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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
2章 パラダイスリゾート編
63/64

63.教会地下

 踏み入った空間は、光源のない大部屋だった。石を削って作られた正方形の空間。四方は緑の苔に覆われている。踏むと、何か植物を踏みつぶすほど、隅々まで(こけ)浸食(しんしょく)していた。

 水の湧く泉なんてここにはなさそうだが、この苔達は一体どこから水分を吸収しているのやら。

 …その答えは以外にもあっさりと見つけることが出来た。

 暗い部屋の中でも僕は部屋全体を見渡すことが出来たので、後は彼女が見てどう感じたのか、代わりに反応を期待することにしよう。

「マーコ何か見つけたか」

 聞いてみるが、彼女の声は聞こえない。振り返り、蝋燭(ろうそく)を顔の近くに持って行く。そこには絶句した彼女の顔があった。

「なにが見える? 」

「人間の…………子供の死体」

 震える声で彼女は言った。そう、部屋の左右には対照的に六人分のベッドが置かれていて、それぞれのベッドの上には六人分、子供の死体があった。どの死体も目や手足が拘束されており、暴れた痕跡(こんせき)がある。

 あの神父が猟奇的な趣味を持っていたとは思えない。視線を外し、周囲を改めて散策する。なにかこうしなければならない理由があったのだと、考えるのは自然なことだろう。

「マーコ」

 そう聞くと返事の代わりに彼女は僕の手を強く握った。

「大丈夫か? 」

 彼女の手は緊張からか、とても汗ばんでいて冷たい。心拍数も上がっているように見える。冗談を言って場を盛り上げようかとも思ったが、それどころではないようだ。

「そばにいるから安心しろ」

「…何、急に」

 取り繕うように彼女は眉間に(しわ)を寄せて僕を威嚇(いかく)した。怖がったり、怒ったり、感情表現が豊かな人だ。でもおかげで、彼女が怖がっているのがよく分かった。

 恐怖は思考の幅を狭めてしまう。恐怖を取り戻した彼女にとって、この環境はパフォーマンスを発揮するのに十分とは言い難い場所になってしまった。

 しょうがない。部下のパフォーマンスを上げるために一肌脱ぐとしよう。僕の場合既に脱いで、人肌なワケだけど。

「アー、アァー…きゃ、きゃぁ、きゃ……」

 自分が喉の調整をしていると…「うるさいのはやめてね」と先回りして彼女は僕に釘を刺してきた。なんで悲鳴を上げるって分かったんだ。

「……共感を示そうと思ってさ。その…こ、こわ~いみたいな」

 そう笑いながら言うと、彼女は口をポカーンと開けて、そしてすぐ後に僕の背中を叩いた。

「別にいらない。それより調べることがあるんじゃない? 」

 完全に冷静さを取り戻したマーコを見て頷くと、改めて死体の状態や周りを観察することにした。

 すると新たに、ベッドの下から床に黒い血管のようなものが這って(はって)いることに気がつく。

「なにこの線……」

 マーコも見つけたようで、その線の先を目で追っていっている。僕も確認したが、どうやら六つのベッドからのびる黒い線は、更に部屋の奥へと続いているようだった。まるでベッドの上から吸い上げた血を奥へと送るように。

「血管みたいだな。この部屋がまるで生物の腹の中…みたいな」

 そう言うと、マーコはコチラに冷やかな視線を送ってきた。

「どうかしたか? 」

「おにぎり小僧の仕業じゃないよね? 」

 どうやら彼女はコレを、僕がなにか仕掛けをしたものなんじゃないかと疑っておられるらしい。

「んなワケねぇだろ」

「人間の技術じゃ説明つかないけど? 」

 確かに人間では考えられない技術が使われているのは間違いなさそうだ。でもだからと言って全てが全て僕の仕業ではない。

「普通に考えるなら神父っつーより、教会のやり方に見えるな」

 黒い血管はベッドに拘束された子供たちのヘソにくっついており、そこから血を吸い取り奥の部屋に血管を経由して血が送られているようだった。教会は吸血鬼でも飼っているのだろうか。

「ウソよ…教会がこんな酷いことするなんて」

 彼女はまだ目の前の現実を受け入れられないのか、口元に手を当て、だらんと落ちた下顎を隠したまま、棒のように直立している。

 信じられないのも無理はないだろう。彼女は今まさに信仰に裏切られているところなのだから。考えを改めるということは苦痛を伴う行為だ。だからしばらく彼女が放心しているのを放っておくしかなかった。

 …それにしてもこの部屋にいる六人の子供…一体どこから連れてきたんだろう。人攫い(ひとさらい)に教会の神父が頼むだろうか? それとも簡単に調達できる場所があるのか? そうやって考えていると、ふと孤児院の存在を思い出した。

 在庫もあって補充も容易となれば、僕ならあの場所に目をつけるし、きっと神父もそう考えたはず。しかしそうなると、あの孤児院の女性と連携しなければならないが…女性側にメリットがあるようには思えない。

 そう考えていると、ふと孤児院がどうやって維持されているか、マーコのしていた話を思い出した。

 確か、町が教会にお金を出して孤児院の運営を任せているのだと彼女は言っていた。つまり孤児院は教会の下部組織ということだ。ならば逆らえなくても不思議はないのか?

 …だとしても、なぜこんな所業をする教会を町が庇う(かばう)のか理解できない。

「一体何のために…」

 そう思いながら周りをくまなく見ていると、部屋の奥に黒塗りされた木の扉を見つけた。

 黒い血管はその先に続いている。

「秘密はこの先ってか」

 僕はマーコが落ち着きを取り戻したのを確認すると、この町の秘密が隠された扉をそっと押して、足を踏み入れたのだった。

 ♢♢♢



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