38.教会の蘇生について
というワケで、マーコを助手に加えたのはよかったものの、実際に何をするかと言われたら実のところクロックドムッシュからの返答待ちだったりした。
もちろん上からの命令もなく独断行動は許されない。
しばらくマーコと適当に昼食について話をしながら待機していると、連絡が来たのは昼を過ぎてからのことだった。
「おにぎり小僧、君の作戦案が正式に我が軍の作戦になることが決まった。今回はその連絡だ」
「それはよかった。我々の上層部にはこの町を灰にしようと考える方々もいたでしょうに。ありがとうございます、おじさん」
「無用な戦力の低下は、我々とて望ましくないからな。この作戦が実行されれば、人間の町を支配下に置くだけでなく、コボルト村の食糧事情も解決できる。コレは広く視野を持っていなければ出来ないことだぞ」
指輪越しからご機嫌な声が聞こえてくる。
とても褒められているということはつまり、きっとコレは罠だろう。
「ありがとうございます」
「そんな優秀な君に一つ仕事を頼みたい」
やはりそう来たか。相手を褒めて要求を通しやすくさせる、これはおじさんの常套手段だ。
小さな頃はよくこの罠に引っ掛かっていたが、もう引っ掛からないぞ。
僕はノーと言える魔族になったんだ。
「生憎ですが、僕にもまだ仕事が残っているので」
「ほほう? しかしおにぎり小僧、皮娘から聞いたぞ? 《《道具》》を調達したらしいじゃないか」
おや? 皮娘のやつ、僕をおじさんに売ったみたいだな。一体どんな餌で釣られたのやら。
「それがなにか? 」
「私が命令したことにしてやらなくもないぞ」
クロックドムッシュがマーコを認めてくれるというのは、かなり大きいな…。魔族への対応もマーコに任せられるようになる。しばらく考えた末に、おじさんの考えに乗ることにした。
「……なるほど。いいでしょう。なんでも申し上げてみてくださいよ。おじさん。まさかとは思いますけど、そんな重い仕事を僕に振るワケはないですよね」
「あぁ。作戦を実行するにあたって少し目障りな貴族を排除してきて欲しい」
貴族…兵舎の中で檄を飛ばしていたあの領主か。一度暴れたせいでかなり警備は厳しくなっているだろうし、また潜入するのは難しそうだけれど。一体何が目的なのだろう。
「…承知しました。ちなみに理由を聞いても? 」
「群れの頭を潰すのがそんなに不思議か? 」
クロックドムッシュの言うことは確かに一理ある。確かに上を失った組織はガタガタになり、崩壊させやすいだろう。問題と言えば僕が死ぬかも知れないということだ。行きたくはないが、行かないならばそれなりの理由も用意しなければならなさそうでもある。まったく、面倒な仕事を押し付けられてしまった。
「承知しました。それとおじさんに一つ調べて欲しいことがあって」
「私でなければ出来ない調べものか? 」
どれだけの時間寝ていないのか分からないが、おじさんの声は重たいものだった。
出来れば時間を取らせたくはないが、僕だって聞かなければ仕事に不安が残るんだ。
「分かりません。それも含めて判断を仰げれば…と」
「何について調べて欲しいんだ? 」
「冒険者がこの町からいなくなった理由に、教会での蘇生が出来なくなったという情報を入手したのは良いのですが、肝心のなぜ蘇生が出来なくなったのか分かっていないんですよ」
ずっと作戦立案の時から考えていたことだ。
この町を占領しようと考えていた矢先に、偶然タイミングよく冒険者が町から離れたなんていくら何でもおかしい。
そもそも武器や装備なんかも準備していて、人さえいればコボルトの村で魔王軍と決戦をしようとしていたところだったんだ。
そんな聖戦一歩手前で神の加護が消えるなんてこと、本当にあり得るのか?
実はコレすらも罠で、後々重大な失敗に繋がるのではないか、という不安すらある。
作戦立案も実行するのも訓練以外では初めての経験だ。
だから何が起きるか分からない以上用心するに越したことはないだろう。
そう思って、おじさんに情報を求めたのだが―――
「……それについてか。それなら調べるまでもない。魔王像の力だ」
「魔王像の? 」
返ってきた言葉に肩透かしを食らう。
魔王像は単に領域を広げるためだけのものではないということか。
「そう言えば伝え忘れていたな。魔王像によって広げられた支配領域内では、人間達の信仰する神とやらの力を弾くことができる。つまり、デポットリングで魔族の領地を順当に繋いでいけば、おのずと魔族復興の道が近づくというわけだな」
「なぜそんな大事なことを今になって…」
「大事だから今伝えたぞ」
面白い冗談だ。
そんなおじさんはともかく、なるほど。僕はようやく任された仕事の重要性に気が付いたような気がした。
この任務は、まさに歴史の一ページを飾る出来事に違いない。
そう思うと途端に今までの自分を振り返って後悔の波が押し寄せてきていた。
後年の歴史家に無知を理由に女風呂に入ったことがバレたら、もう生きて行けそうにない。…行動は慎重にしなければ。
魔族もそうだが、人間の歴史にも出来れば恥ずかしい魔族として名が残るようなことだけは避けたいところだ。
「それと作戦の決行日だが、コチラはある程度の準備が既に整っている状態だ。もし、進軍を開始していい場合は私に連絡をしてくれ。私から魔王様へ伝達し、そこから軍が町の中に転移する。やり残したことが無いかだけ確認を忘れるな」
そう言っておじさんの通信は切れた。
やり残したこと…。そう考えた時、一番に思い浮かんだのは氷の魔法使いパオンの存在だった。
「彼女だけが…不安要素か」




