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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
42/64

42.マーコとお喋り1

「さて、では教会の奥にあった部屋について教えてください」

 おにぎりボディの状態で彼女に聞く。

 宿屋の一室でしかこの姿でいられないなんてとても不便だが、今は仕方がない。じきに自由に出歩けるようになると信じて今は仕事に集中しよう…。

「えっと、壁があって…台があって、色んなお花があったよ」

「…幼子を相手にしているつもりはありませんよ」

「ちょっと紙ないー? 」

 きょろきょろと見渡しながら紙を探すマーコに、支給品の紙を渡す。すると彼女はそれに羽ペンでガリガリと何かを描き始めた。

 初めは箱のような物を書いていてよく分からなかったが、次第に陰影が付き始めて行くにつれて部屋の絵に変わって行った。

「教会奥はこうなってたんだ」

 バンッ! と出された絵は非常に精密で、世界から一部を切り取ったような迫力を感じさせる。

「貴女……もしや見たモノをそのまま絵に落とし込めるんですか? 」

「え? …うん。だから? 」

 彼女がなんで娼婦をしていたのか分からなくなったが、話がそれてしまいそうだったので僕はこの嚥下(えんげ)し難い疑問を飲み込まざるをえなかった。

 絵には、洞穴のような半円のゴツゴツとした岩の壁が描かれていた。その中央には、ポツンと石棺のようなものが置かれている。

 足元に何カ所か置かれた蝋燭(ろうそく)が、不気味に中央で眠る誰かの墓を祀って(まつって)いるように見える。

 更に絵をよく見てみると、少し土が盛りあがっているようにも見えた。

 

「いえ。そうですか……なるほど。部屋はこうなっているんですね」

 墓以外は特に何もないみたいだった。特殊な器具で冒険者を復活させているのかと思ったが、まさか本当にその身一つで奇跡を起こしているのか?

「それで中央にあるお墓の下見て欲しいだけどさ。何か隙間があるでしょ」

 あるでしょ、と言われて初めて気づいた。本当だ、確かになんだかちょっぴり黒く塗ってある部分がある。これが隙間か、言われてやっとわかったぞ。

「台を移動させた時にできたモノでは? 」

「私も初めはそう思ったんだけど、でもやっぱり変だよ。ここだけ少し他の土と色が違ってたし」

 ココとはどこだ。指で示してくれ。そうとは言えずに探さなければならなかった。それでちゃんと見たら、確かにあった。

 石棺(せっかん)の周りのモッコリしている部分は細かい粒々で、グレーに変えているようだった。点の量で色の明暗を現しているのか。彼女の技術に驚いた。ペンと紙で質感を表現するなんて、凄いことだ。

「こう、ちょっとグレーに見える部分ですね」

 白黒の絵でグレーが出てくることに衝撃を受けたが、おかげでこの絵の見方がよりわかったような気がする。

 確かに彼女が書いたものをそのまま見るなら、石棺周りのモッコリ部分は確かに色が違う。色が変わるには原因は色々あると思うが、彼女は何が原因だと思っているのだろうか。

「もしかしたらこの下にまだ別の部屋があるんじゃないかなぁって」

 マーコはそんな突拍子(とっぴょうし)もないことを言い出した。それはいくら何でも面白過ぎるような気がするけれど、とりあえず聞いてみよう。

「秘密の地下室というわけですか。ですが、そんな部屋あったところでなんの用途があるんです? 」

「うーん、なんでだろう。町の外に繋がっていたりとか、地下でしか出来ないことをしたりしてるんじゃないかな」

 推理の基本は決めつけからとは言うけれど、これじゃあもはやお互いに創作の話をしているのと変わりないような気がした。

 ♢♢♢

 教会についても少し知ることが出来たし、しばらく冒険者の蘇生は出来そうもないことが分かった。となると魔王軍の障害になるものはあの氷の魔法使いだけか。

 それもあと、数時間後にはこの町から消える。だったらやらなければならないことがあった。

「…リハーサルをしましょう」

 仕事のリハーサルだ。占領までは学校でやったが、その後の交渉をもしかしたら僕がするかも知れない。そうなった時に上手く相手と会話できないのでは、せっかく作戦を成功させようとしている同胞たちに合わせる顔がない。

「なんのリハーサル? 」

「この町を占領して、その事後処理のリハです。恐らく何らかの形でこの町が魔族の手に落ちたと公表する必要があります。それはとりあえず、見せしめにこの町の貴族の首をはねればいいでしょう。問題はその後です。町の人間の立場で僕の質問に答えて下さい」

「なんだか面白そう! 」

「まずはパターンその1、魔族が町の兵士を全滅させて町を包囲したとします。そうなった場合、町の人間はどうします? 」

「兵舎のある場所まで逃げる! 」

「なぜ? 」

「町と兵舎を隔てる門があるし、兵舎って町の中でも一本道でしか行けないから」

「なるほど。それから? 」

「絶対に殺されるから頑張って戦うだろうね。皆家の中に武器を持っているからそれを持ち出して、皆でこの町を守ろうって一致団結! 」

 やはりそうなのか。

「…降伏のパターンはありますか? 」

「んーない! 」

 彼らは揃って無謀すぎる。百パーセント負ける戦いに挑むなんて、まるで自殺行為だ。理解に苦しむ。

「町の人間はなるべく殺したくないと思ってます。僕達にとって人間は放逐されている家畜のようなものですから。数が減ると困るんですよ。どうしたら無用な血が流れずに済むと思いますか? 」

「んー…ムリ! だって、魔族が占領したって事実は変らないんでしょ? だったら絶対ムーリー」

「でも、そうしないと全員…」

「どうなっても絶対にムーリー。あるとすれば……」

 そう言いかけてマーコは口を閉じた。

「あるとすれば? 」

「……ううん、やっぱり無いかナ」

 真剣な目で彼女は訴えてくる。この目は嘘をついている目だ。何か思いついたらしい。

「嘘がお上手ですね」

「ぐぬぬぅ………! 」

「どうでしょう、情報提供して下さるなら僕からも何か貴女に褒美を出すというのは」

「私にこの町を売れって言ってる? 」

 別にそれほど愛着があるようには見えないが、仕方がない。別の方法で説得してみるか。

「いえ、むしろこのままだとこのデビルサイドは滅びるんですよ。僕は人間が最後まであがくなんてそんな愚かな選択肢を取るワケがないと考えていました。十分な戦力が町に無く占領されたとしても、多少不利な条約を呑まされても、まずは生きようって考えになるのが普通でしょ? 」

 降伏を前提にした人間牧場のプランがある。だが、全員が死んでしまっては意味がない。どうにか考えを改めて貰えないものか。

「魔族がそれだけ私達は怖い! それに尽きる! 」

 ふんすと鼻息を荒げて、彼女は情けなくそんなことを言ってのけた。

「自身満々に言うことですか? ―――ですが、なるほどそうですか。それなら褒美の価値も高くなるというもの。どうです? もし貴女の提案した作戦が僕の案よりも良ければ、貴女を開放するというのは」

「…本当に? 」

「正当な労働には正当な報酬を。魔族の基本理念ですよ」

 そう嘘をつくと、彼女はその重い口をゆっくりと開いた。


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