5.食後変化の術
食後に一礼すると、彼らにもう一つのワザをお見せすることにした。
「魔王様にはまだお伝えしておりませんでしたが、私目は父上の力だけでなく、母上の力も引き継いだのでございます」
「…卿の母といえば、変化の術のことか? …能力審査の儀では報告が上がっていないようだが…なぜだ」
魔王様は虚偽の報告をしたのかと、コチラを睨んだ。その視線に少し気圧されながらも、コチラの言い分を聞いてもらう。
「申し訳ございません。実はこの力は最近発現したものでして、つきましては今からお見せしてもよろしいでしょうか」
恐る恐る聞いてみると、お叱りなく快諾して下さったので、先ほど食べた美少女と同じ姿に化けて見せた。
変身中はグロ注意というワケではなく、おにぎり頭をパカッと割って中から美少女が出てくる仕様となっている。
「はい! ぱんぱかーん! 」
先ほど鎖を繋がれていた美少女の声で、おにぎりの中から飛び出す。
その異様な光景に、城内は静まり返っているけれども、ソレはコチラへの興味関心を持っているのだと思い続けた。
「ごめんなさいっ、魔王様。この姿になっちゃうと、口調とかが引っ張られちゃうの。ご容赦し・て・ね♡ 」
その破廉恥な姿に、国の重役達の中には我慢ならずに剣を抜きかけた魔物もいたようだったが、魔王様の「許す」の一言で、僕は何とか不敬罪を免れたのだった。
そして普段なら絶対しないであろう手をパンと叩いて陳謝した後に、三頭身から伸び分を補うよう軍服のサイズを調整した。
大きな胸部装甲の格納にも問題を起こさず、話が聴ける状態にはなった。流石どんな異形でも着られるよう、開発部が作成した特殊な魔物を利用した軍服だ。
例え三頭身から八頭身の美少女に変わったとしても、些細な問題と言わんばかりにその姿を変えて見せた。
そしてその容姿に関しても出来すぎだった。ピンク色の長髪は絹のように美しく、細い眉の下には温かみのある丸い瞳が鏡を見つめていた。
勇者の情報を売って魔族に寝返った悪人だなんて信じられないほど、彼女の顔立ちは万人から魅力的に映る顔をしていた。
だから名誉ある……コトと思うが、勇者のパーティーメンバーに在籍していられたのだろう。
事前に用意していた鏡を使って変身を確認し終えると、自然と髪をかき上げて背中の後ろに髪を回していた。
僕は頭髪など持ち合わせてはいないから、生前彼女のやっていた仕草が自然と出てしまったんだろう。
おにぎりを食べると同時に、相手の魂にも接触するためこのようなことが起きるのだと勝手に解釈しているが、母方の能力については未だに分からないことの方が多かった。
そして持ち物については捕食時に所持していた持ち物を、低レベルで再現することは出来るが、出来ないモノも多く、その境界もまだ掴めないでいた。
「なんと」
誰が言ったか分からないが、その場の全員が『食後変化の術』に、空いた口が塞がらないようだった。
「どうかなー? いつも魔王軍のマスコット枠の私だけど、美少女にもなれるように頑張っちゃいました! フンス‼ あ、それとおにぎりにして食べた相手なら、どんな相手でも化けることが出来るから、今後にこうご期待☆ 」
そう言って別の姿に変化して見せた。
しなやかな筋肉質の体と鱗を持つリザードマンが爪を見せたり、上半身が人間、下半身が馬のケンタウロスの姿に変身したりした後、再び元の姿に戻った。
「なんと……おにぎり元帥の息子がまさかここまで化けようとはな。よくぞ磨き上げた。見事だ」
「恐縮です」
「今後何かあれば、遠慮なくこのクロックドムッシュに頼るがよい。我が国屈指のテクノクラートであるし、なにより卿もよく知る者であれば、気疲れなかろう? 」
そう言って魔王様は優しく微笑まれた。あまり立場上感情を表に出すことは出来ない御方だが、この瞬間だけ公務外の魔王様が垣間見えたような気がした。
「はい。ご配慮、誠にありがとうございます。勅命、しっかりとお受けいたします」こうして魔王様に見送られ、僕は復興の旅に出た。