14.最悪のシナリオ
冒険者騒動のあった翌日。
仮設営されたテントの一つで、僕は腹を空かせながら資料と睨めっこをしていた。
集めた資料は、僅かな事実と多くの憶測だけ。
現状わかることは、ネオプロンという存在が冒険者によって増えているということだけだった。
父の知り合いのコボルトが、実際森で被害を受けた上での報告だ。
信用していいだろう。
それ以外は集めた資料から読み取る他にないようだった。
少しでも情報が転がっていないかと、コボルト達によって提供された情報を精査していく。
すると、様々な死体発見の報告から、奇妙なことが森で起きていることが分かった。
「冒険者が増やした森の死体…いくら何でも散乱し過ぎなような……」
死体が森全体に撒かれているかのように、発見されていたのだ。
死体の数も多いため偶然ということも一瞬考えたが、少し気になって手元にあった地図を使い、死体の発見現場を囲ってみることに。
「偶然では…ないようだ」
確証を得るためにネオプロンの目撃情報と照らし合わせると、やはり森の中央から均等になるように巣が形成されていることが分かった。
そんなことが偶然起こるワケもないので、作為的にネオプロンの餌となる死体が森全体に放置されているとみていいだろう。
コボルト以外にこうしたことが出来るのは人間以外には考えられない。
すぐに森の中で人影を見ていないか、資料を探した。
「…あった」
イヤな予感を裏付けするかのように、冒険者が異臭のする袋を運んでいたという情報も上がってきていた。
森の外に運ぶならまだしも、森の中で死体を引きずるなんて無意味なことを彼らがするはずがない。
宗教的儀式か、森の中に野営地があるなど考えられるが…だとしたらもっと他の痕跡も見つかっていないとおかしい。
それでしばらく考えて、馬鹿馬鹿しい話だけれど、こんなシナリオを考えついた。
冒険者達は楽しそうに、森で狩りをする。
『元々敵が占有していた森だから、生態系が壊れても全然気にせず狩猟出来るぞー。やったー』
嬉し過ぎた人間達はつい沢山の魔物を殺し過ぎてしまいました。
「あっちゃー、コロし過ぎちゃって運べないやー。うーんどうしよう。そうだ! 森の掃除屋さんに食べて貰って綺麗にしよう! それでもっと効率よく食べて貰うために、餌やり感覚で森に臓物ぶちまけちゃおーぜー」
何も考えず冒険者達は森にネオプロンの餌を撒きすぎてしまいました。
そうして増えたネオプロンでは、当然腐肉が足りなくなり、餌不足に陥ったネオプロンは、食料を求めて腐肉だけではなく、他の魔物や動物にも手を出し始めてしまいました。
―――と、それを観察していたある人間はこう考えました。
「うわーい沢山のネオプロンがコボルト達を攻撃し始めたぞー。もしかしてネオプロンがいれば、コボルト達は森の中に入ってこれないんじゃないかー? よーし、沢山増やしてコボルト達に嫌がらせだー。あっはっはっはー」
と、いうシナリオだ。
…いや有り得ないか。
これではいくら何でも狂人過ぎる。
それに森は全ての生き物にとって大切なモノのはず。
ネオプロンだらけになれば、人間側も困ってしまうだろう。
腐肉を漁るネオプロンが彼らにどう映っているのかは知らないが、増えたところで互いに良いことはないはずだ。
ソレに魔王城に最も近い人間の町だ。
なら強い冒険者だって他の町より多いはず。
コボルトを困らせるつもりなら、余計な手間を掛けずに力技で攻めるほうが効率的だろう。
やはり違う何らかの意図があってネオプロンは増えているのだろうか…。
「……何か大事なことを見落としているんだ、きっと」
そんなことを考えながら、僕は書類で溢れる机に脚を置いた。
家だったら母上に怒られるようなことも、誰もいない作戦室なら問題ない。
天井の燐光を眺めながら、ボーと考える。
考えたって特に何か浮かんでくるようなことはないのだが。
たまにやって来る天啓をじっと待った。
グゥー。
先に腹が音を上げてしまった。
…そう言えば、この数日あまりご飯を食べれてないな。
コボルト達も皆ネオプロンのせいで狩りが出来なくて、餓死しそうって言っていたし。
皆食べ物に困っているな…………………いやいや、なにを今さら。
だから僕達が来たワケだし。
そう思った瞬間、未知の恐怖が全身を駆け巡った。
「―――まさか」
今までの出来事が次々と、頭の中を駆け巡る。
この村に来た時から今に至るまでの偶然だと思っていたことの数々が、点と点で繋がり始め、心を騒ぎ立てた。
”またくだらないシナリオを考えついてしまった”
そう思って苦笑いを浮かべるも、妙に辻褄があってしまい、その苦笑いも霞のように消えた。
「補給部隊を呼び込むことが目的なのか? 」
空腹に現れる妙な集中力が、僕にこの妄想を描かせたのだろうか。
それはわからないけれど、今一度自分の中で言葉として落とし込む必要があるだろう。
話は森での食料調達を絶たれたコボルト達が、別の何らかの方法で食料の確保が必要になるところから始まる。
ネオプロンの繁殖により、森がダメなら海とコボルト達は考えるだろう。
しかし、コボルト達はすぐに諦めることになる。
極北の海は、生命がその場に立ち止まることを良しとはしないからだ。
竿を持って釣りでもしようものなら、そのまま氷像になるなんてこともあり得る寒さ。とてもじゃないが、コボルトを養えるほどの食料を確保することは難しい。
今度は人間達を…と考え、それは当然返り討ちに会ってしまうので断念。
となると、もう残るは後ろにある魔王城に支援を要請するしかなくなる。
もちろん支援を求められた我々は、当然魔王城にある戦力の一部を、コボルト村に割かなければならなくなるワケだが…。
「人間側がこの考えに至らないワケがない」
誰だって死が間近に迫っていて何もしないなんてことはあり得ない。
人間達はコボルトを飢餓状態にして、助けが来るのを待っているのではないだろうか。
それだと人間達の行動にも辻褄があってくる。
冒険者達は補給路を伸ばさなくて良くなるし、ダンジョン型という数の利を生かしにくい場で戦えるという利点も出来る。
しかも我々はダンジョン内で戦うため、最悪分が悪くなれば生き埋めにも出来るだろう。
人間達にとって、イイことずくめのような気がしてくる。
「―――たまたまおバカな冒険者達が狩りをしていたら、いつの間にか森に死体が増えていて、それでたまたまネオプロンが増えてしまいコボルト達が苦労している。なんて真相だったら最高に面白くて泣ける話になのですが……ふふっ」
そんな楽しい現実逃避をしていると、テントの中にククル村の村長が入ってきた。




