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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
26/64

26.公衆浴場にて

 町の浴場は他の施設と違い、木の柵で中が見えないように作られていた。

 そして柵の中には、恐らく町の中でも一位二位を争うほど大きなレンガ造りの平屋が立っている。

 なにをそんなに囲う必要があるのかと思いつつ中に入ると、辺りはめかしこんだ女と服を着ていない男で溢れていた。

「風呂ってそういう……?」

 人口密度の高さと流動の激しさで言えば、この町一番だろう。

 五十人前後の人間が出入りを繰り返しているのはもちろん、そこで働く人々も様々なようだ。

 温度調整をする火夫(かふ)掃除夫(そうじふ)はもちろんのこと、薬剤師やマッサージ師なんかも勤務している。

 つまりここは人間が日頃の疲れを労うための、癒しのアミューズメントパークというワケだ。

 見たところ貴族のような身分の高い人間はいないようで、そのおかげか庶民憩い(しょみんいこい)の場となっているようだ。

「お前さんも自分で女に声かけて遊べな」

「おおい、ココで別れんのかよ」

「あたりめえだろ。なぁんでお前と一緒に風呂に入んなきゃいけねえんだ」

「……確かに」

「お前が女選び終わるまで見といてやるから、とっとと決めちまえ」

 思ったよりも早い別れに困惑しつつ、ショットに急かされて僕は浴場の中で立っている女性たちに目をやった。

 湯の周りだから、誘われるまでずっと立っていられるのだろう。女たちは足を崩したり、生気なく立っていたりしている。

「うーん……」

 そんなのを相手にするぐらいなら一人でゆっくり浸かりたいものだけど、見られている以上誰かに声をかけるしかなさそうだ。

「どうした? まさか誘い方忘れたワケじゃああるまいな」

「うーん……」

「声掛けて、いくらで相手してくれるか聞くんだよ。お分かり? 」

 ショットは僕が首に下げた袋を指して教えた。

 中には幾ばくかのお金が入っており、この休日に使い切るために持参したいわば軍資金。

 足りない分は、松脂なんかを売って足しにするが無駄遣いは出来ない。

 こう言った場合、QOLの向上と値段のバランスがミソになる。

「やってみっか」

 しょうがないから、適当に湯に足をつけている女性に狙いを定めた。仕切りの向こうにいるから、もしかしたら少し高い料金なのかも知れないけれど、この際構わない。

「お、おいそっちは違うって! 」

 遠くからショットの声が聞こえたけれど、違うとはどういう意味だろう。そんなことに疑問を持ちつつ、もうその時には狙いをつけた女性に声をかけていた。

「ここによく来るんすか?」

 相手は少し困惑した様子で、胸元を手で隠す。

 湯気で顔は見えないけれど、この際別にどんな醜女(しこめ)だろうが関係ない。

 時間が潰せる相手だと良いが…。

「衛兵を呼ぶわよ……?」

 少し驚きと警戒を含んだ声で、女性は威嚇をした。

「俺っち風呂入り来ただけよ? 」

「ナンパでしょ? 」

 女性の声に何か違和感を持ちつつ、適当にその場を切り抜けられる方便を先に考えた。

「ヘヘッ、君はそう言うのあまり好きじゃないように見えるな」

「なら話しかけないで」

 やっぱり聞き覚えあるなぁ…。

 湯煙(ゆけむり)の中、目を見開いて隣に座る女性の顔を見つめると、必然彼女と目が合った。

 冷たい瞳に、敵地のど真ん中で仲間を置き去りにしそうなその喋り方。

 間違いない。

 コボルトの村で戦った氷の魔法使いだ。

「おっとっ……とぉぉ……?」

「なに? 」

 全身の血が急速に冷凍されていくのを感じる。

 まさかこんな場所で合うとは夢にも思わなかった。

 武器は持っていないようだけれど、彼女の魔法の発動条件が分からない以上、むやみに湯の中に沈めることも難しいか。

「い………いやぁ! 外は寒くて風呂は暖かいだろ。俺っち頭がぼぉ~としちまってさ」

「女湯に来たのもそれが理由? 」

 氷の魔法使いによる意外な口撃に、一瞬狼狽(うろた)える。

 なにを言っているんだコイツ…。

 ココが女湯だって…?

 周りを見ると確かに人間のメスばかりか。

 本当に…?

 だとしたら、あぁ…、コレはかなり大変な事態かも知れない。

「む、向こうに比べて空いてたもんでよ」

 こうなったら開き直り作戦だ。イソマルト君、君は今日から変態だ。

 それに堂々としていたら、衛兵を呼ばれる事態を避けられるかも知れない。

 敵が目の前にいるせいで変に冷静な自分が、この時ばかりはとても頼りになった。

「…そう。合理的ね」

 コイツも僕に負けず劣らずちょっと変だけれど、周りには湯煙で気づかれていない以上、彼女が変に衛兵を呼ばないことが助けになった。

 けれど、まさか氷の魔法使いに助けられるなんて…!

「お湯には()からねぇのか? 」

 身を隠すためにも、僕は一足先に肩まで湯につかる選択をした。

 この湯気の中だ、禿げ頭が一つ浮いていたところで誰も気にしないだろう。

 そして少しでもバレないように、目元の辺りまで僕は頭に乗せていたタオルをずらした。

「もう少し…慣らしてから」

 湯気であまりよく見えないが、彼女もまだココに来たばかりのようだ。

「おぉ、確かにこのお湯ちょっと熱いぜ」

「ええ…」

 それからしばらくの間、氷の魔法使いは足にお湯を掛けてたり、たまに腹部の辺りに(すく)った湯を当てたりして、湯につかる気配がなかったのでコチラから話を振ることにした。

「俺っちイソマルトって言うんだ。今日は森で作った木炭を売りにきてよ、ここへは友達の付き添いできたんだ」

「木こり? もしかしてコボルトの森の? 」

 おー、イイ食いつきだ。

 合理的だのなんだのと言う考えの相手は話がし易くて助かるな。

 適当に話をしながら探りを入れてみるか。

「おうよ。アンタは危ないから森には入っちゃダメだぜー」

「問題ない。私、強いから」

「へー、武術の心得でもあんのか」

「…そんなところ。それより変態さん、森の中で異変はなかった? 」

 嘘つき…というより、むやみに自身のことを話さないタイプか?

 それにあちらもあちらでコチラの情報を知りたいご様子……それなら罠を仕掛けて、誘導してあげますか。

「異変? 異変ねぇ……そういや最近、森のネオプロンがたくさん消えたから、なんだか森がやけに静かでよぉ」

「ネオプロンが…消えた? 」

「冒険者のやつら、増やすだけ増やして今度は一斉に駆除しちまったんだぜ。一体何がしてぇんだか、全っ然わかんねぇよなぁー」

「冒険者はそんなことしない」

「おっ? あんたギルド嬢かい。ギルド嬢は美女限定っての言うのは、本当なんだな~」

「私は冒険者。的外れもいい加減にして」

 おっと、思った以上に頭に血が上りやすいタイプなのか? 

 それか容姿を褒められることが単純に嫌な可能性もあるな。

「有名なのかい? なんて名前? 」

「…聞いてどうするの? 」

「へへっ、そうだな~~~ファンにでもなっちゃおうかしら」

「……」

 おっと彼女の表情が本当に衛兵を呼ぼうか迷っている顔になってしまった。

 ココはまた別の話題で話を()らさなければ。

「まぁ名前のことはもういいぜ。君が誰であっても君は君だ。そんなことより、森の話に君は関心があるようだから、森の話でもするかい」

「通報されたくなければ、話を安易に逸らさないことね」

 状況のせいなのか、はたまた彼女の人格に難があるのか定かではないけれど、妙な脅迫(きょうはく)を受けた。

「その代わりと言っちゃなんだけどよぉ、俺っちに町のこと教えてくれよ。一個の情報提供で一個君も俺っちに町のことを教える」

「犯罪者が偉そうでびっくり…。忠告だけど、今すぐにでもアナタを冷たい牢にぶち込むことも、私には可能だということを忘れないで欲しい」

 こんな場所で捕まってはたまらない。何とか彼女を説得しなければ。

牢屋(ろうや)で臭い飯を食べながら話すより、湯につかっている方が、何かと思い出せる気がするぜ? 」

「……話せることなら話す。でも、情報に価値がなければ、その時は彼方を通報する」

「どうぞ。お好きなようになさって頂戴(ちょうだい)よ。それじゃあ場所を(うつ)そうじゃない」

 僕はそう言って、人の少ないサウナ室を指した。

 あそこなら男女共用で、僕も捕まる心配がなくなる。

「駄目。今ここで話して」

 駄目らしい。

 確かに、彼女はまだ入浴すら出来ていないし、僕にストレスを与えるためにもここから逃がすのは惜しいと考えているのだろう。

 恐ろしいサディズムを内包している彼女には、やはりコボルト達を兵糧攻めにする案を考えた人物なのではないかとという疑惑を掛けざるを得ない。

 かといってそう聞くことも出来ないし、何とも歯がゆい思いだ。


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