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美少女おにぎり  作者: 星島新吾
1章 デビルサイド編
15/64

15.滅びへのカウントダウン

行儀(ぎょうぎ)の悪い」

 机に置かれた足を見てお婆さんがそう言うので、僕は足を下ろして彼女の方に椅子(いす)ごと向き直った。

「どうかされましたか? 」

「報告書じゃ…きちんと働かぬ者にはメシはやらんぞ」

「…はい」

 さっきまで働いていたのに、どうして仕事を止めた途端に入って来たんだ。

 仕事中に来てくれたら、そんな顔されずに済んだのに。

 申し訳なさを顔に出しつつ、報告書を受け取る。

 青の紐で巻かれたスクロールには、どこか神秘的な雰囲気がある。

 この資料は他の資料とは違う。

 直観(ちょっかん)がそう告げた。

 開いてみると……コレはァ!?

 間違いない、この美しい書体、この報告書は間違いない。

 魔王様の手書きだ!

「おぉー…この量、徹夜(てつや)されたのですね魔王様! 」

 申し訳ないが、昨日は泥のように寝てしまった。

 そんな安眠中に作られた一品に僕は手を合わせてから、普段の二倍の時間を掛けて、一文一文読み進めていった。

 凄く暗い内容だけれど、スタイリッシュでコケティッシュ、クリエイティブでスマートな文章だ。

 あぁ、素晴らしい! 

 何度も読み返して、脳にこの報告書を刻み込まねば!

「アァ! 素晴らしい報告書です魔王様!!! 」

 えーと、内容としては何でしょうか、コボルト村の『約7割』が消滅した―――フムフム、なるほどなるほど………?

「…ふぅ」

 火照った体に冷水をかけるような内容に、一旦冷静にならざるを得ない。

「…どうやら事態は深刻のようですね」

 詳細を見るに、冒険者によって森に近いコボルトの村から滅ぼされていたようだ。

 死体の状況から見ても、コボルト包囲網(ほういもう)が作られてからかなり経過しているようだし、コボルト達の奮闘の成果と言いたい気持ちもあるけれど、わざと残されていると考えるのが妥当だろう。

 考えが正しければ、もう僕達は人間達の罠にかかっていると言えるだろう。

 後は冒険者がまたココにやってきて、いつもとコボルトの様子が違うと分かれば、戦いはすぐにでも始まる。

 そう思うと、姿を彼らに見られていないのは幸運だったかも知れない。

 復興に来ていることがバレたら、すぐにでも冒険者達は襲撃(しゅうげき)の準備を始めることだろう。

 次にまた冒険者が来るまでどのくらいか知らないけれど、この時間の過ごし方でコボルト村の未来も、その奥にある魔王城の未来も変わるかも知れないな。

「―――それにしてもこの作戦を考えた人間は凄い。ここまで徹底して冷徹に動けるなんて、恐怖を越えて感動すら覚えますね…」

 ネオプロンを使った森全体の生物根絶からの、間接的にコボルトも絶滅させる一歩手前まで追い込んだ後に、相手を敵陣から引っ張ってきてから、自分達の有利な地形で戦おうとは。

 一体何手先まで見えているのか分からないその冷静さに、僕はなぜか、あの氷の魔法使いの顔がチラついた。

「なぜかな、一番始めにあの女冒険者の顔が浮かぶ…」

 全てが全て、あの氷の魔法使いのせいというのは、流石に私見が過ぎるか。

 冒険者を束ねている親玉が命令を出していたり、それこそ人間の王様が命令を出していたりということだってあり得る。

 なにせ、第二次勇者侵攻で勇者は魔王様に敗北して戦死したのだから。

 誰が指揮系統を握っているのか、分かったものじゃない。

「かといってその証明が出来る資料も…当然なさそうか」

 これ以上偏見で資料を見ていると、流石にあらぬ方向に思考が飛躍(ひやく)しそうだったので、一旦切り上げることにした。

「確証がない以上、報告も先延ばしだな…」

 下手をすれば軍の大移動に繋がる選択だ。

 自分の中で八割以上そうだと思っていても、報告するのは緊張する。

 進軍にも莫大なコストがかかるし、コレがもし『全然関係ないことでしたーわっはっはー』ってことになれば僕の首がとぶ。

 初任務ということもあるし、今は少し客観的に資料を見れるまで休憩を取るべきだろう。



 そう思い資料をまとめると、息抜きにダンジョンの最下層にやってきた。

 村の広場で魔王像のある場所だ。

「流石にお腹が空いてきたな……」

 広場で話をするコボルト達を見ながら、そう独り言を(つぶや)いていると、

「おい、おいぎり! 」

 後ろから幼い声が聞こえてきた。もしかして僕のことを呼んでいるのか?

「僕はおにぎり小僧です。おいぎりなどでは……」

 ガリガリに痩せこけたコボルトの子供が立っていた。

「メシくれ! 」

「申し訳ありませんが、現在配給されている分は全てです」

「それ食わせろ! 」

 コボルトの子供は僕を指してそう言った。

猟奇的(りょうきてき)な発想ですね。やめておいた方がよろしいかと―――」

「ガブッ」

 子供の姿が視界から消えたと思った瞬間、頬の辺りの米粒がゴッソリ減る感覚を味わう。

「はっ!? 」

 コイツまさか、僕の顔を食べたのか?

「おいぎりウマーーーい!! 」

 無邪気な子供の顔に比べて、今の僕はどんな顔をしているだろう。きっと化物を前に震える魔族の顔に違いない。

 一目散にコレから離れなければ……食われる!

「一体どんな環境で育ったら頭を食べるなんて発想になるんですか! 」

「グルルルゥ……もっと食べたい…」

 キラリと光る目に、自己防衛という言葉が脳裏をよぎった。

 目の前にいるのは雑食の悪魔だ。

 これ以上食べられないためにも、ダンジョンの外へと僕は走った。

 冒険者の意図がどうであれ、ネオプロンが増えていることは事実だ。

 丁度いいのでコボルトから逃げた次いでに、命令されていた森の清掃をやってこよう。



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