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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
35/64

35.コックリの皮娘

 翌朝、お腹の痛みで目が覚めた。

 久しぶりに自分の体で眠ったから、具合が悪くなったなんて言いたくはないけれど。安心したから疲れが噴き出た、というのは考えられなくはない話だ。

「ウゥ……」

 お腹の中で病魔が暴れ回っているのではないかと思われるほどの激痛に、顔が歪みベッドの上でのたうち回る。

 あぁ、僕はもう死ぬのかも知れないと思いながら昨日何を食べたか必死に思い出した。そしてあの女の顔を思い出す。

「あ…あの女性か。グッ……このままではいけない。早く何とかしなければ――――おにぎり回帰の術……! 」

 痛みで酩酊する頭を割って、昨日食べた女を頭頂部から吐きだした。

「う……ハァ…ハァ…やっぱりこの女か」

 途端に楽になったところを見るに、食あたりの原因はやはり彼女にあるようだ。健康そうな見た目だったクセにどんな病気があったんだろうか。

 いや…それは後から聞けばいい。

 この女をどうにか処理しなければならなくなった。

 僕は急いで、デポットリングでおじさんを呼び出すことにした。

「おいぎり……小僧か」

 徹夜明けのせいかおじさんの呂律(ろれつ)が若干怪しい。早いところ要件(ようけん)を済ませよう。

「…徹夜明けに失礼します。おじさん、現在医官として働いている皮娘と連絡取れますか? 」

「同じクラブに所属している蟲繰族(コックリ)の娘であってるか? 」

「えぇ、その方です」

 主治医すら呼べないこの町では、治療はおろか、薬の調達すらままならない。怪我や病気には十分気をつけていたはずなのに、まさか食あたりを起こすとは思いもしなかった。

「今彼女に繋ごう」

 それからしばらくの後、懐かしい友人の声が聞こえてきた。

「おいっす~、風紀委員長? 」

 僕をその肩書で呼ぶのはおそらくもう貴女だけだろう。別に気にはしないけれど。

「お久しぶりです、皮娘。それに『元』風紀委員長ですよ」

 僕らは卒業したのだ。昔の肩書きで呼び合うのはもう難しい。

「あそっか。それで? どしたの? 」

「あなたの魔物を一匹お借りしたいんです。任務とは少し違う用途なのですが」

「ほほう。訳アリというワケですな」

 話が早くて助かる。やはり彼女に連絡を入れて間違いなかったようだ。

「もちろん、何かしらの形で報いるつもりではあります。ただ少し、今急いでいて」

「何かやらかしちゃったんだ? 」

「…お恥ずかしながら」

「いいよいいよ。それで? どんな魔物がお望み? 」

「人間の女性に余計なことを喋らせないようにしたいんです」

「私を頼るということは、殺したり、食べたりすることは出来ない相手ってことよねー…でも傷つけるぐらいならオッケー……」

 そこまで分かってくれているなら話は早い。

「準備にはどの程度必要ですか? 」

「今ある魔物で問題ないと思うわ。今から持っていくから待ってて」

「今からってどうやって…」

 そう言い終わる前に、デポットリングからポータルが開くと、中からどろどろとした液体の詰まった皮袋が零れ落ちた。

 そしてやがて不定形だったそれは、人の形となって僕の目の前に姿を現した。肌色の作り物めいた顔は薄ら笑いを浮かべていて、両手をグーにして顎の前に持ってきてぶりっこのポーズをした。どうやら登場ポーズのつもりらしい。

「ご機嫌よう。謹慎(きんしん)で卒業式に出られなかった風紀委員長」

 そう言って彼女は黒のナースキャップを取って挨拶をした。

 彼女の種族は蟲繰族(コックリ)という。動物の皮膚に寄生して生きる珍しい魔族だ。依代には様々な動物が選ばれるが、今回は人間に寄生しているらしく、動きもまるで違和感がない。今回はそんな彼女の飼うペットに用があった。

「なんですかその挨拶。まだ恨んでるんですか? 」

「べっつにー。最後はちゃんと皆卒業出来たし」

 よかった。どうやら別に彼女は怒っていないらしい。昔のことを根に持っているようなら話もし辛いところだった。

「相変わらず奇抜な恰好が好きなようですね」

 そう言うと、彼女はぴょんぴょんと跳ねてそのツインテールを揺らしてみせた。

「可愛くない? テンション上がるから、最近はコレなの」

 ターンをしてツインテールと共に黒衣を見せる彼女に不思議な感動を覚えた。

 なるほどこれは完成度が高い。

 ただ可愛いかと言われれば疑問が残った。

 寄生もとの顔はどちらかというと、美人顔だ、人間の女性で…四十代前半ぐらいか? が、ツインテールを振り回しながら黒のナース服を着てはしゃいでいる。

 彼女の寄生もとの尊厳を破壊するスタンスにはある意味感動すら覚えるが、やはり可愛いとは程遠いように思える。可愛いへの冒涜だ。

「確かに似合ってますね。僕の次に可愛い」

「えっ、おにぎり小僧君ってまだ可愛いキャラで頑張ろうとしてるの? 伊達メガネでもかけて鬼畜眼鏡おにぎりとして生きて行けば安泰なのに…」

「ははっ。ご冗談を」

 僕こそがプリティーだ。魔王様のお墨付きもいただいている。そうだというのに、皮娘は僕の言葉を無視して、部屋で目的の物を探すように目を走らせていた。

「―――それはそうと、例の人間って言うのはその子? 」

 皮娘は僕の後ろで寝ている町娘に視線を移す。

「なぜか彼女を食べたら、お腹を壊しまして。予想はつくのですが、体内ですでに治療してしまったので、原因がなにかはわからずじまいという状態です」

「娼婦でしょ? 梅毒(ばいどく)じゃない? 」

 考えないようにしていたことをぴしゃりと言われて、頭を抱える。町娘が抱えている病気で腹を下す原因になりそうな物といったらソレとクラミジアぐらいだが、どっちにしろ言葉にはして欲しくなかった。

「あえて明言を避けていたのに……」

「あ、ごめん。そっか……梅毒にかかった人間食べてお腹壊しちゃったのか」

「もう……最悪です」

 軍服のポケットに手を入れて天を仰ぐ。今は何も考えたくない気分だ。

「ボディの方は問題ないの? 検査しておく? 」

「…いえ、まだ少しバタついているので」

 そう言うと、皮娘は残念そうに肩をすくめた。

「そっか…それじゃあクラブの集まりもまだしばらく後になりそうだね」

「クラブの食事会ですか。…僕の日程が一番調整できると思いますし、貴女のところは確かシフト制でしたね。他のメンバーは…」

「生徒会長と部隊長は日勤だね。我らが倶楽部長は…なにしてんだろ。わっかんないや。……庶務(しょむ)とは、そう言えば卒業してからまだ連絡とってないなぁ」

 皮娘は腕を組んで、頬に指をあてながら、クラブメンバーが今どうしているか思い出しているようだった。

 学生時代は週に三回は集まっていたクラブも、皆が別々の場所で働くようになってからはそれも難しくなった。

 それでもこうして集まろうとなっているのは、クラブメンバーの女性陣が連絡を取り合ってくれているおかげだろう。有難い話である。

「おや、意外ですね。庶務と言えば、一番の仲良しは貴女だったと記憶していたのですが」

 庶務、魔族名は箱神族(ミミック)。我々クラブメンバーの中でも率先して雑用をしてくれることからそう呼ばれるようになった温和な青年だ。

 学生時代は皮娘と仲が良かったはずだけど……驚いたな、まだ連絡も取っていないなんて。

「意外にお互い時間が取れなくてね~」

 そういう彼女の顔は、少し昔を懐かしんでいるようだった。

「…皆さん新しい環境になれるのに頑張っているようですね。…ではシフト表貰えますか? スケジュールをコチラで調整するので」

「いいの? 」

「こういうのは、僕の仕事でしたからね」

 幹事やスケジュール管理は、俱楽部長(クラブリーダー)の横でよくやっていた。今さらこの役割の代わりを見つけるのも面倒であるし、僕がやるのが一番手っ取り早い。

「そっか。じゃあそれはお願いするとして…私は私の仕事をこなしちゃおっかな~」

 皮娘はそう言って、口の中から細い線のような魔物を引っ張りだすと、それを町娘の腕に押し付けた。

 すると魔物は命令もされていないのに、自発的に腕の中から皮膚を通って脳みそまで移動していったのだった。

「こちらがすることは? 」

「さっき彼女の中に入った魔物の親を腕に付けて貰えれば」

 彼女はそう言って別の魔物を口から吐き出した。先ほどの線のような魔物とは違う、カタツムリのような見た目の魔物だ。

「この魔物は? 」

 軍服の裾をめくり魔物を這わせると、すぐにその魔物は眠るように動かなくなった。

「インフォデンデンって言って、魔族が改造して作った魔物なんだ。その子の宿主はさっき女の子に付けた、コードツブリって魔物相手に一方的に命令できるの」

 便利であると同時に、かなり危険な魔物だ…。取り扱いには十分注意が必要だろう。

「コレでよろしいですか? 」

 寄生された場所を擦ったり、押したりしながら、死んだりしていないかを確認する。

「うん。あ、でもそうだ。おにぎり小僧君には特別な注意があるの。彼女への命令はおにぎり小僧君の体でないと有効じゃないから。もし、変身をして別の体になったら…」

「命令を利かなくなる? 」

「そういうこと。だから、もし変身するってなったらいくつかの命令を先に彼女にしておく必要があるのね。本来自分の体を失うなんてことあり得ないんだけど、おにぎり小僧君はあり得るからさ」

「親の魔物を必要としないで動かせるものはないんですか」

 そう言うと、彼女は流し目でその質問には答えなかった。あるならそちらに変えて欲しかったが、実験サンプルが欲しいとかなんとか言って、結局返品できなかった。

「無茶するんだから、そのぐらいの縛りがあった方が丁度いいんじゃない? 」

「別に無茶をしているつもりはありませんよ」

「おにぎりボディを脱いだら、おにぎり小僧としての能力は何も使えなくなるんでしょ? 」

 その通りだが、人間が周りにうろついているような状況で口にしてほしくはなかった。これで僕が殺されたら彼女のせいで間違いない。

「むぅ……では、しばらくコレというワケですか」

「そうなるわね。…あっ、早速目が覚めるみたい。いい? 命令は端的(たんてき)に分かりやすくがポイントよ。相手の知能レベルで理解出来ない命令は、効力がないから気をつけて」



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