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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
43/64

43.マーコとお喋り2

「魔族では人間の心を開くことは出来ないよ。魔族ではね」

 そこまで言われて僕はようやく彼女のいわんとすることが理解出来た。

 魔族がこの町を占領するのではなくて、この町はあくまで人間の町という体裁が必要なのだと理解した。

 つまり人間は人間に支配されたいのだ。それなら話は簡単だ。僕が人間代表として交渉の席に座れば良い。でも、占領しなければコチラに有利な条件を人間達に飲ませることは難しいだろう。

 具体的には月一で生贄を用意して頂きたい。それにコボルトの森への不可侵条約も併せてだ。

「僕が貴族を食べてしまえば、万事解決というワケですか」

「ちっがーう。本当に言ってる? 魔族ジョークじゃないよね。だったとしてもブラックジョークが過ぎない? 」

 なんで理解出来ないんだーっというマーコの心の叫びが可視化して見えるようだった。

「私達が欲しいのは安心感なの。私達は殺されない、これからも平穏な生活を維持できる、って皆が分からないと絶対に戦いを止めたりしないよ? 貴族を食べるなんて不安感をばら撒くだけじゃん! 」

「それはもちろん、バレないように」

 あの厳重な警備の中、魔物の姿で敵の本陣に侵入する僕を想像して、思わず笑みが(こぼ)れた。人間状態ではおにぎり変化は使えないし、おにぎりボディで入れば有無を言わずにぶっ殺されてしまう。

 というか、僕のボディは闇夜でも悪目立ちが過ぎる。

 真夜中に頭が大きなおにぎりの奴が歩いていたら、誰だって即座に逃げ出すだろう。

 そんな潜入に慣れていないボディで潜入なんていくらなんでも無謀(むぼう)が過ぎる。死にに行くようなものだ。

喧伝(けんでん)して周るよ? おにぎり小僧が貴族を食べたぞー! って」

 それに道具もなんだか、変なことを言っている。実際そんなことを町中で言いふらす彼女の後姿を見てみたい気もするけれど、それを見るには対価が重すぎる。命の危険がなければ、遠目で見て笑っていたいところなのに。

「僕がそれを知って笑顔で見送ると? 」

「でも、現状を正しく把握できていない貴族がその席に座ったって、すぐにバレるよ。……食べた相手の姿や喋り方までは真似られても記憶までは読めないんでしょ。アナタ」

「どうでしょうね」

 なぜ分かった? どこかにそんな手掛かりがあっただろうか。

「答えてるようなもんじゃん。そんな魔族が、完璧に貴族の真似が出来るとは思わないけどな。きっと、悪いタイミングでアナタが貴族じゃないことが分かって、彼方は結局人間を殺すしかなくなる。そうなれば、彼方の理想は遠のくだろうね」

 真剣な表情で彼女はそう言ってきた。

 確かにそうかも知れない。僕はよく、あと少しというところで何気ないミスをする。血糖値がどうであれ、詰めが甘いというのは自覚しているつもりだ。短い間に僕のことをこれだけ観察して、情報を仕入れたというのだからこの町娘は恐ろしい。本職は娼婦じゃなくて探偵なのではないかと疑ってしまうほどだ。

「それで? そこまで言うなら、代替案がアナタにあるんですか? 」

「例えば、町への不可侵条約とか」

 ここにきてコチラにメリットゼロの代替案とは大胆過ぎる。どうして僕が飲むと思えるのか、もう一度食って再確認した方が早いかもしれない。

「占領したのに入れないんですか? 」

「それはでも最低ラインになると思う」

 頭を抱えたくなるような話だ。占領したのに何でみすみすそちらに返さなければならないんだ。

 ……いや待てよ、僕や人間に変身できる他の魔族なら出入りできるか。バレたらどうなるか分からないけど。

「それで? 」

生贄(いけにえ)って言うのも、恐怖心を煽る(あおる)から別のものにしないと」

「いや、僕達は人間を殺して食べたいんですよ。畑から人間は取れないじゃないですか。抽選で選ぶとかじゃあダメなんですか」

 あみだくじならいくらでも書こう。途中から名前が短いヤツから消えていきそうだけど。

「だめだめ。せめて重い罪を犯した人とか、選ばれるのにほんの少しでも納得のできる相手じゃなきゃ。コボルトの森への不可侵条約は大丈夫だと思うけど」

 それではコチラが納得できない。上手い具合に折り合いどころを見つけなければならないが、妥協しようにもコチラだってもう人間の口なのだ。というかそもそも、我々が妥協しようと考えていることが間違いなのだ。妥協して欲しいなら、せめてそれ相応の条件を出してもらいたい。

「それだと人間の供給量が極端に減るでしょう。それはダメです。納得できない。人間牧場は人間を狩るために存在するですから。収穫減は絶対ダメです」

「……おにぎり小僧の理論で私、今から話すよ? 」

 先ほどまで児女のようだったマーコが、今はちゃんと年上のように見える。どんなトリックだ。いや、とりあえず話を聞こう。

「僕の理論というと? 」

「おにぎり小僧君はこの町を『人間牧場』にしたいって言ったよね。だったら、牧場主になる魔族は、そこで育てている人間が『増える』ようにしなきゃいけないんだよね? 」

「ええ。その通りですね」

 増えるようにするというより、勝手に増えると考えているだけだが。

「仮の話だけどね。確かに今の人の数じゃあ犯罪者の数も少ないと思うよ。でも、人口が増えて行ったとしたら、きっとそう言う人も増えるんじゃないかな」

 彼女は一体何年後の話をしているんだ、悠長(ゆうちょう)か。

「そうなるまで待てと? 」

「今、絶対に人間が必要じゃないなら、今後の資産として人間を見てくれるなら、きっとその選択は最良の策になると私は思う」

 ただ取って食べるだけの餌として見るのではなく、管理して増やす対象として見て欲しい…か。ふむ……確かにそれだとお互いに良い展開になるかも知れない。ただ問題なのはそのまさに『今』人間が食べたい奴らがいるということだ。

 コボルトが君たちのせいで餓死寸前だから『今』食べたいと言っているんだ。時間があるなら僕だって農耕を進めるとか、今ある物資で別の土地に移るだとかを検討しただろう。だが、コチラにだってそんな余裕はないんだ。

 それに人が増えれば、別の問題もある。

「人は増えれば、それだけ反乱の芽を増やすことにもなりませんか? あなた達を野放しにしていたら、勝手に武装して我々の手を煩わせるでしょう? 」

「……そういう人は、人間側で処理するって言うのは? 」

 マーコが言うには、内部で反乱がおきても貴族の一声で他の町からも騎士が招集され、鎮圧できてしまうという。ペンは剣よりも強しというワケだ。だが、それはあくまで人間同士の交渉の席での話だろう。

 僕らは魔族だ。人間達のことは好きだが、一切信用はしていない。特に牢屋であんな話を聞いた後では、彼女がいくら言葉を取り繕ったところでそれは無理である。

「それこそ信じられませんよ。仲よしこよしでやっているじゃないんです。最低でも数十人、コチラで用意した兵隊が監視しないと」

「絶対無理、ムリムリムリ。監視なんてされたら子供なんて増えないよ」

「ふむ―――それなら日替わりでスパイを紛れ込ませるとかはどうでしょう 」

「おにぎり小僧ぐらい変身が上手いなら」

「いえ、僕レベルは期待しないでいただきたい。僕より変身の上手い魔族は多分この世界に一体だけです。その彼女も今はずっと東の方にいますし、変身を安定させるだけで殆どの魔族は精一杯ですよ」

 しまった…少し話過ぎた。

「そっか……じゃあ、教えるって言うのは難しいの? 」

「変身能力を訓練するということですか? なぜかそんなに重要視されていないのでね。それに今は僕の発言力もないですし、魔族側の成長を期待しているのかも知れませんが、そう人間のように柔軟に適応出来ないんですよ。我々は」

「そうじゃなくて……危なくないって、魔族が人間に教えることは出来ないの? 」

 彼女はなにを言っているんだろう。

 捕食者が被捕食者に教えることなんて、どんな風に調理して食べるかぐらいじゃないか?

 それに、

「人間にとって魔族は人食いの化物で危ないのでは? 」

 という至極真っ当な疑問もわいてくる。

「話の分かる相手だって、少しでも分かり合えれば、もっと別の選択肢も見えてくると思わない? 」

 僕も初めはそう思っていた。だがこの町にきて、実際に話を聞いて分からされたのだ。この町の人間は信用させたフリをして後ろから刺してくるような人間達だ。他の別に住む人間なら、また違うのかも知れないが、この町の人間を僕は信用することが出来そうにない。

「上層部に提案してみますか? 魔族が人間を教える融和(ゆうわ)学園。血の雨が降る地獄になりそうですけど」

「そこまでじゃなくて、例えば小さな商人を行き交いさせる場を作るとか」

「人間と魔族の交易ですか」

「そこでお互いの文化交流をする場所を作るの。そうやって、敵同士ではあるけれどお互いに知ることが出来る場所があれば少しは恐怖心も薄れないかな。それでもし共通のお金を稼ぐって目的があれば、仲間意識も芽生えるんじゃ…」

「我々の意識を変える話ですか? 無駄だと思いますよ? 」

 君たちの中には友好的な態度を取っておいて、後ろから刺そうと考える輩だっているのだから。コチラとしては恐ろしくてとてもそれどころではない。

「分からないじゃん。人間美味しい! から、人間と一緒にいるの楽しい! になるかも知れないじゃん」

「羊や豚と仲良くしようってならないでしょ? 大切にしてもそれはあくまで食料として大切にするだけです」

 人間とも友達にはなれるかも知れない。だが、お前たちデビルサイドの人間はダメだ。恨むならば、君の仲間を恨むといい。

「馬や犬となら仲良くなろうって、人間は思うけれど。魔族は違う? 」

「…ふむ」

 羊や豚ではなく、馬や犬か。つまり家畜からペットにランクアップしろと言っているワケだな。

 そうやって段階を踏んで自分達の権利を主張していこうと考えているわけだ。

 だが、馬や犬は人間と違って、仲良しのフリをして背後から刺してくるようなことはしない。お前たちは僕達の信じる人間とはかけ離れた存在だ。

「少し、認識を変えるだけなら出来ると思うの。あなた達が人間を食べるのは、食べる以上の魅力を人から感じないからでしょ? 」

 ふーん……まあ、そう言われるとそうかも知れない。だが、人間は食べる以外だとあらゆる面で我々よりも劣っているように見える。見ていて哀れに思えるほどだ。彼らの素晴らしいと思えるところは、今のところハンバーグだけだった。

「文明レベルの違うあなた達に、食料以上の魅力を我々が感じるとは思いませんが」

「私はそう思わない」

 彼女と僕の意見は噛み合わないまま、少しの沈黙が場に流れた。それでふと、特に意味もないことを彼女に聞いてしまった。

「なぜそこまでして人間を信じられるんです? 魔族の僕に、デビルサイドの人間が信用できると証明できますか? 」

 彼女は少し言葉に詰まった、そして少し顔を伏せた。人間を信用しろと魔族に言うならば、その根拠が何なのか僕は知りたかった。

「最も人間の醜い部分を、少なからず貴女は見てきたはずです。そんなあなたがそこまでこの町の人間を信用できるか、僕は疑問なんですよ」

「えーっと。まず決めつけないでくんない? 」

 彼女は顔を上げて静かに怒りながらキッパリと言った。

「あー、失礼。違いましたか」

「……違わないけど。全部が全部、悪い人ばかりじゃないよ」

「そんな人間の肩を持つことないじゃないですか。貴女の頭なら、もっと効率よく人間を増やす方法だって考えられるはずだ」

 彼女は目をそらして、ハァーと深いため息をついた。

 どうやら本当にその通りらしい。

「人の権利を守らないならいくらでもやりようはあると思うよ。でもね。私は人間として生まれて育ったから」

「生まれはそうでも、これからは変えて行けます。貴女の能力は文化レベルの高い魔族の中でこそ生かせると思います。僕達の世界で生きるということは考えられませんか? 」

「残念だけど、私は私。あなたはあなた。魔族に与することは多分無いし、私はこれからも人のために生きたいから」

 その結果が男から梅毒を移されて夜に宿を探していたというのでは、あまりにも残酷な結末過ぎるような気がした。

「誰にも評価されなくても、マーコは人間の中で生きていたいということですか? 」

 少しキツイ言葉のトゲを彼女に向ける。

 すると彼女は、目じりを細めて笑みを浮かべた。こんなこと、出会ったばかりの彼女に言うのは変だが、その笑顔は彼女ではないみたいだった。

「なぜ笑うんです? 」

「ちょっと可愛いなって思っただけ」

「は? 」

「アタシのこと、あなたなりに真剣に考えてくれてるみたいだからさぁ…ちょっと罪悪感湧いてきそうだよ」

 そう言いながら彼女は僕のおでこを突っついた。

「なぜそこまで……」

「究極、私は人間が好きなんだよ」

 彼女らしからぬ彼女のその一言が、彼女の全てのような気がした。

 そんな彼女を理解できないのが、なぜか少し悲しかった。

「好きか嫌いか……なるほど単純明快だ」

 そろそろ氷の魔法使いが酒場から出てくる時間だ。話の決着をつけないとな。

「少し外に出ませんか」

「良いの? そろそろ約束の時間なんじゃ…」

 どうやら彼女も時間が迫っていることに気づいたらしい。

 氷の魔法使いが森へ調査に行くため町を離れる時間、つまり魔族がこの町を占領するのに絶好のタイミングがもう少しすれば訪れる。

 だからこそ、このタイミングで少し町を見て回りたかった。

「ついて来てくれますか」

「そんなこといってー…アタシに選択権はないんでしょ? 」

「好きにして構いませんよ」

 彼女はしばらく考えたかったのか、部屋の窓に手を置いた。彼女は町を眺めている。僕の眼からも町の景色は見えるが、きっと見えている物は違うだろう。

「……部屋の中にいるのも時間の無駄だし。仕方ないね。ついて行ってあげようかな」

 彼女は何かを決心したように、窓を閉めた。

「それでは参りましょうか」

 イソマルトに変身し、顔を隠すように頭にローブを深くかぶった。



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