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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
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7.復興の旅へ

 魔族と人間が共に生活するボルヘミア大陸には、三つの山脈と五つの湖がある。魔王城はその内二つの山脈に挟まれた自然豊かな北北西の大地にあった。

 そして魔王城から長い道を歩いた先に、今回復興に向かうコボルトの村はあるという。

 この一帯では珍しく、多様性に富んだ広大な大草原の中心に位置し、その環境を利用して様々なモノづくりが盛んに行われていると聞く。

 そしてその(さい)たる例として挙げられるのが道路作りだ。

 コボルト達は魔王城のある『魔都ゴウル』から、初代魔王様の命により、なんと東にある人の生存圏まで繋がる全長|1500マイル《約2400キロメートル》の街道(かいどう)を建設して見せた。

 サンセットコボルトロードと言われるその街道は、前述した三つの山脈と五つの湖を通過するように作成され、そこに住む魔族はその恩恵の上で生活し、歴史を(つむ)いできた。

 しかし残念なことに、初代魔王の支配領域を(しめ)すこの道は、第一次勇者侵攻時には人間によって利用され、その大半が人間の生存圏(せいぞんけん)に飲み込まれてしまい現在に至る。

 そして今回僕が復興にむかう原因を作った第二次勇者侵攻もこの道を使って行われた。そう聞くとなんとも因縁深い道である。

 そんな道を僕はひたすらにてくてく歩いていたところなのだった。

「ふぅー…本当にこの道、終わりがあるのかな」

 ココを歩いていると、どうにも時間の概念が薄れるような気がした。

 自分が歩けばそれに従って時間が進み、立ち止まると世界は静止しているように感じられた。

 大陸の北部から東の方向に進んでいくので、当然左手を見れば海が見えるし、右手を見れば山が見える。

 しかしそのどちらも代り映えのしない風景が続き、景色を見て歩いたのは始めの一日だけで満足したのだった。

 コボルトの村がある草原にはまだしばらく歩かなくてはならなさそうで、途中にある水源を頼りにしながら、自分のペースで少しずつ歩いて行くしかない。

 孤独な旅が続いた。

 たまに地平の彼方から人の姿が見えると、彼らが去るまで道路脇の深い草むらの中をかがんで移動することもあった。

 そうして歩いていると、ゆっくりと日は落ちていき、二日目の夜がやってくる。

「ふぅ…もう五月だっていうのに、海側だからかな…?」

 簡易的なテントを背後に、震えながら火に当たっていると、デポットリングから通信が入る。

「やあ、おにぎり小僧。クロックドムッシュだ」

 公式の場ではないからクロックドムッシュの声も柔らかいモノになっていた。

「こんばんは。おじさんは休憩中ですか? 」

 道の上で立ち止まり、山々に沈んでいく夕日を(なが)めながら聞いてみる。

 クロックドムッシュは幼い頃からよく僕と遊んでくれていて、母上とも仲がいい。父上がいなくなってからはよくご飯などにも連れて行ってくれるし、優しいおじさんだ。

 でもたまに母を見る目が怪しいから要注意人物でもある。

「あぁ。魔王様がお食事中だからな。まあそれはそうと、お前さんがコボルトの村に到着する前に少し小話を、と思ってね。周りに人間の姿はないだろうか」

 アタリを見回すと、人影らしきものはないようだった。

「問題ないかと」

 リングからはクロックドムッシュ以外のガヤが聞こえてくる。どうやら魔王城の食堂にいるようだ。

 この時間帯で、あそこ以上に騒がしいところはない。

 おじさんは僕がどうしているか気になって、わざわざ休憩時間に連絡してくれたのだろう。

「そうだな。ではコボルトについて少しおさらいしておこう。道路を作れるぐらい凄い力があるのに、『町』や『都』に発展せず『村』のままなのはなぜだか、士官学校で教えたが、覚えているか」

 おじさんは数ヵ月前まで僕の担任だった。そして僕の世代と共に卒業し、教職から現場に戻り今にいたる。

 だからかこうして卒業した後でも、出会っては話のネタに問題を出されることがよくあった。

「確か彼らがみんな引きこもりがちな性格で、魔王様がいないとろくに団体行動がとれないから……と、おっしゃっていたような」

「まあ及第点だな。貴殿の教師は大変優秀なようだ」

「そこは眠くなるような授業をちゃんと覚えていた教え子を褒めるべきでは? 」

 つい最近のことなので、昨日のことのように思い出せる。

「ぬかせ。―――コボルト達については少し思い出せたか」

「えぇ、親近感が湧きます」

「勇者が攻め込んできた時にも、コボルト達は団体行動が取れずに敗北してしまった。そしてその時に出来た(みぞ)はいまだに深いモノと聞く」

 おじさんはそう言ってため息をついた。

 しかし、それが嘲笑(ちょうしょう)侮蔑(ぶべつ)の混じったものでないことは確かだった。

 おじさんはコボルト達を責めたりはしなかった。兵站(へいたん)のプロとしては、彼らの功績に頭が上がらないのかも知れない。

「復興にも、各村を周っておにぎりを配らないとダメそうですね」

「あぁ。彼らはコボルトという種族の(くく)りではあるが、ダンジョンごとに異なる文化を持つ部族だと思ってくれ。当然アーの村で通用したことが、ベーの村で通用せんということもあり得るから、ソコの所気をつけろよ」

 そう言って通信は切れた。

 ♢♢♢

 長いサンセットコボルトロードを歩き続けて遂にコボルトの村につくと、魔族の言語で部族名の書かれた石が、大草原に無数に置かれてあった。

「こんなに石と石の距離は近いのに……」

 これが全て独立した村なら、確かにまとまれば大きな国が築けそうだ。

 石のあたりを見渡すと、クロックドムッシュが話していた通り、下へと続く穴を見つけることが出来た。

 大体このダンジョン一つにコボルトが百から三百ほど居住していると聞いている。

 それだけいるならば、どの村が魔王像を所有しているか分かるコボルトも見つけることが出来るはずだ。

「ごめんください」

 勇気を出して声をかけたのに、穴の奥からは返事がなにも返ってこなかった。そして見たところベルもない。

「不法侵入……いや、いざとなったら勅命を盾にするか」

 両手に塩をつけてから、ダンジョンに足を踏み入れた。

 ♢♢♢

 しばらく進むと、何やら穴の底から騒がしい音が聞こえてきた。

 そして剣がぶつかりあう音や、コボルトの悲鳴も。

 なにかが下で起きている。

 僕は急いでダンジョンを駆け下りた。


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