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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
44/64

44.子供

 宿を出てデビルサイドの町を歩いていると、やはり目につくのは娼婦や血気盛んな男達の姿だった。

 その逆でやはり子供の姿を町で見かけることはない。魔族とは子育て形態が違うのか、町中を探してもやはりその姿はなかった。

 生まれていないということはないだろうに、その姿を見かけないというのは違和感がある。これが人間の文化なのだろうか?

「子供の姿がねえな」

「子供は一人で外には出ないよ。危ないから」

 マーコの言う危ないには、魔族だけでなく人間も含まれているようだった。どうやら人間の子供を見るには特別な手順が必要らしい。

「子供がみてぇんだけど。どこにいるんだ? 」

「取って食ったりしない? 」

 マーコが冗談めかして言う。

「俺っちが獣に見えるってか。心配いらねえよ。人間食う時はいつもナイフとフォークを使うからさ。手掴みで食うようなことはしねぇ」

 そんなおにぎりジョークをマーコに聞かせてみたが、特にウケることはなかった。おにぎりにする能力持ちがする鉄板ジョークネタなんだけどな。

 人間の感性は少し難しい。

「ホントに見てぇだけだよ。子どもが持つ魔族への嫌悪感がどれほどのもんか、知りてえんだ」

「子供なら染めやすいって考えてるんだ」

「ああ。食う立場になって考えてみろ。食べて下さいって言って来る料理と、食べないで下さいって言う料理、どっちが食べやすい? 」

「貴方なら後者を好んで食べそうだね」

 マーコは冷静にそう答えた。回答は控えさせていただこう。

「好きに言え。まあ、分かると思うが、ほとんどの奴が前者の方が有難いんだよ。狩りが苦手な魔族もいる。そう言ったヤツが人間を食えるようになれば、もっと魔族は豊になれる」

 僕達は街の雑踏に身を任せながら、歩みを進める。周囲の喧騒は続いているが、僕らの間には静かな理解が流れていた。

「その優しさをちょっとは人間にも見せて欲しいなあ」

「優しさ? 苦しまないよう殺すとかって話か」

「あはは…だーめだこりゃ~」

 そう言い合いをしながら、歩いていると教会の隣にある一軒家の柵越し(さくごし)に数人、人間の幼体がボール遊びをしているのが目についた。

 ぷりぷりしていて実に美味しそうではあるが、マーコの視線もある。顔に出さないよう、注意しなければならない。

「アレは子供か? …顔がどれも違うみてえだけど、ママがちげぇからか? 」

 そんな冗談を言って見ると、彼女は真面目に頷いた。こんなに当たって嬉しくないクイズも珍しい。

「教会に隣接している孤児院ね。ほら、町には娼婦が多いでしょ? 彼女達は育てることが出来ないから、皆孤児院の前に置いて行くの」

 身寄りのない人間が多く在籍する箱ということか。魔族のために存在しているかのような場所だな。

「じゃあこの町の子供は皆ここに集まるのか」

「育てる人も多いよ。六割ぐらい」

「四割は捨てるのか…効率わる」

「あははっ…」

 それに彼女は加えて、町が教会にお金を出して孤児院の運営を任せているのだという話をした。

 身近に死の危険がある町だ。出生数は多くなるはず。そこを孤児院で全て拾い上げられているかと言えば、そうではないのだろう。

 そう考えると、この町はもっと人間を増やせるポテンシャルがあるように思えた。

「俺っちがこの町を手に入れたら、子供育てる親に金出すのにな」

 娼婦が子供を捨てるのは、単純に働かなくてはならないからだろう。孤児院に回す金があるなら、そちらに回した方が良い気がするが…。

 それにマーコは「えー、無駄じゃない? 」と、あっけらかんとして、そう言い放った。

「なんでだよ? 」

「親が子供にお金を使わないから」

 そもそもデビルサイドでは、子供と大人という区別ではなく、子供は小さな大人という考えらしい。だからそもそも親が子供を教育するという概念自体まだ浸透していないのだとか。

 文化レベルの低さは仕方のないことだが、これでは後に我々の出した政策が空回りすることも多そうだと思った。

「それじゃあ、施設をよりよくした方が良いのか」

「まあ? そうかも? 」

「娼婦の意見は参考になるな。お前は捨てたことあんのか? 」

 そう言うとビンタされた。どうやらないらしい。

「中入ってみよう」

「見張ってるからね」

「分かってるっつーの」

 孤児院の管理者を探すと、子供達を遠目から椅子に座って眺めるシスターと偶然目が合った。軽い挨拶をすると、好きに拾って行っていいと言われ、慌ててその気はないことを伝えることになった。

 まあ、孤児院に来るなんて引き取る以外の目的はないと思うだろう。実際にそれを聞いて彼女は、分かりやすくため息をついてコチラに興味を失った様子だった。

 孤児院を担当している女性は、動きやすい小奇麗なドレスを着ており、それとは対照的に子供達の服はツギハギで、出来の悪い大人の服を引きづっている子が殆どだった。


 柵を越えて中に入ると、早速無邪気な子供達の歓待があった。

「デッケー! 」

「柔らかーい! 」

 マーコの体に触りながら、少年達は大はしゃぎしている。マーコは照れながら、子供達と触れ合い、たまに髪の毛やらお尻を掴まれると、その場から逃げるように僕の後ろへ避難してきた。

「ハゲ~! 」

「グルグルはげ~! バカ~! 」

 子供達は僕の頭を見て、そうゲラゲラ笑っている。とても元気で、この子達ならこんな町でも逞しく育つだろうことは容易に想像することが出来た。

 栄養状態は問題ないようで、痩せ細った子供がいないところを見ると、やはりデビルサイドは豊かな町なのだということがしみじみと伝わってきた。

「ほーら、ツルツルだぞー」

 褐色ハゲの人気は凄まじく、かがむとすぐに子供達の手垢まみれになるほどだった。

「マーコ。お前の体より、俺っちの頭の方が人気みたいだぜ」

 そう言うとマーコは、無言でゆったりとしていたドレスを、体のラインが出る物に変えた。

「少し汗で張り付いたっちゃかもー…」

 少年達はそうして浮かび上がった凹凸のある彼女のシルエットに釘付けになり、結果的に少女はハゲに集まり、少年達はマーコの胸と尻に集まるようになった。

 そうしてしばらく子供達と遊んでいると、大通りを歩いて町の外へと向かうパオンたちの姿を視界の端に捉えた。

 思った以上にココで時間を潰していたようで、急いで外へ出る支度を済ませる。マーコにも視線を送ると、頷いて彼女も立ち上がった。

「身近い時間だったけどもう行かなきゃ」

 立ち上がったマーコは膝についた土を払い、少しよろめいた。

 ずっと目線を合わせていたため、膝が痺れたらしい。

「大丈夫か」

「あははっ。ちょっと痺れちゃった」

 しばらく足をさすりながら、子供達に別れの挨拶をしていると、パオンたちは既に見えなくなっていた。

 早く見送りに行かなければ、作戦を始めることが出来ない。どうしようか迷っていると、マーコが背中を押した。

「出なきゃいけないんじゃないの? アタシはいいから、行ったら? 」

「おう分かった。じゃあ、マーコは出たら宿屋で待機だ。騒がしくなっても外には出んじゃねえぞ」

「もう始める気? 」

「あぁ。軍隊も待たせてるかんな。あとニ~三十分もしたら開始だ。殺されないように、元の軍服に戻しとくの忘れんな」

 そう言い残して、僕はパオンたちのパーティーを追った。


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