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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
55/64

55.公開処刑を中止しろ

「え? 公開処刑を中止しろ、ですって? 」

 ベッドから起き上がると、マーコが変なことを言い出した。公開処刑は町の主権が変わったことを、多くの人に知らしめる最も血の流れない方法だ。

 これ以上人間を殺したくないし、無駄な抵抗が原因で仲間が傷つくのも見たくない。

「たった一人の命で大勢の命が助かるんですよ? それの何が問題なんです? 」

「えー、だって、すっごくいい人なんだよ? あの人が死んじゃったら皆悲しむと思うし、それにほら、領主の空きって簡単に埋められないじゃん? だったらあの、アタシに使っていた虫とか使えば、もっと裏から操れるんじゃないかな」

 皮娘の魔物のことを言っているんだろう。確かにそれを利用すれば、統治をする代理人を立てる必要はなくなる。しかし、

「別に操るならあの男が領主である必要もないじゃないですか」

 そう言うと、マーコはなぜかとても悲しそうな顔で顔を伏せた。同胞を一人でも救いたいというその健気さに胸を打たれるようだが、あの男に死ぬ以上の価値が僕にはわからない。

 しばらく僕を説得する材料を探しているのか、彼女は頭をフル回転させるように、机の上で頭を掻き(かき)むしった。禿げちゃいそうだと思いながら、それを眺めているとやがて彼女は何も考えていないような顔で、

「アタシはよくわかんないけど、ノウハウとかもあるんじゃない? ほら、ココの浴場とか。ハンバーグとか。名産だって言うし」

 と言った。

 この町で出来た思い出の代名詞ともいえるハンバーグを彼が? それは本当に?

「ハンバーグ……あぁ、ハンバーグですか。あの男がミスターハンバーグですか。なるほど。いやはや、確かにハンバーグは生かしておいていいかも知れませんね」

 殺さず生かしておいたらハンバーグ以外も発明するかも知れない。ハンバーグさんを殺すのはなんだか勿体なくなってきたな。

「え? ほんとに? 」

 意外だという顔でコチラを見てくるマーコ。

 そんなに僕が命を粗末にする魔族に見えるのだろうか。こんなに生命を体現しているような姿形をしているのに。

「しかし生かすとなったら大変ですよ。アラーニ閣下の宣言を撤回して貰うワケですからね。それはもう、物凄く怖い上官に意見具申するわけですからね」

「私そのためなら何でもするよ」

「なんでもですか…貴女の博愛精神には涙が出ますよ」

 人間についてもっと知りたい、その欲求がマーコといると高まっていくのを感じていた。知れば知るほど、きっと命に感謝できると思うし、食べた時の感想も違ってくるに違いない。

「貴女の気持ちは十分に分かりました。それならプランが一つだけあります」

「一つ? 」

 マーコは、自分では思いつかないのかポカーンと口を半開きにして聞いてくる。

「……署名活動が一番でしょうね。かなり無理な話だと思いますが、領主の命を助けて欲しいと、皆さんにお願いして周るという方法です」

 力を持つ者に力なき者たちが抵抗できる手段の一つだ。これをされると統治する側はかなり苦しくなる。

 手も足も出ずに負けた領主を町の人間が助けたいと思うかどうかという話だが、正当性を理由に抗議するならこの方法が一番だろう。

 弱い人間が統治していること自体が魔族ならそもそもおかしい話なのだが、そこはほら、人間ならではの選考基準があるんだろう…いい人とか。

 いい人を領主にしたら確かにこういう状況で助けて貰えるのかも知れないが、そもそも負けるなという話である。

 ハンバーグさんが負けたせいで、彼らはこんな状況には陥っていないワケなのだから、トマトの一つぐらい処刑中にぶん投げられることは合っても、署名は集まらないんじゃないだろうか。

「署名が集まれば止めてくれるの? 」

 しかし彼女はやる気だった。ただいい人というだけ彼女はこの町の貴族を助けようと動いているんだから、感涙ものだ。

 彼女がもしも魔族であったらと、考えずにはいられなかった。

「まぁ、後はコチラの腕の見せ所ではありますね。別に仲良くもない将官に一兵士が頭下げに行ったところで、という話でもあります。普通聞かないですよ。相手の気持ちになって考えてみたら、僕のやっている行動はとんでもないですからね」

 しかも作戦中僕はほとんどいなかったことになっている。門を開いたところまでは評価されていると思うが、それから先のことは誰も知らない。

 彼らにしてみれば占領したのはあくまで自分達であって、僕ではない。占領中は隠れていた役立たずの話を、果たして聞いてくれるかどうか。

「あ、今僕に媚びを売っておくと人命の助かる可能性が高くなりますよ」

「お、おにぎり小僧さま~、お願いします~~~~! 」

 そう言ってマーコは、下手くそな笑顔で僕の両肩に手を置いた。何をするかと思えば、肩もみだった。

 娼婦の癖に媚びの売り方が肩揉みって…彼女最高か?

「……ふっ」

「グギギギギギギィ……‼ 」

 マーコのやつ血涙を流して媚びてくる。どれだけ媚びるのが嫌なんだ。

 ―――しかし、嫌がるマーコにこれをさせるのは気分がいいな。

 署名が集まるまでの間は楽しめそうだ。

 …それはさておき、問題はアラーニ閣下が聞き入れてくださるかどうかだ。

 話し合いでは聞く耳を持って下さらないだろうから、何か包んで持っていかなければならないが…何を持って行こうかな。山吹色のアレか? それとも別の何か…。

 父の知り合いという時点で話辛いのに、その上お願いごとだ…これが成功したら本当にしばらくマーコにはお願いを聞いて貰おう。

 頭の中で安請け合いしたのではないかという気持ちを抑えながら、僕はクロックドムッシュに通信を掛けた。

 内容はもちろん、上官に持って行ったら喜ばれるもの三選を聞くためである。




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