弦を引き絞った。

 狙うは前衛でコボルトを苦しめる男の剣士だ。

「いただきます」

 心の中で呟き、剣士の頭を後ろから撃ち抜いた。

 声にならない(うめ)き声を上げて膝をつく剣士に、後衛の魔法使いはすぐに魔法を使用したが、ソレは回復魔法ではないようだった。

蘇生付与(リヴァイブ)。起きたらすぐに戦い始めて」

 魔法使いの言葉の意味は僕には分からなかったが、すぐに魔法使いの女はコチラを向くと怒りの色を顔に(にじ)ませていた。

「戦闘中。何のつもり? 」

 どうやら魔法使いはまだ、弓使いが僕になったことには気づいていないようだった。

 ならわざわざ教える道理もないと思い、仲間のフリをする。

「それなら先に、勝手に陣形崩した馬鹿に言いなさい。ていうか、アンタも無言でアタシから離れてどういうつもり? 」

 弓使いの口調になりつつ、コチラ目線の話をすると、更に魔法使いを苛立たせたようで、話をふったはずが無視されてしまった。

「喧嘩はやめて早くこっち助けてよー! 」

 前衛で短剣を振るう少女から救援を求める声が聞こえてくる。

持続回復付与(リジェネレート)

 その声に応じるように、魔法使いは彼女へ魔法をかけた。すると戦闘で傷ついた少女の体は目に見える速度で塞がっていく。

 そうして再び元気に戦い始める少女を前に絶望の色が滲むコボルト達。

 さらに不幸は続き、先ほど殺したはずの戦士までも、傷が塞がって立ち上がってきた。

「イッてーなァ! どういうつもりだァ! セシリー! 」

 剣士の男がコチラに向かって吼えた。どうやらこの弓使いはセシリーというらしい。死人が口を開いたことにも驚いたが、それがどうにも(アンデット)ではない驚かされた。

 どうやら魔法使いは人間を生き返らせることが出来るらしい。

 かといって、不自然に驚くことも出来ないので、平然を装って先ほど頭を抜いた剣士に言い返した。

「アンタがチームの輪を乱したんでしょ。とっとと戦闘に戻って」

「なァんだとテメェ! 」

 斬りかかって来るかと思いきや、案外そこは冷静なようで、生き返ってからも前衛でコボルト相手に無双状態を展開された。

 弓使い一人いなくなったところで、三人でも十分にコボルトの軍勢を倒すことが出来るらしい。

 もう一度、今度は魔法使いの頭を抜こうと弓を構えた瞬間に、足先から冷気を感じた。

 なにか危険な気がする。

 弓を構えるのを止めて後ろに引くと、次の瞬間、立っていた場所から氷のトゲが体を貫くような形で出現した。

 引かなければ、今頃串刺しになっていただろう。

「私に攻撃しようと…した? 」

 魔法使いは不審な者を見る目でコチラを見た。どうやら攻撃には気づいていなかったようだ。

 おそらく彼女の使った魔法は、狙いを定めてきた相手に自動で反撃をする魔法。

 そんな都合の良いものがあるのか定かではないが、そう見えた。

「なんの話よ」

 手の内がまるで分らない相手に、これ以上の攻撃は危険か…。

 仕方なく魔法使いを狙うことを断念すると、それからすぐに魔法使いは前衛の二人に声を掛けた。

「魔力が三割切った。コンラッド、ティッキー、撤退しよう」

 僕には声をかけてくれないのかと、魔法使いの女に近づいて行くと、氷の氷柱(つらら)が目の前に刺さった。

 当てるつもりはなかったようだが、警告のつもりだろう。

「パーティーを危険に(さら)したあなたはもう味方じゃない。ついてこないで」

 魔法使いの冷たい視線が刺さるようだった。

「ふざけないで。アタシ一人コボルトの巣に置いていく気? 」

 一応僕も人間達の住む町に連れて行って欲しいという申し出をしてみる。叶えば町の人間を全員おにぎりに出来るだろう。

 しかし、魔法使いは淡々と「そう。死んで」と告げると、それ以上の会話は望まないようだった。

 だからもう後は弓使いの魂に引っ張られるように、弓使いっぽく振る舞うことにした。

「大体アイツのせいでアタシが危険な目にあったのに、なんでアタシが責められなきゃいけないワケ!? 」

 ……思った以上に、弓使いの美少女の魂は他責思考が強いらしい。

「……そんなことも分からないなら、あなたをパーティーになんて入れるんじゃなかった」

 魔法使いはもはや、弓使いのセシリーを味方とは思っていないようで、冷淡に突き放した。

「アンタ達も自分が悪いって思わないワケ!? 」

 前衛の二人にそう聞いてみたら、短剣の少女は俯き、頭を抜いた戦士の男は少し悲しそうな顔で、「反省してないようなら、本当に俺達は終わりだぞ。セシリー」と言って上へと上がっていった。

「どうして皆私が悪いみたいに言うの!? 信じられない! 」

 そう上に登っていく冒険者達に吐き捨てるように言った。

 そしてその光景を血走った眼で見つめるおにぎりになったホンモノの弓使い。

 口を食べたから喋ることは出来ないが、目は口ほどにモノを言うというのは本当らしく、おにぎりになった美少女の目は憎悪(ぞうお)に満ちた目でコチラを(にら)んでいた。

「なぁに? 本当の弓使い。アタシが貴女のフリをして、皆の信用を全部壊したのがそんなに許せないってワケ? でも、この喋ってる内容って、全部アンタの言いそうなことをしゃべっているだけだから、全部が全部、アタシのせいってワケじゃないわよね。そこのところ誤解(ごかい)しないでよねー。アハハハハッ……さてと」

 後ろにはコボルトの群れが眼光を光らせてコチラを見ていた。

 敵ではないことを知らせないと、すぐにでも殺されてしまうだろう。

 急いで彼らに敵対的でないことを知らせるために、松明の灯りを消した。そして闇の中で抜け殻になっていた自分の体に入り直す。

 そして地面に横たわっていたせいで土埃(つちぼこり)のついた体を払うと、魔族式の敬礼で挨拶をした。

「私は魔王様より指示を受け、復興大使として食料の配給に参りました。魔王軍特殊先行工作部隊のおにぎり小僧准尉です。復興計画の第一段階として、私が復興の指揮を引き継ぐことになりましたので、どうぞよろしくお願いします」

 コボルト達もそれでようやく事態を理解したのか、力が抜けたように地に倒れ伏していった。

「もう大丈夫、傷の深いものから手当を始めましょう」


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