3.デポットリング
「ヨシ、それでいい。そしてもう一つ仕事がある」
クロックドムッシュは、骨と蜘蛛の糸で出来た小さなドクロの指輪を渡してきた。
「こちらは? 」
中指にはめると、指輪は不気味に赤く輝いた。
「それは魔王様の一部を使用して作られた、デポットリングだ。これには特別な力があって、魔物の村にある魔王像にかざすと、城にいらっしゃる魔王様と力をリンクさせることが出来る」
「魔王像というと、あの都市中央にあるあの? 」
市場が開かれていたりするあの魔王像のことだろうか。
「魔王像は知っての通り、魔族が魔王様を身近に感じるためのものだ。しかしそのほとんどが勇者によって力を失ってしまい、我々の団結は揺らぎつつある。だが、デポットリングさえあれば魔王像を再び稼働させることが出来る」
そうすれば、勇者によってバラバラになった魔族も再び群れとして動くことが出来るようになると、クロックドムッシュは付け加えた。
「そして力が届く範囲であれば、像を通じて<大規模転送システム>を構築できる。ここの城下町にあるモノをお前も見たことがあるだろう」
確かにこの魔王城の下には、各地に軍隊や資源を送るための巨大なゲートが設置されている。
野良の魔物や人間がいる道を飛ばしてモノを輸送するための、生活に必要なインフラだ。
それを他の土地にすむ魔族たちも利用できるようになれば、復興はそれだけ早まるだろう。
これは思った以上に重要な仕事を任されそうだ。
「それと、デポットリングにはもう一つ機能がある。指輪を嵌めた状態で耳にかざしてみてくれ」
「こうでしょうか? 」
指輪を嵌めてから耳に付けると、魔王様の声が聞こえてきた。
「アーアー…コホン、予の声が聞こえるか、おにぎり小僧」
「……魔王様の声が聞こえますね」
「どうやら上手くいっているようだな。予の影響下にある地域では、我々も卿に助言できる。送ってほしい物資があれば、デポットリングを通して申請するがよい。できる限りの援助を約束しよう」
大役をいただけただけでも十分なのに、さらにこんな秘宝まで預けてもらえるなんて、魔王様には感謝しきれない。
そしてクロックドムッシュが何かを思い出したかのように口を開いた。
「そうだ、一つ忘れていた。道中、行く手を阻む《《冒険者》》という危険な集団に出くわすかもしれない。そうなった時は、まず逃げてくれ。他にも魔王様の支配下にない魔物も増えてきている。旅は危険なものになると思ったほうがいい」
「かしこまりました」
そうして立ち上がろうとした時、クロックドムッシュは手を前に出して止まるよう促した。
「まて、魔王様から貴殿に選別がある」
魔王様は玉座から立ち上がると、指を鳴らす。
すると天井からなにかが降ってきた。
「この壺を持っていくがよい。割れず欠けずの壺だ。どんな衝撃を与えてもその壺が割れることはない。塩を入れて保管するといい。本来であればもっと先立つものを支援したいところだが、今の予ではこれが限界だ」
魔王様はそう言うけれど、長旅のため、なるべく軽装が好ましかった。水や食料は道中に確保できるし、お金などを貰っても次の町に行くまで使えないから邪魔になる。きっと魔王様はそんな配慮も兼ねて、これだけの装備で行かせて下さるのだ。
感謝こそすれ、不十分などということはあり得ない。
「なにをおっしゃいます魔王様。これほどのご支援、恐悦至極に存じます。この大命、必ずや成し遂げてみせましょう」
その言葉に魔王様は無表情で頷かれた。
そして魔王様に代わってクロックドムッシュが前に出る。
「…はじめに復興に向かってほしいのはコボルトの村だ。近くにある人間の町からは多くの冒険者がコボルトの討伐に来ているらしい。城から最も近いそこへ、手始めに行ってもらいたい」
「かしこまりました」
魔王様は手を前に出して、クロックドムッシュに下がるよう指図すると、咳を一つして復興の旅を激励して下さった。
「我々魔族の未来はおにぎり小僧、卿の手にかかっていると言ったら……過言だが、とても助かることには違いない。どうか頑張ってほしい」
そこまで言われては頑張るしかない。
お腹のそこからフツフツと、忠義が泉のように湧いて出てくるのを感じた。