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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
24/64

24.お頭ぬい

 ノッソノッソと戦亀が歩みを進める中、僕達はその甲羅の上で凍死仕掛けていた。

「い、い、いつになったらつくんだァ…」

 亀を操縦する前の方は風よけがついていてまだ問題なさそうだけれど、後ろは風よけもないし、前だけじゃなくて横からの冷たい風が直撃していた。

 もしかして彼らは僕が魔族と知っていて、拷問にかけているのではないだろうか。

「お頭、そろそろ出番です」

 戦亀のスピードが少し穏やかになると、お頭が前方で立ち上がるのが見えた。

「しゃーね―なぁー…」

 お頭が前方から後ろの狭い席まで四つん這いでやってくる。

 男連中の汗が炭の脱臭でギリギリ誤魔化せると言っても、近寄ったら流石に分かるんじゃないだろうか。

 その問いを聞く前に、お頭はウッと顔を(しか)めた。

 でしょうね。

「クッせーなァ! 」

「ナァんで狭いのに来たんだよカシラァ!? 」

 僕なら決してこんなことは言わないが、イソマルトの性格を考慮しての発言だ。出来るならこんなこと言いたくないんだけれど…。

「アンタらが寒いって言うからだろうが! 」

「それとこれと何の関係がぁ!? 」

 お頭が無理やり最後列に座ると、じんわりと周囲がなぜか暖かくなったような気がしてきた。

 ……何かの魔法か? 

「あったけぇ」

「お頭は体温高いからな。抱っこさせて貰え」

 前からホクロの声が聞こえてくる。隣で睨んでいるこの猛獣を抱えようモノなら、腕の一本や二本は覚悟するべきだが…そのことをホクロはわかっているのか? 

「…すぞ」

 お頭が小さく呟いた言葉は聞き取れなかったけれど、目は殺気だっている。

 ショットもそれが分かったのか、彼女を抱えようとはしなかった。

 しかし、その代わりに肩や手を握って暖を取り始めた。

「……」

 テメェは触るのかどうなんだ、という言葉がお頭の目から発信されている。ショットが触っても噛みつかれなかったのなら僕も大丈夫だろう。

 そう思って頭を触ろうとすると……更に眼つきが鋭くなり、肩に手を持っていくと少し落ち着いた。

 触るにしても頭はどうやらダメらしい。

 他にはおでこの辺りや顎、それに胸の辺りを触ろうとしたが、前面は彼女の神経を逆撫でする場所のようだった。

「ほいじゃ、俺っちは股でいっかなー」

 そう言ってお頭の股に手を入れようとしたら、前と横から殴られた。

 人間よく分からない。

「イソマルト、お前は手だけだ」

 仕方なくお頭の手を握ると、モフモフした枝垂桜色の毛が熱を孕んでいた。

「お頭は獣人の中でも長毛だからな。温かいだろう」

 前に座るワッサーボーンが教えてくれた。

 獣人とは人間の中にいる獣に近い姿で毛深い者たちのことだろう。

 僕にとっては長毛、無毛に関わらず等しくエサだから、そんなに気にしたことないが、彼らにとっては名称で区切るほど大事な線引きがあるらしい。

「温かいです」

「イソマルト、お前気持ち悪いからもう触らないでくれるか」

「……」

 そんなことを言われても、この動けない春の寒さが続く中で、唯一のぬくもりだ。

 ハイそうですか、と出来るものでもない。

「おい、無言で触ってんじゃねえよ。蹴り殺されてえのか」

「…モフモフ」

「ちっ…お、おい、放せ…! 」

「……モフモフ」

 握った手を振りほどこうとするので、腕を固定して逃げられないようにする。

 単独では逃げられないと悟ったのか、お頭の声に焦りの色が滲み始めた。

「アタシはもう前に戻るから。ってオイッ! ショット! コイツを放してくれ! 」

 同じ席に座るショットは、助けを求めるお頭に冷笑を浮かべた。

「カシラァ…アンタはこれから俺達に回される運命なんですよ」

「ショット貴様ァ!? 裏切る気か!? 」

 こうして人間の町につくまでの間、温かいお頭(ぬいぐるみ)を取り合う木こりのお兄さん達という地獄絵図が展開された。

 ♢♢♢


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