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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
20/64

20.分岐点

 案を考えながら狩りを続けていると、次第にネオプロンの数は減っていった。

 僕はというと、怪しげな祈祷師(きとうし)のように亡者の招き具(チーフコーリング)を振り続けている。

 傍から見たら何かに憑りつかれたように見えるが、そうじゃない。

「先輩、そろそろ獲物の回収をして引き上げませんか」

 魔王様のお体のこともある。

 疲れも溜まっているだろうし、後は全てコチラに任せて寝床について欲しい。だけど、そんな願いも聞き入れて貰えそうにはなかった。

「なにを言っている。まだ狩りに出て四時間も経っていないではないか。夜はこれからだぞ」

 元気溌剌(げんきはつらつ)と言った風に体を動かしていらっしゃる……凄い方だ。

 今から寝たとしても、起きるのはお昼頃。

 それならもう一徹する覚悟が魔王様にはあるというのだろうか。

 なんと恐ろしいバイタリティだ。

「ならせめて弓を引きます。元々森の清掃を言い渡されたのは僕ですから」

「駄目だ」

「なぜです」

「弓を引く方が楽しいからだ」

「――……?」

 楽しい? そう言う見方も確かにあるか。

 それならお止めするなんて、許されざることだ。

 最大限魔王様がお楽しみ出来るよう、サポートに全力を尽くそう。

「そう言うことなら、全力で振らせていだたきます」

 亡者の招き具(チーフコーリング)(かか)げアーアー言わせていると、その後も魔王様は喜々としてネオプロンを狩猟されていった。

 幼少期の記憶では、魔王様はよく森や海など場所を選ばず狩りをされていたが…相変わらずのようだ。

 …なぜだろう、そんな魔王様にどこか安心している自分がいた。

 ワーカーホリック並みに働いていらっしゃったので、今は無趣味なのかと不安だったが、どうやらちゃんと合間に休憩も挟んでおられるらしい。

 流石魔王様、休息の重要性も理解されておられる。

「振る手が止まっているぞ」

「…ハッ! ただいま」

 手に持つコレ(・・)さえなければ、僕ももう少し狩りを楽しめただろうけど、そう全てが全て上手く行くものでもないようだ。

 ♢♢♢

 狩りの最中に魔王様に聞きたいことがなにかあったような気がして忘れていたけど、ようやく思い出すことが出来た。

 魔王様はなぜ僕に勅命をくださったのか、その理由をまだ魔王様の口から聞いていなかったのだ。

「先輩はなぜ僕に復興大使の役目を与えてくださったのですか? 」

 ずっと不思議だったのだ。コレでようやく魔王様に直接聞くことが出来る。今なら先輩後輩ということで多少の無礼も見逃されるだろうし、聞くなら今しかない。

「不満だったか? 」

 弓を引きながら魔王様は逆に聞き返された。

「いえ、身に余る光栄ではあるのですが…その……何か理由があったのかと」

 一兵士に、それも何か特別殺傷能力の高い術が使える魔族でもないのに、この旅の任を与えられたことが不思議でならなかったのだ。

(けい)に教えるのはまだ時期早々(じきそうしょう)である」

 ヒュンと、風を切って矢がネオプロンに命中する。

「はっ…ハハッ! 承知しました」

 言っていないということは、つまり教えたくないということなのだ。そんなことも汲み取れないなんて僕は魔族失格だ。

 そんなことを思うと、頭がポーっと熱くなるのを感じた。

「案ずることはない。おにぎり小僧、卿でなければならない理由があるのだ。政治的にも、卿自身のためにもな」

「僕のため…? 」

 その言葉を最後に、魔王様が勅命について話をすることはなかった。

 僕でなければならない理由……それはまだ分からないけれど、たぶん任務を沢山頑張ったら教えてくれるだろう。

 ならば今はその時のことを考えながら、任務に励むとしよう。

 頑張れおにぎり小僧、君なら立派な魔族になるはずだ。

 ♢♢♢

 それからまたしばらく狩りをしていると、遠くで松明の光がポッと灯るのが見えた。

 コボルトは森に入らないよう通達が入っているだろうし、残る選択肢と言えば―――

「気づいたか? 」

 僕が亡者の招き具(チーフコーリング)を振るのを止めると、魔王様はそう聞いてくださった。

 魔王様は随分前から気づいていたのだろう。お待たせしました。

「えぇ、人間がコチラに歩いて来ていますね。先手をうって始末してきます」

 一キロもない辺りに、三…いや五人分の影が見える。

 こんな真夜中に何をしているのか知らないが、この人数なら夜襲というワケでもなさそうだ。

「偵察が先だ。殺すのは後からで構わん」

 腕を組み命令を下す凛々(りり)しい御姿は、月下の森にとても(まばゆ)く映えた。

 ♢♢♢

 時刻は丑三つ時を過ぎた頃。

 月も寝静まる夜に、積もらない程度の雪がパラパラとチラついている。

 木影から団体の近くまで接近すると、松明の光に照らされて男達の服装などがハッキリと分かるようになった。

「木こりだ…」

 小さな斧と縄を持って歩く男達は、防寒用に頭巾をかぶり、羊毛のジャケットに身を包んでいる。首元にはテンの皮で作られた襟巻(えりまき)が巻かれていて、足元はなめし革のブーツを履いている。

 数ヵ月前まではこの辺りは雪が積もっていただろうから、服装にその名残があっても不思議じゃない。

 男達は、空で鳴くネオプロンを追いながら森の中を真っすぐ、魔王様の元へと歩いて行っている。

 早く戻って魔王様に報告しなければ。

 すぐさま木の上からデポットリングを使い魔王様に通信を送った。

「なるほど…木こりの集団か。…良いことを思いついたぞ。おにぎり小僧。その中の一人と入れ替わり、木こりの集団に混ざってきてくれ。危険な任務だが、卿なら問題あるまい」

 その命令を待っていました魔王様。

 危険だろうとなんだろうと、魔王様に身の危険がないなら、僕はどんな死地にも赴きましょう(だからと言って死ぬのは勘弁ですが…)。

 …それに今日は魔王様に嘘をついたり、盾ついたりと色々やらかしているからな…汚名返上の好機でもある。

「承知しました。成り代わった後はどうされますか」

「人間達の間で出回っている情報を手に入れたい。小さなことでもいい、出来る限りの情報を集めて戻ってきてくれ」

 魔王様にはまだ人間が悪意を持ってネオプロンを増やしているという話をしていなかった。お伝えするべきかどうか、ずっと悩んでいる。

 そんな僕を気にかけて下さったのか、魔王様は、「なにか聞きたいことがあるのか。おにぎり小僧」と、聞いて下さった。魔王様はもしかすると、思考が読めるのかも知れない。さすが魔王様だ。

「はい、実は…」

 コボルトの村で考えていたことを魔王様に報告すると、フム…としばらく魔王様は考えられ、それから追加の任務を与えられた。

「木こりに仕事が忙しくなったか聞く…ですか」

「木を切る仕事と言うより、木炭の生産量を増やすように言われたかどうか、聞いて来てくれ」

 そうおっしゃる魔王様は、何か考えがあるのか組んだ腕の片方を顎に当てて考えている。

 でもそれは…寒いし、暖炉にくべる薪はいくらあっても足りないだろうから、需要は増えているんじゃないだろうか。

 バーベキューなんかは春先だから、シーズンじゃないかも知れないけれど…。なんでそんなことを聴きたいのだろう。

 ……いやいや、それぐらい成り代わっている時にでも自分で考えて答えを出そう。

 何でも聞くのはよくない。

 僕は駄目だな…まだまだ学生気分が抜けてないようだ。

「かしこまりました」

 木の影に隠れて男達を待つと、やってきた男達はネオプロンを狩った時に出来た大きな血だまりに驚いた。

 腰を抜かすものがいれば、奇声を上げる者も見受けられた。

 そんな少し騒ぎが起きた隙に、一人をさらって闇の中で、おにぎりへと変えた。

 数日ぶりの人間は例え寒い中であっても美味しく食べることが出来た。



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